ギルドと錬金術師。その三
のんびりのんびり。
マイペースでやってます。
「そろそろ【夜】が始まります」
「もうそんな時期になりましたか。大体どれくらいか分かりますか?」
「もう一月はないでしょう」
ガルムの街では年に一度、約一月に渡り日が昇らなくなるという現象が起きる。現象は【夜】と名付けられ、人々の生活に多大な影響を与えていた。
「魔獣も活性化しますね。魔法を使う者にしてみれば魔力の回復が速くて助かるのですが……作物の方は大丈夫ですか?」
「例年通り、収穫を終え月光草の栽培を始めてますので」
「あれは長持ちしますから」
「不思議なものです。エルフの方々が扱う植物は……おかげで野菜不足も解決できましたから」
「俺はエルフなんてもんじゃないですよ。魔族の血を引いたダークエルフです」
「エルフよりも数が少ないとても希少な種族ではないのですかな?」
「忌み嫌われた種族ですので。エルフにも魔族にもなれない半端者ですから。それにダークエルフは殆ど自分のテリトリーから出ることはありませんし。俺は自分のテリトリーなんてもの持ってませんので」
「そのおかげで我々は助かっているのですけどね、不思議なものです」
用意されたお茶の残りを飲むとケルトは立ち上がり、
「魔獣も強くなる【夜】ですから、少し多めに薬の方用意しておきます」
そう言って相談室と書かれた部屋から出るとケルトは依頼が掲載された掲示板を眺めていた。その近くには銅のプレートにローマ数字で10と記されているものをペンダントのように身に着けている二人組の冒険者が目に入った。
片方は如何にも活発そうで短髪の女の子、もう一人は少し危なっかしい男の子だ。
「アル、どの依頼にする?」
「決まってんだろ!!討伐系だ」
「でも、いきなり討伐系は危ないんじゃないかな」
「メルは採取系でいいと思うけど」
そんな会話をしている二人を見ていると、視線に気付いたようで
「な、何だよ!やんのか!」
「アル、ダメだよ。ごめんなさい、メルたち今日が初めてで」
ケルトはそんな二人の様子が好ましく思い、助言をする。
「二人とも、この依頼はどうかな?」
ケルトがおすすめしたのは、ギルドの方に自分が頼んで依頼だった。
「期限は一月以内かぁ……でも」
「なんだよ、討伐系じゃないのかよ」
「でも、アル。ボアの討伐も入ってるよ」
「ボアなんて誰でも狩れるだろ!俺はもっと冒険者らしいことがしたいんだよ」
「すみません……えーと」
「ケルト。それが俺の名前だよ」
「すみません、ケルトさんちょっと考えさせてください」
それを聞いたケルトは楽しそうに
「気にしないでいいよ。依頼を選ぶって結構楽しいからね。そういうのも冒険者の醍醐味だしね」
ケルトは気が向いたら受けてみなよとだけ言い残すとギルドを後にした。
「アル、あの人のことどう思う?」
「怪しい奴だ。これが噂に聞く新人いびりって奴かもしれない。ま、その時はオレが返り討ちにしてやるよ」
そんなことを話していると後ろからアルの頭を叩く人物がいた。
「もったいねぇな。新入り」
アルは振り返りその人物を見上げる。露出狂なのではと思わせるような奇抜の服を纏った女性が豪快に笑っていた。
「どういうこと、ですか?」
メルは少し萎縮しながら目の前に立つ女性に話掛ける。
「代わりにやらせてもらえるなら受けたいくらいだぜ、そいつはケルトの依頼だろ」
依頼内容の記された紙をみると依頼者の名前はケルトとある。メルはすぐさま先ほどの人物を思い浮かべる。明らかに怪しげな男だった。
「この街の冒険者でケルトを知らない奴は新入りか流れ者冒険者くらいだぜ、うちのレギオンの若いのも面倒見てもらったしな。もちろんうちもだが」
「ケルトさんってどんな人なんですか?」
メルは目の前の女冒険者に尋ねた。
「ケルトははぐれ者として有名だな。仲間を持たず目的もない」
「はぐれ者……」
ギルドでは依頼を受ける際、複数人で依頼を受けることを推奨している。低ランクでも一人だとどうしても死亡率が高いからだ。ギルドでは同じ目的を持った人の集まりをチーム・レギオンと呼ぶ。
レギオンはそれぞれレギオン名を持っており目的が違う。
「うちのレギオンに誘ったこともあるんだが、断られてな」
「そんな有名なレギオンじゃないんだろ」
アルがそう口を開くとメルは何か気付いたようですぐに謝った。
「うちのレギオンは『永遠の栄光』。主に傭兵稼業だな」
その名前を聞いたアルは青ざめる。『永遠の栄光』はシェルベア王国内にあるレギオンでトップ3に入る実力者。そして何より完全武闘派として有名だ。
「な、なにを根拠に」
「やめなよ、アル。胸のシンボルを見なよ……『戦乙女のクローディアだよ」
どこに防御力があるのか疑いたくなるようなその装備は、胸元を大きく開け、目を引きそうな谷間の少し上には形容しがたい幾何学模様の魔法陣が描かれていた。
「……す、すみませんでした!」
クローディアと呼ばれた女性はやれやれという呆れた態度を取りながらケルトの話を聞くかどうか尋ねた。
読んで下さってありがとうございます。