温泉にて
「はぁ、いい湯〜」
白く濁った温かい湯が私の体を包み込み、日々の疲れや気苦労を癒やしてくれます。
ここの温泉の効能は肩こり・疲労・火傷と聞いたので日々、生傷が絶えない私には絶好の温泉とも言えますね。
私の名前はイミホ、以前はルノワール王国の王宮魔術師見習いとして働いていました。
現在では1年前に復活した魔王を討伐するために異世界から召喚されし勇者、ムタ・イチロウ様の従者として共に旅をしています。
ルノワール王国を旅だったのが、もう何年も前の昔に感じてしまいます。
「あれから色々と大変でしたからね~」
まぁ、主にあの勇者様の行く先々の町や村やダンジョンでの奇行にですが・・・。おかげで行く先々で死闘繰り広げています。(主に私だけが)
「何であの人が勇者なのでしょうか・・・」
本当に疑問です。他の国々が異世界から召喚した勇者達は皆、清廉潔白で腕も立ち幾多の人々に尊敬されている人物と言われているのに。何故、何故、我がルノワール王国だけがこの様な悲惨な結末になったのでしょうか?
召喚に手違いでもあったのでしょうか? でもでも、我がルノワール王国は魔法に関しては、このウルヤギでは上位に食い込む魔法王国です。そんなことがありえるはずがありません!
そうなるとやはりムタ様がウルヤギを救う者と言うことになりますが、なんか腑に落ちません。納得できません。
「不満です・・・」
「そう、欲求不満ってことだね。わかるわ」
「どぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
背後からから当然声を声をかけられて驚いた私は、思わず女性とし叫んではいけないとてつもない奇声をあげてしまいました。
私の背後で話しかけていたのは、目下私の最大の悩み種である人物であり私の主でもある。
「ゆ、ゆ、勇者しゃま!」
勇者、ムタ・イチロウ様でした。
「やぁ! 勇者様だよ!」
ああ、今宵もウザさ前回フルスロットルで私に精神的外傷を与えにきたのですね。
「どうだい魔法使いさん、温泉は。疲れも取れるだろう?」
ええ、取れてましたよ、さっきまではね。勇者様来てくれたおかげでより大きな疲れがドッとまた降り積もりましたけどね。
「ところで魔法使いさん、さっき不満って言ってたよね? 何が不満なんだい、この勇者様に打ち明けてごらん?」
「不満って言うより疑問があるのですが・・・」
「なんだい?」
「勇者様は何故、温泉に浸かっているのでしょうか?」
「風呂は浸かるものだろ? それとも何か? 魔法使いさんの世界では温泉は浸かる場所じゃないのか? もしかして温泉は飲み物ですっていうのかい? まぁ確かに温泉は飲み水として俺の世界では販売されてるけど、人が入った温泉水とかちょっと汚くて飲めないよ。あっ、でも魔法使いさんだけが浸かった温泉水なら結構需要があると思うんだ。どうだろう、明日からいっちょ販売してみる? 商品名は「魔法使いさんの聖水~私の魔力と魅力とほんの少しの蜜が詰まってます♡」って商品名なんだ。どうかな? 俺はかなり売れると予想してるよ。だって魔法使いさん、俺がいた世界とこの世界で出会った女性で誰よりも可愛いからね、絶対売れると思うよ。欲しい人が殺到して市場は大混乱になるかもね。あっ、でも売るってことになると他の男共も魔法使いさんの聖水蜜を飲むってことになるわけか・・・それは何かちょっと嫌だなー。うんうん、売るのはやっぱりやめよう。だいたい、魔法使いさんの聖水蜜を飲んでもいいのは俺だけで十分だしな」
「ごめんなさい勇者様。私、どうやらのぼせてしまったみたいなので・・・」
うん、一刻も早くこの場を離れましょう。さっき聞いた話はきっと空言でしょう。仮に万が一空言ではなかっあとしても今日の出来事は全て忘却の彼方へと放り込みましょう。
「まぁまぁ、魔法使いさん。ってか、今さっき入ったばかりっしょ? いきなりのぼせるとかないでしょ」
上がろうとする私の両肩を勇者様が掴みます。ものすごい力で押さえつけられているので上がることが出来ません、何ですかこの怪力は!?
「な、なんですか!? 私、急いでるんですけど!?」
「何に?」
「えっ~と・・・」
思いつきません。この場を脱する言い訳が私には思いつきません。誰か助けてください。魔物でもいいんです。むしろ魔王さんが出てくることを強く希望します。
「じ、実はまだ読んでない本があって・・・」
「もしかして「あの頃はリーサーがいた」って奴か?」
「え、ええ、そうです! 私、あれの結末が気になって気になって、そりゃもう夜も眠れないくらい気にあってしまったのです!?」
半分は嘘です。確かに結末は気にはなっていますが、別段、慌てて読破しようとは思っていません。ああいうのはゆっくりと毎日、一杯の紅茶をお供にし一章ずつ読むのが淑女の嗜みです。
「そうだったのか・・・眠れなくなるほど気になってたのか・・・」
勇者様はわかってくれたのか、押さえてた両肩から手をどけてくれた。
ホッ、助かりました。これで勇者様から離れられる。
そう思い、私が再び温泉から上がろとしようとしたときでした。
「あれな。最後リーサ死ぬんだ」
この勇者様はとんでもない事を言い放ったのです。
「え? 勇者様。今、何と仰りましたか?」
「ああ、だからな。あれ最後リーサ死ぬんだ。語り手である主人公に裏切られてな」
ああ、そうか。この勇者様は私の楽しみや生きがいを潰すのが生きがいなのですね。
「フ、フフフフフ・・・」
「酷いよな、今まで散々面倒見てくれたのに最後にそれはねぇーよな」
ええそうですね、本当に酷い話ですよね。
「勇者様、お願いがあります」
「おっ、何かな何かな?」
「しばし目放閉じて頂けませんか? 手間は取らせませんので」
「お、おう! かしこまり!」
そう言うと勇者様は目をつぶり何故か口をすぼめていました。愚かですね。本当に愚かですよ勇者様。
「私が「いい」と言うまで絶対にあけちゃダメですよ、約束ですよ」
「かしこま!」
そして私は全魔力を解き放って、それを全て勇者様にぶつけた。