「うそつき 弍 」
つまり僕達は、詐欺を働く妖怪の根城を突き止め、さらにそれを撃退するという、仮に成功すれば警察から感謝状なり何なりが貰えるぐらいの仕事をするつもりということになる。たかだか部活で、ここまでやろうとする高校生が、しかも男女二人組が今までいただろうか。つい最近まで妖怪などその他諸々の都市伝説や怪奇現象なんて、全く信じていなかった僕ではあるけれど、これはもう、そういう次元の話ではない。下手すれば本当に死ぬんじゃないか、とまで考える僕であった。しかし黒川さんの方はというと、むしろ子供のように目を輝かせて、今回の件の情報を整理しているのであった。もしかすると黒川さんは、かなりとんでもない人物なのかもしれない。
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翌日
結局昨日は、黒川さんが一方的に詐欺について調べあげ、それを僕は諦観しているだけという感じで終わってしまった。黒川さんは話しかけても全く反応してくれず、ただひたすら資料とにらめっこしていた。あの集中力なら、胸を触ったって気付かれなかったかもしれない。御門一縷、一生の不覚。
「おはよう御門くん。」
何となく学校までの道を歩いていたら、後ろから僕を呼ぶ美声が聴こえた。言うまでもなく黒川さんである。
「おーおはようございま……って清水!?」
「おっはーみかどくん!」
「あ、ああ、おはよう。」
なんで清水と黒川さんが一緒にいるんだ?
「言いたいことは分かるわ。御門くん。実は彼女ね……」
「うち、詐欺あっちったー!」
ぬ、ぬおおおお!?
「は!?おま、おまえ、マジかよ!?」
嘘なんじゃないかと疑うぐらい明るい声で、しかも割と大きめの声でそれを言うから、周りの人たちが振り向いたのは言うまでもない。詐欺ってまさか、チーム天邪鬼(仮)のことか……?
「どうすんだよ!てか、どれ位取られたんだよ!?」
「あー、そういうことじゃないの。詐欺師?っていうの?から電話がかかってきて、それでうちのお母さんが追い返したーみたいなかんじ?」
ということは、失敗したのか……?
「御門くん。その詐欺師、清水さんのお母さんの話だと、どうやら貴方の声に似ていたそうよ。」
「なんだと!?」
詐欺師の声が、僕の声に似ていたということは、やはり、『天邪鬼』なる妖怪が実在し、悪事を働いているということになるのだろう。だが、なぜ僕の声を「使えた?」どこかで僕が、天邪鬼と何かしら関わりをもっていたのか?僕が、知らない間に。
「お母さん、みかどくんのこと気に入ってるから、『みかどくんはそんなことする子じゃない』なんて怒鳴って電話切ってたよ。というかそもそも、みかどくんの家の番号と、みかどくんの携帯の番号は、うちの電話帳に登録されてるから、番号から偽物ってわかったんだけどね。まさか、ここでお母さんのストーカーっぶりが活きるとはねぇー。」
そういえば清水の母親は僕のことやたら気に入っているんだったな……前も食事に誘われたし、何なんだろうかあの人は……
「兎に角、放課後清水さんも入れて部活で詳しく話し合いましょう。」
「そうですね。じゃあ、また。」
とりあえず僕達はそこで別かれた。
「清水も災難だったなぁ。」
「うん。私その時お風呂入ってたからさー。」
清水の入浴シーンを想像してみる。勃った。
思えば清水は、このうるさい性格を除けば、案外可愛いし、スタイルもいい。いい匂いもするし、運動もできるし、絡みやすい性格なので、男子がよく自分から遊びに誘ったりするのも、なんとなく分かる。
「ん!今私のお風呂想像したでしょ!えっち〜!」
この女……!
