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「うそつき 壱 」

中学校時代、部活には所属していなかった。

なぜといえば、毎日片道三十分もかけて学校まで行って、それに一限五十分の授業を六時間受け、それに部活なんて労働が上乗せされれば、僕はやがて確実に死ぬからだ。給料が出てもいいぐらい働いているじゃあないか。

そんなわけで、部活には入らなかった。他の運動部やらが引退で皆こぞって泣いていた時も、僕はそれを脇目もふらず、ただ教室の端っこで読書していたような根暗だったので、僕の中学校生活は、「もったいない」と思われてもしょうがないのかもしれない。

───────────────────────

さて、そんな僕も遂に部活に入部した。オカルト研究部なんて最初は抵抗しか無かったが、黒川さんなんて女神がいるなら話は変わってくる。ほぼ毎日あの美乳を拝める部活など、果たして他にあるだろうか。兎に角、時刻は午後四時。僕は早足で教室を後にして、教材室へと向かった。性欲が僕を急かす!急かすのだ!

「しっつれいしまぁー!」

なんて軽快な挨拶だろうか!剛腕の野球選手が場外ホームランを放ったぐらい軽快だ!

っておい、誰も居ないじゃあないか。

「そんなのありかよ……!」

僕は落胆した。膝からがっくり、崩れ落ちた。教材室は心做しか、黒川さんのいい匂いがするような気がしないでもない。その時だった。僕の視界が突然真っ暗になる。閉ざされた闇に僅かに感じる温度、人の体温である。

「だーれだ。」

僕はこの声を聞いて、声の主を当てるよりも先に不覚にも勃ってしまった。絶望の中、僕を希望へと導いたその声、まさに玉音放送。僕は神に祈りさえしてしまった。神など信じていないが、祈ってしまったのだ。この瞬間が永遠に続くことを祈った。僕の後頭部には柔らかい二つの塊の感触があった。

「だー!れー!だー!」

きゅうん!おこっている!女神はお怒りだ!

「黒川さん!いや、唯一神黒川様ですね!」

僕は今日この瞬間から、聖黒川教に入信した。

「ふふっ。御門くん、はやいね。やる気がある部員がいてくれると嬉しいわ。」

ノンノン。黒川さん。僕にあるのは「やる気」では無く「ヤる気」ですよ黒川さん。

「黒川さん!今日も部活頑張りまあしょう!」

「ええ、そうね。」

そうして僕らはパイプ椅子に腰をかけた。すると、黒川さんが、肩から下げていたトートバッグから、新聞を取り出した。

「御門くん。ここみて。」

「はい……?」

新聞に大きく載っていたのは、詐欺の類のニュースだった。どうやら集団的な犯行らしく、所謂「オレオレ詐欺」に関する被害の記事であった。

「うわぁ……オレオレ詐欺なんてまだあるんですね。」

「ま、騙す方もやりやすいんでしょうね。私でもできそう。」

それは流石に無理があるでしょう……と、思いながら黒川さんの胸を見つめる。

「んで、これがどうかしたんですか?」

「うん。実はこれ、妖怪のせいなんじゃないかなって。」

黒川さんはドヤ顔で子供向けアニメのようなことを言ったので、正直そのギャップに射精した。勿論実際にしたわけではないが、心が優しい気持ちになった。

「あかりちゃん。なんでも妖怪のせいにしちゃいけません。」

「むぅ。生意気な後輩は嫌いよ。」

「かわいい……!」

思わず声に出てしまった!でも後悔はしていない!愚か反省すらしていない!

「と、とにかく!これは恐らく『天邪鬼』の仕業ね!聞いたことぐらいあるんじゃない!?」

聞いたことぐらいは、確かにある。具体的にどんなものかは全くと言っていいほど分からないが、聞いたことは、あるぞ。黒川さん。

「なんで、そう思うんですか?」

なぜ妖怪と詐欺が関係あるのか、心底疑問だった。妖怪が現代社会に完全に溶け込んで、ましてや人を騙すなんてことが有り得るのか?もっと考えれば、その金はどこにいって何に使うんだ?妖怪が私欲に人間から巻き上げた金を使うとでも言うのか?

「んー、あまり言い方は良くないかもだけれど、詐欺って普通、高齢者が引っかかってしまうイメージがないかしら。でも、ここ見て。『被害者には高齢者だけでなく、四十代から五十代の比較的若い年齢層までおり……』これって、少し不思議じゃないかしら。」

「確かに……僕の母親もそのへんの歳ですけど、詐欺に引っかかるような人とは思えないし、言われてみれば不思議な気もしますね……」

確かに、不思議であった。高齢者には、認知症なんかが絡んできて、詐欺に対抗するのはなかなかに難しいかもしれないが、特に四十代なんて、まだアイドルでもやってる人はやってるじゃあないか。

「んで、さっきの『天邪鬼』って妖怪ですか。」

「そう。『天邪鬼』って妖怪はね、有名なのは、人の心を察して、声真似でからかったりする妖怪なの。人の心を察する。声真似をする。これって、何となく詐欺に使えそうじゃない?」

「なるほど?」

確かに、人の心を察することができれば、その人の弱みに漬け込むことが出来る。そして声真似ができれば、その人に関わりの深い人物を装うことができる。この二つの能力は、詐欺に向いているのかもしれない。

「さらにこの詐欺、最初に言ったとおり集団的な犯行だと思うの。」

「ということは、妖怪の連携プレイで人からお金をだまし取っているということですか!?」

ひえー。今どきの妖怪は変に賢いなあ。

「多分ね。しかもそれが本当なら犯人は全員『天邪鬼』よ。」

「チーム天邪鬼……」

現代社会に紛れ込み、現代社会のやり方で人に悪戯をする妖怪がいるとなると、詰まり壁の時のようにあっさり行きそうにもなかった。

「これ、まさか僕達が何とかするんですか?」

「ええ、当然よ。」

どうやら黒川さんは正義の味方に目覚めたらしい。僕は思わずため息をついた。しかし、目線の先にはやはり、黒川さんの素晴らしい美乳がなにやら神々しいオーラを放って構えていたのだった。

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