プロローグ
プロローグ
「なんとなく退屈だ。」
ー気晴らしはもう許されないー(ハイデッガー)
奇人・変人・浮世離れ・変わり者・風変わり・普通じゃない・頭がおかしい・みんなと違う・周りとズレてる・人の心がわからない・天才・鬼才。なんだっていい。こんな言葉を僕は好んだ。どれも同じようなもので、どれも救ってくれる。なのに僕に提供されたのは、可哀想な人、悲しい人、そんな類の言葉だった。
僕がやっと鬱病と診断してもらえたのは大学二年生の冬のことだった。その時のことは忘れもしない。20年間頭を悩ませていたことからやっと解放された気分だった。こんなことならもっと早く病院へ行くべきだった。うつ病なんて、『もしかしたらうつ病かもしれません』そういえば簡単に貼ってもらえるレッテルだった。『一緒にゆっくり治していきましょう』そんな言葉に一層勢いよくうつ病を進行させていった。
大学三年になる頃には、華やかな大学生活なんて望んでいなかった。
毎週土曜日には、男女6人集まって【渋谷・新宿・六本木】【クラブ・パーティ】
欲に埋もれて、意識を失う。心底羨ましく思う、楽しそうなことこのうえない。
でもそんなもの退屈の一貫性だって知っている。
大学で退屈について勉強し始めて2年が過ぎた。三年前『なんのアテもない』『大した就職先はないよ』そんな周りの反対を横目に三流大学の文学部哲学科を受験した。三流大学と言っても、都内でも有数の底辺高校に通っていた僕にとって、それは大金星の合格だった。
ハイデッガーの退屈論の虜になったのは、大学に入ってすぐのことだった。
「この退屈論を理解したら後戻りできないかもしれない。退屈は、自らの中からさらに力を増して顔を出すだろう。」
担当教授の言葉を無視して食い入るようにのめり込んだ。もうすでに最大限の力で僕の内側からメキメキと顔を出している退屈に、向き合う以外の選択肢はなかった。