今日分の授業が終わった。昨日は長い間読書したり、絵を描いたりで趣味に耽っていたので、寝不足で授業は殆ど聴いていない。
自分の今日のノートを見返してみると、蛇のような文字がひょろひょろ綴られていた。
「うっし。清水ー。いくぞー。」
「まってといれ!」
今朝のこともそうだが、こいつにはまるで恥じらいがない。あれだ。もしセックスしたらつまらないタイプだ。
「ん!じゃあいこっか!」
「おう。」
教材室の前の廊下に着くと、叫び声が聴こえた。いや、叫び声というか、まあ、びっくりした風ではあった。
「うおお!?」
黒川さん、そんな声出るんですね……
「うびゃぁ!なに!?」
おまえもどっからそんな声出るんだよ……
ともあれ、黒川さんが心配なので、教材室に駆け込んだ。すると、どうだろう。教材室はもともとあまり整理されていないのに余計に荒らされていて、全く酷い有様である。そして机には、この辺りの建物のものであろう住所が、割と汚い字で書かれていた。
「うっわ、ひどいっすねえ……これまさか……」
「あ、あ、天邪鬼が来たのよ!すごいわ!直接あっちから来るなんて!清水さんのお母さんに返り討ちにあった事が、そんなに憎かったのね!」
膝を震わせながら、かなり興奮気味に黒川さんが喋っているのを横目に、清水は口を大きく開けて放心している。
「この住所!詐欺師のアジトってこと!?」
天邪鬼っていうのは、馬鹿なのだろうか。わざわざ学校までこんな仕業……いや、まてよ。なぜ学校がわかった。なぜ教材室がわかった。清水母に返り討ちにあっただけで、わざわざ学校を突き止めたのか?教材室がわかったということは、オカルト研究部の存在も知っているのか?一見馬鹿のような荒らしだが、これはそうとう……
「み、御門くん!行きましょう!ここに!今すぐ!」
妖怪からの直々の挑戦状に、どうやら黒川さんも大興奮らしい。
「うわぁ!たのしみぃ!」
僕は、二人の幼い子供を持つ父親のような気分になった。まるで今からテーマパークに遊びに行く子供のような、可愛らしくも少し面倒な印象を受けた。
一時間後
僕らはその住所を目指して歩いていた。
いつもはその巨大な胸をぶら下げて妖艶なオーラを放ちまくる黒川さんも、今日は五歳児ぐらいの感覚である。全く興奮しない。
いや、あるいはそれもいいのかもしれない。ロリ黒川さんなんて、なかなかに美味しいではないか。清水はここまでくると、もうただのガキである。色気なんて全く感じない。ほら、あんまり走ると転ぶよももかちゃん。
「あ!ここじゃね!」
一見、事務所のようでもあるが……なんとまあ、建物の看板に、「天野若ビル」なんて書いてあるので確信犯である。しかも、どう見てもビルじゃない。
「うさんくせぇ……」
「さっ、入るわよみんな!」
黒川さんは、いや、あかりちゃんは建物の中へと走っていった。
「ラジャー!たいちょー!」
ももかちゃんも後に続く。
「やれやれ。」
僕はゆっくりと気だるく、しかし股間は元気に建物内へと入っていった。
一階は誰もいない。そこまで汚いという訳でもなく、普通に、誰もいない建物というぐらいの程度である。
「ラスボスってだいたい、一番上にいるものよね!」
エレベーターを見つけた黒川さんが、即座にエレベーターに入り、五階のボタンを押す。僕らもエレベーターに入る。
……あまりに淡々と事が進む。五階にはいったい何が待ち構えているのか、逆に不安になった。『天邪鬼』が果たしてどんな妖怪なのか。そしてそれを見た時、この二人はどうなってしまうのか。
想像するだけで、早く家に帰らせてほしいと思うばかりであった。エレベーターのドアが開く。──僕は目を見開いた。
そこには、金髪で色白の、耳が尖った若い男が一人、立っていた。
「──よく来たのお……人間。」
思いの他イケメンな妖怪の登場に、あかりちゃんとももかちゃんはさぞかし胸をときめかせている事だろう。




