その2
翌朝、僕が目を覚ますと、昨日と変わらず美しい草原が広がっていた。
変わった点はたった一点。
僕のすぐそばにむさ苦しいおっさんが座り込んでいた所だけだ。
第一村人発見!
…と喜ぶべき所だろうが、僕はおっさんの風貌に気圧されていた。
完璧に切り揃えられた金髪の角刈り。
日に焼けて真っ黒な肌。
筋骨隆々の鍛え上げられた肉体。
足元に置かれたゴツい剣。
そして何かの毛皮らしき物。
…この人は何者だ。
僕が内心で冷や汗をかいていると、おっさんは僕に目線を落とし、微笑んだ。
「よう、嬢ちゃん。良く寝れたか?」
実に凄味のある笑顔だ。
僕が何も言えずにいると、
「やっぱり俺の笑顔は怖いか?」
と困った顔をして言う。どんな表情だろうが怖いが。
…これはフォローすべきだろうか?
「いえ、人がいて驚いただけです」
僕も笑顔を作って言うが、
「気遣いは無用だ、嬢ちゃん。顔が怖いと言われるのは日常茶飯事だからな」
余計な気遣いだったようだ。
「…そうですか」
まあそうだろう。納得である。
「で、嬢ちゃんは何でこんな辺鄙な所にそれも1人ぼっちで居るんだ?」
おっさんが至極真っ当な質問を僕にぶつける。
…少し回答に迷う。
もし僕が見知らぬ子供に『私は記憶がありません』と言われて信じるか、と言われると…放置か?役所か?
街へ出られさえすれば行動は起こせる。
僕はおっさんが善人だと信じて、置かれている状況を正直に話す事を決めた。
「…分かりません」
「はぁ?そりゃどういう事だ?」
怪訝な顔をするおっさんに、僕は昨日ここで目覚めてからの事を洗いざらいぶちまけた。
「…その話、本当か?」
「はい…ちなみに僕が誰だか分かりますか?」
試しに聞いてみるが、
「全く心当たりはねぇな」
「ですよね…」
期待なんてしてないもん!
何となく目の前のおっさんがこの台詞を言ったらどうなるか想像してみる。
「……!」
…僕の脳内で幾つか惑星が吹き飛んだ。
「うむ」
勝手に精神ダメージを受けた僕を他所に、おっさんは眉間にシワを寄せ考え込んでいる。
しばらくの沈黙の後に、
「ようし!」
彼は唐突に立ち上がって叫んだ。
僕は思わず飛び退いた。
「どっ、どうしたんですか」
…まさかさっきの失礼な考えが読まれたか?と少し焦る。だが、次のおっさんの言葉は僕の予想だにしない物だった。
「嬢ちゃんは今日から俺の子供だ!」
「…今、何と」
衝撃的過ぎる。
思わず聞き返してしまった。
「取り敢えず家に来い。話はそれからだ」
子供云々はともかくとして、これは有難い提案だと言える。
"ここはどこ"については確実に解決出来るだろう。
「よろしくお願いします」
僕はお礼を言っておっさんについていく事にした。