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とある夏の物語  作者: 六条
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Days1:放課後、二人きりの教室にて。

「あぁぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅいぃぃぃぃぃ!!」

イオが雑にまとめた髪をさらに振り乱しながら、元気よく窓の外の青空めがけて叫んだ。目が痛いくらいさんさんと、太陽が燃え盛っていた。いよいよ、夏が来た。

それにしても、お正月に『今年の目標』として掲げていた「おしとやか」はもうどうでもいいのだろうか。いや、絶対忘れている……。町内大声大会優勝という経歴を持つ声を張り上げ、満足げに、イオは乗り出していた体を教室内に戻した。

「日誌終わったー?」

何事もなかったお顔で振り返ってくる……。「今ちょうど」と答えながら、オレは日誌を閉じた。今日の日直だったのだ。

「ではお主に、このあたしにアイスをおごるという名誉を授けよーう!」

「いや、オレはこのあとちょっと部活に顔出したいんだ」

えっへんと胸を張るイオ(夏服はシャツ一枚なので色々強調されて大変なことになっている)からさりげなく目をそらしつつ、オレは席を立った。

「な!?」と元からぱっちりとしたイオの目がさらに大きく見開かれる。

「な、なんでそれを先に言ってくれないのあんた……暑い中あんたの日誌を待っていたあたしのアイス期待値チャージはどうなるの……」

アイス期待値チャージってなにさ。どうなるのそれ満タンになったら―――と尋ねる間もなく回答が、ちょっと離れて助走を付けてから……

「とぉーう!」

と、オレの顔面めがけて飛んできた!

スカートがめくれ上がってスパッツが丸見えなのはどうでもいいことらしい。やっぱり「おしとやか」なんて頭からキレイに抜け落ちている! じゃあどうして立てたんだそんな目標!

ともあれオレはイオのおみ足ミサイルを間一髪で避け、的を失った制御不能ミサイルはそのままいくつもの机とイスを犠牲に停止。ドンガラガッシャンと凄まじい音に、オレは耳を塞いだ。先生が飛んでこないといいけれど……。

「イオ、大丈夫?」

静かになった机の山からにゅっと白い腕が二本生え、「アイス万歳!」と叫んだ。あまり心配はしてなかったけど、まあ良かった。オレは近寄って、その両腕を掴んだ。すぽんと野菜よろしくイオが引っこ抜けた……と思いきや。

「油断したわねー!?」

「うわっ!?」

足で机の山を蹴り、今度は頭からオレに突っ込んできた!

オレはその頭突き攻撃を、さっきと同じように体を逸らして避けようとした。なぜかイオの両腕を掴んだまま。

「へっ?」とイオ。

「うわぁ……」とすべてを悟ったオレ。

二人分だからだろうか。さっきより凄まじい音を立てて机とイスをなぎ倒した……。


星がちかちか瞬いている。思いっきり後頭部から倒れてしまったけれど、結構な石頭だから問題はないだろう。現にこうして意識はあるし。

それよりも……とオレは腹に乗っかっている、意外と重量のあるものを首を起こして見た。

「いったぁー……ちょっと封魔(ふうま)、なんであんたあたしを引っ張……る、の、よ……」

と言いつつ上体を起こしたイオと、オレの目が合う。大変不健全な体勢(つまり、今まさにイオがオレを押し倒しその上に馬乗りになっているかのような姿勢)を認識して、瞬時に凍りついた。

「えーと……」オレは口を開くけど、何を言ったらいいのか……。迷っているうちに、向こうの口はゆっくりと発射態勢を整え―――

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

彼女は大声大会で優勝したけれど、その声が何デシベルなのかは実は分かっていない。なぜなら、あまりの大音声に大会の測定器がぶっ壊れてしまい、それで自動的に優勝と決まったからだ……。

イオはぴょーん! とありえない高さのジャンプでオレから飛び退き、教室の隅からフーッと威嚇音を発している。なんかオレが襲ったみたいになってるぞ!?

重りから解放されたオレはよっこらせと立ち上がりつつ、

「……アイスは、二段までね……」

「なんと!」と、オレの提案にイオが目を輝かせる。獣耳があったらぴょこんと跳ねさせていたことだろう。

「ぃやったぁー! 封魔、愛してる!」

「はいはい、都合の良い時だけ愛してくれてどうもどうも」

「そぉんなことないわよー」とイオは上機嫌に、なぎ倒しまくった机とイスを直しにかかる。オレもそれに加わりながら、こっそり、財布の中身を確認した。

……今月の食費、ピンチ!

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