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辺境の錬金術師  作者: 木偶の坊
序章
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閑話 五年前の錬金術師。その一

ちょっと昔のお話。


少し長めです。

 不死の樹海。


 あまりにも広大で一度迷ってしまったら生きて帰ることの出来ないとまで言われた樹海が目の前には広がっていた。


 どうして目の前の森がそれだと分かったかと言えば簡単なこと。


 『これより先、不死の樹海』と記された立札の御蔭だ。その隣にはこの場所に、似合わない高そうな衣服に身を包んだ一人の青年が倒れていた。


 彼の特徴をあげるとすれば、褐色の肌に銀髪そして伝説にあるエルフを思わせるような長い耳。けれどその首元には人間と敵対関係にある魔族と同じ刻印があった。


 そして高そう衣服には夥しい量の血で染まり、血が乾いたためか色が黒くなっている。


「お母さん!!」


 この青年を見つけた誰かが叫んだ。


「……っ!!アナタ、ちょっと手伝って!」


 それに続いてまた誰かが叫んだ。


「これはひどい。……まだ生きている。急いで村に運ぼう」


「マーサ、そっちの肩を持ってくれ」


「わかったわ!」


「このお兄ちゃん大丈夫?」


 そう尋ねたのは二人の子供だろう。泣きそうな声で二人に尋ねる。


「わからん。それでも出来るだけのことはしよう」




 見知らぬ天井。ゆっくりと身体を起こすと視界に二人の人間が目に入った。


「……あなた方は?」


「おや、目を覚ましたようだね。私はリック、ここまで君を運んだ者だよ。それにしてもどうして君はあんなところで倒れていたんだい?」


「倒れていた?」


 青年はそのことを思い出そうとするが霞が掛かったように記憶からその出来事を思い出すことが出来なかった。


「……すみません、覚えていないんです」


「身体が傷だらけで出血もひどかったんだ。そういうこともあるかもしれないな。自分の名前は憶えているかな?」


「はい。俺はケルト。ケルト・シエルハイムって言います」


「シエルハイム?どこかの貴族かい?」


 ケルトはそのことも含めどうやら覚えていないようだ。


「分かりません」


「そうか、ギルドの方で捜索願が出てないか調べてみるよ」


「お手数お掛けします」


「気にしないでくれ、私は妻曰く、お人好しってやつなんだそうだ」


 リックはそう言って微笑んだ。


「分かりました、お任せします」


「ケルト君は少しでも体調を治すことだけを考えてくれればいい。ところで聞いてみたかったんだが、君はエルフかい?」


「いえ、ダークエルフです」


「珍しい種族だね。ほとんどの人がエルフを見たことがないもんでね、伝説みたいな存在なんだよ、彼らは。それにしても、ダークエルフか。街でそれが分かると厄介そうだね」


 リックは何か考え込むような仕草をした。


「ご迷惑でしたらすぐに出ていますので」


「いやいや、そうじゃないんだ。ふむ……ギルドに行ったついでに外套でも買っておこう。それにその傷じゃ出て行ってもすぐに死んでしまうだろうしね。一年くらいはゆっくりしていかないとまずいだろう。ここには治癒師はいない」


 ケルトはそれを聞いてもう一度眠ることにした。



 ケルトがリック夫妻に助けられて一週間程経った。


「ティア、こんな夜遅くまで起きていちゃダメだよ」


 日が完全に沈み、月が真上から傾き始めた頃、外で本を読んでいたケルトのもとにリック夫妻の一人娘であるティアがとことこと歩いてきた。


「目がさめたの。ケルトお兄ちゃんはねないの?」


「ダークエルフはあまり眠ることをしないんだ。ダークエルフが寝るときは酷い怪我をしてしまった時とか力が衰えてきてしまった時なんだ」


「ふーん。でもケガしてるからねないとダメだってお母さんが言ってたよ」


「心配してくれてありがとう、ティア。ティアは俺が怖くないの?」


「なんで?」


「ダークエルフっていうのは、半分魔族でもあるんだ」


「でも、ケルトお兄ちゃん。悪いことしてないよ。だから大丈夫♪今日の朝だってころびそうになったところ助けてくれたよ?」


 それを聞いたケルトはティアの頭を撫でながら、そうだねと笑った。月光に照らされたその笑顔がとても神秘的でティアは何だか恥ずかしくなった。


「ほら、そろそろ寝ないとね。いい夢が見られるようにおまじないしてあげるから」


「うん」


 ケルトは眼を擦っているティアを抱き抱えると、ティアが寝ていたであろうベットまで連れて行くとゆっくりとそして丁寧に彼女を寝かし付けた。


 そして彼女が眠るとケルトはその寝顔に満足し、再び外に出る。


「子供の扱いが上手いんだね、ケルト君」


「そうでしょうか?彼女が素直でいい子なだけだと思いますよ」


 それを聞いたリックはどこからかグラスを二つ持ってきた。


「君も飲めるのだろう?私は眠れなくてね、少し付き合ってくれないか?」


「俺で良ければ」


「君しかいないよ。妻は酒が飲めない口でね。一人で飲んでいても寂しいものだ」


 注がれた酒を手に取り、


「「乾杯」」


 ケルトはリックのコップを持つ手のぎこちなさに気付き、それを問う。


「その腕は……」


「あ、これか?何年か前に狩りで失敗してね。御覧の通り力が入りにくくなっているのさ。おかげで狩りは碌に出来ず妻には迷惑を掛けている」


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


 ケルトはそう言うと痛めているであろう腕に手を当て、何かを唱えた。


「どうですか?」


「っ!!君がやったのかい?」


 ケルトは頷くと腕の具合を尋ねる。


「良好だよ。今まで嘘みたいだ」


「でも、まだ安静にしておいてください。数日経てばまた狩りが出来るようになると思います」


「これなら君自身の怪我も治せるのではないか?」


「これは自分には使えないですよ。ダークエルフの特性とでも思ってください。回復系の術は俺らには効かないんです。状態異常なんかも治すことは出来ません。本来なら回復系の術すら覚えることが出来ないんですが……」


「君たちが怪我を負った場合はどうしているんだい?」


「基本的には自然回復で治すしかないみたいですね。文献にはそう記されています。それに他のダークエルフには会ったことがないんでなんとも言えません。もしかしたら会ったことがあるのかもしれませんが、何も思い出せないので」


 ケルトはそう言って残った酒を呑み干した。

読んで下さってありがとうございます。

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