始まりと青年。
2015年も終わりだなー。
って思いながら何か書こうかなってのりで書いてます。
のんびりと更新しますので目に留まったら流し読みで構いませんので読んでいただければ幸いです。
「いつも悪いわね」
物腰の柔らかい中年の女性は籠に入った新鮮な野菜を手渡した。手渡された怪しい恰好の男か女か分からないその人物は軽く会釈をした。これはこの人なりの礼のつもりでもあった。
「ケルトさん、何かあったらしっかりと村のみんなを頼りな」
ケルトと呼ばれたその人物は深く被った外套を外し、
「もう、十分に頼ってますよ」
笑顔でそう言うとまた外套を被り直した。外套の下の顔は幼さの残る顔で、無邪気な青年と言った印象を受けた。いつもの常連さんに挨拶を済ませると、何やら怪しげな薬の調合に走るのだった。
☆
シェルベア王国の最南端。
そこは広大な森が広がっており、山や川と言った自然にあふれている。シェルベア最南端の街と言えば、ガルムと呼ばれるそれなりに大きな街がある。その街は外壁に覆われ、まるで要塞に見えることから別名要塞都市とも言われている。
何より、ギルドと呼ばれる制度を何百年か前に導入したことで珍しい魔獣や貴重な薬草を求めて冒険者が集うようになったことでも有名だ。
そしてこの街には何より不思議な噂があった。
何でも、不死の樹海と呼ばれる広大な森の手前には小さな小屋がありとても優れた魔術師が住んでいるのだという。何故その魔術師はそんなところに住んでいるのかは誰にも分からないが、シェルベアの国王陛下が直々に訪れるほどだという。
だが、それは吟遊詩人が謳う物語の一つに過ぎない。
そんな物語を楽しそうに聴いている一人の人間がいた。体格から判断するに男であろうと予測が出来た。
「あんちゃん、そんなにその物語が面白いかい?」
吟遊詩人とこの男がいた場所は街の酒場であり、真昼間だというのに景気よく酒を飲んでいる男は深くフードを被った少し怪しげな男の肩に手を乗せながらそう言った。
「そうですね、中々面白い話です」
フードを被っているせいか表情を見ることは出来ないがどうやら笑っているようだ。怪しげな男は吟遊詩人に銀貨を握らせると「またぜひ面白い話」と小声で言った。
怪しげな男は酒場を出ると
「まるで、俺みたいなやつがいるなんて。結構な物好きだな」
自分の境遇と重ねながらそんなことを呟くのだが、まさか自分のことを言われているとは全く思ってもいない様子で買い出しを済ませることにした。
読んでくださってありがとうございます。