月と勇者
「今日も綺麗だ」
草原で立ち尽くす。やけに重装備な少年は呟いた。
辺りには、虫の音がやけに響く。
すると、少年はおもむろに装備をはずし始めた。
「こんなに綺麗な、満月なんだ。せっかくだし月見でもしながら、これからどうするか考えよう」
装備をはずし終えた少年は、胡座をかいて、今までの出来事を思い出していた。
そう、あれは三年前。
突然、村に来た騎士に「貴様は『勇者』だ」
故にすぐさま城に来いと、強制的に連行されてしまった。
そして、城で待っていた。王様と姫様に、貴様が勇者か?ぱっとしない「わね」のぅ。
とか、難癖つけられながらも、城で勇者になれるように、徹底的に鍛えられた。いや、もはやあれは拷問だったかもしれない。
そんなこんなで、四天王やら魔王とやらを討伐した後、今度は勇者は魔王すら超える存在だ。危険すぎるとか、王の一声で、僕は王国から狙われる逃亡者になったわけだ。
振り返ってみると、なんとも腹立たしいことこの上ない。だが、王国を滅ぼすなんてことはできそうもなかった。
そもそも、僕が四天王や魔王を倒せたのだって、そいつらが悪逆非道を絵に描いたような悪だったからで、その手下の死霊術使いの女の子は、なんとも言えない過去から、仕方なく手伝っていることを知ると、秘密裏に逃亡の手助けをした。
まぁ、そんなことがいっぱいあったわけで、僕は相当な甘ちゃんなのだ。だから、関係ない人がいっぱいいる王国に、魔王を屠った、究極魔法をバカスカ打つことは、おそらく一生できないだろう。
とまぁ、こんな感じでずっと王国から逃げているわけだが、あまり後悔はしていない。
とりあえず、趣味の月見ができれば、それでいいのだ。あと、欲を言えば、酒があれば言うことなしだ。
しばらく、月を眺めたあと、僕は草原に大の字に倒れながら、今日はもう疲れたし、そのまんま寝ちゃおうかな、とかアホな事を考えながら、目を閉じるのであった。
辺りには、虫の音と雲間から月が覗いているのみであった。
練習せねば、練習を。