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プロローグ「とおせんぼ 壱 」

怪奇現象、都市伝説、この世の凡百不可思議は全て、妖怪、幽霊、それらの有り得ないものからなるという、世間一般の下らないお遊びなど、僕は信じていなかった。そう、信じていなかったのだ。

今からする話は、怪談でもあり、僕自身の輝かしい武勇伝でもある。もしこれを今から読む女性がいるのなら、忠告しておこう。

あまりの大活躍に貴女のハートを射止めてしまうかもしれないことを。

─────────────────────────

二千十五年 七月二十日

線路沿いの道の向こうには、猛暑の所為で陽炎が揺れていた。

学校からの帰り道、コンビニに寄って週刊誌のグラビア袋とじを楽しみにしている僕ではあるけれど、この暑さじゃ、これを購入した時から高まっていた性欲も台無しになってしまう勢いである。

というか、いつもより長くないか──この道。暑さでやられっちゃってるのか分からないけれど、僕は足を急かす。

今日で一学期も終了なわけで、夏休み特に何もすることなく、受験前の高校二年生の夏休みを存分に満喫しようと僕は気合いが入っている。暫くはあの五月蝿い学校に通わずにすむのだから、心が踊る。スキップしたい気分だが、グラドル表紙の週刊誌が入った袋を腕にぶら下げながらスキップしていれば、捕まりかねないので辞めておいてやろう。

やっぱり、さっきの疑問が確信に変わった。

僕は進んでいない。進んでいるが、踏み込めていないというか、

このままでは家にたどり着けない。何か見えないものに道を塞がれているような……そんな感覚である。

「早くグラドルでシコりたいんだよ僕は……!」

色々アウトな発言を小声で呟いたあと、僕は全力で走った。猛暑日のアスファルトの上をこれ以上ない程の必死な顔をしていただろう。だって僕、運動得意じゃないもん。

やはり、進めていない。周りの人や、電車はどんどん先に行くのに、これじゃあ足踏みしているみたいで、なんだか暑さと相まって、爆発寸前だった。

「あれ!御門くうん!?御門くんじゃないの!」

あー。僕は死を悟った。猛暑、動けない現状、片腕にぶら下げたグラドル週刊誌、傍から見れば足踏みをしているだけの高校生!

そんな状況でいちばん会いたくない人物が、猛スピードで近づいてくる────!

「ちょっと!何してるのこんな所で!アハハ!行進の練習中?」

全力で嘲笑ってきたのは、同じクラスの女子、清水桃香である。桃香。なんかムズムズする可愛い名前である。

まあでも実際、僕も他に同じ状況にあっている人がいたら、そう嘲笑うだろう。だが許さん。新学期お前の席ねえから!

「え、ちょっとやだ、それエッチな本じゃない!?御門くん私に内緒でこんな破廉恥な本読んでたの!?信じらんなあい!」

死にてえ!今世紀最大に死にてえ!

「いいだろ別に!なんでお前のきょ…というか、助けてくれ!なんでか分からないが、此処から動けないんだよ!一歩も!」

僕は自分の状況を暴露した。してしまった。現状、こいつぐらいしか助けてくれそうにない。もうどうにでもなれ。

「……何かに通せんぼされてるんじゃない?」

──は?

「何かって、何。」

「そりゃあ、何かだよ。分からないけど、こう、幽霊とか!」

何を言い出すかと思えばそんなことである。

「そんなわけないだろう……兎に角、なんでもいいから助けてくれよ!後でアイスでもなんでも奢ってやる!」

「まじ!じゃあ助けてあげるね!」

よし、助かったら適当に理由つけて逃げよう。

「ほいっと」

ん?手……繋いでね?

柔らかい現役女子高生の手のひらが僕の手のひらに触れる。

「走るよ!」

そう言って陸上部のエースである彼女は全力で走った。帰宅部の僕がついていけない程のスピードである。そして僕らは進んだ。進むことが出来た。

一時間後

結局、アイスを買わされてしまった。

「ごちそうさま!んじゃ、二学期ね!」

「おーう。助けてくれてありがと」

腐っても恩人なので、礼は言わせてもらった。

「いいってことよ!……そうだ、二学期始まったら、オカルト研究部ってとこ行ってみなよ。今日のこと話したら、何か分かるかも!」

「ん。じゃあ行ってみるわ。」

行くわけないが。そんな胡散臭さの極みみたいな部活。廃部しろ。

「うん!じゃーねー!」

そう言って彼女は去っていった。……さて、夏のグラビアシコシコ生活スタートだ!

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