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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第一章 出国まで
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第六話、基地へ連れていかれる、後編

◎ 第六話


 戦闘機? の尻尾、お父さんに言わせれば尾翼びよくに日本国旗がついた戦闘機が並んでいる通りを公用車はまっすぐ抜ける。人通りは全くない。人影も全くなかった。というか人気も何もない。それでいて今から戦争できますよといいたげな戦闘機がたくさん並んでいるのだ。とてもシュールな光景だ。

 私は目を見張るだけだった。さっきまで見ていたいい夢はどこかへ吹っ飛んでいった。なぜか布団の中にもう一度潜り込んで、ゆっくり寝たい。そして遅い時間に起きたらおいしい卵サラダをのっけたトーストを食べたいと思い詰めた。そうだった、急がされたので私は朝ごはんを食べてない。昨日の夕食はお腹いっぱいにご飯を食べたはずなのに急に空腹を感じた。

 田中さんが運転する公用車が一段大きな倉庫に横付けされた。この倉庫だけが二階建てで上の方にニョキっと感じで司令塔みたいなものがそびえている。

 そこで自衛隊の迷彩服を着た人が数人と黒いスーツを着た人数人がびしっと並んで私たちの車を待っていた。というか私を待っていた。私は呆然としていたが、心の中で同時に「のどが渇いたよ、お砂糖を入れたアイスミルクが飲みたいよう」と叫んでいた。

 そう、時々私はこうして二つのことを同時に考えることができるのだ。ちなみに理玖はスカイプで会話をしながら作文の宿題をやっつけることができる。私はそんなことはできない。一つのことをするときはほかのことはできない。宿題は宿題だけ。バレエを踊るときは踊るだけ。しゃべるときはしゃべるだけ。私は二つのことを同時にすることはできないが、そのかわりに二つのことを同時に考えることはできるのだ。


 車は速度を落とさず、一列に並んだ男の人たちの出迎えの列にすっと入りこんでぴたっと止まった。田中さんが運転席から降りてお父さんのいる席にまわってドアを開けた。

 だけどドアを開けられてもお父さんがじっとしているので、私も出られない。お父さんは何か考えこんでいる。鈴木さんが車の前列からお父さんを覗き込んで「爆雪さん。大丈夫ですから、あの方は私どもの上司、外務省次官の大山さんです、残りは公安関係の人です」と言った。

 お父さんは振り返って私の顔をじっと見た後、軽いため息をついて「じゃあ出ましょう」と言った。なのでお父さんについで私も車を出た。

 私はお父さんについで、外に出た。とたんに空気が変わった。ガソリンの匂いと海の匂いがした。ガソリンはこれだけ飛行機が並んでいるのだからそんなものかもしれない。それと海の匂い、潮の香。この基地は海が近いのだ。遠くに鳥が地平線の低いところで数羽旋回している。海はあちらの方かもしれない。鳥は遠めにみてもつばさが細長いシルエットなのでカモメなんだろうか。そんなことをぼんやり考えていると、目の端の男性が私を注視しているのに気付いて背筋をしゃんと伸ばした。こんなの苦手だよ、うっかり考え事もできないよ。

 一番大柄の男性が進み出てお父さんに話しかけてきた。

「爆雪さん、遠いところをよくおいでいただきました。ありがとうございます。私は公安警察の広本と申します。まずはこちらに来てください。建物の中に入ってからいろいろと話をしましょう」

 この人には少しなまりがあった。どこの言葉だろうか。そんなどうでもいいことを考えてしまった。広本さんの言葉にお父さんは軽くうなづいた。それでその公安の人の後についていくことにした。その人の後ろにはお父さん、すぐ後ろには当然私。私の後ろには外務省の大山さんだという人、そして同じく外務省の田中さん、鈴木さん。その後ろにまだ自衛隊の服を着た人が二人並んでついてきた。総勢八人の行列だった。

 ひときわ大きな倉庫の中に入るとそこには一台のミニサイズの飛行機があった。旅客機ではなく二人だけしか乗れないタイプだ。日本国旗はない。濃いブルーだけに塗られたその飛行機は見ただけで外国のものだなと思った。もしかしてその飛行機でメイディドゥイフから飛んできたのだろうかと考えた瞬間に背筋がつんと伸びた。同時に誰かの視線を感じた。どこからとは言えない。広い倉庫の中に一機だけある飛行機。ただっ広い倉庫の中には誰もいない。倉庫の壁一面には整備道具や飛行機の車輪や翼の一部らしいものが整然と積まれている。人間は私達だけだ。自衛隊の服装の人は私にもしものことがあれば、かばってくれるのだろうか、警護の人にしては手ぶらだった。銃も何もない。私は不安だったが、誰かがどこからか見ている、見られているという意識に背筋を伸ばしている。できるだけピンと胸を張って歩く動作もできるだけ優雅に。

 テレビでよく見る皇族の人たちの動作を思い出した。それからバレエの足にしちゃだめだ、足を外側にして歩いてはだめだ、と思い直して足を内側に向けて歩行するように気をつけた。

 大きな戦闘機を横を通り、私たちは小さな部屋に通された。使い古しの汚れたソファと灰色の細長いロッカーしかない部屋だった。大山さんは私に「使節の人はあの奥の小部屋で待たれています」と言った。私には言い方はやさしかったが、何を考えているかわからない感じだ。大山さんは次にお父さんに声をかけた。

「お父さんの方は同席されますか、されますよね?」

 と念のため聞かれお父さんは当然ですと言った。

「国交のない国でもありますし、外務省や公安警察も念のため同席しますがこれについても、同意してください」というのでお父さんは頷いた。

 私は急にどきどきしてきた。あそこの小部屋にいらっしゃるのだ。いや、正確には皇太子の使節だという人が。メイディドゥイフからわざわざ来たのだ。本当に来たのだ。ネット上で見かけた私の実在を知ってすぐにやってきたのだ。ということは本気なのだ。

 私はまずトイレに行かせてもらった。手を洗いながら私は鏡にうつる自分の顔をつくづく眺めた。ネット上で見かけたといっても私はほんの数秒しかうつっていない。なのにメイディドウイフの皇太子は私を気に入ったのだ。一体どこがよかったのだろうか、理玖の方がどうみても容姿が上だ。理玖の方が美人なのにどうして私のことが気にいったのだろう。やっぱりドッキリカメラではないかのか。私はトイレをそっと見回す。でもカメラも何もなかった。

 トイレから出て先ほどの小部屋に入ると全員が私を見た。全員が男性である。お父さん、外務省の大山さん、鈴木さんに田中さん。公安警察の広本さん、それと自衛隊の人……。

 私は足がすくむ思いをまたしたが、そうは言ってられない。

 広本さんと大山さんが「では行きましょうか」というと、私も含めた全員がより背筋をのばして直立不動になったた。

 お父さんも直立不動になっている。倉庫の高い天井を向いている。お父さんも視線をどっちに向けていいのかわからないのだ。だけど思っていることははっきりと言ってくれた。

「ま、あちらが娘のことをどう思っても今日限りでしょう。がっかりすることがあればそれまでですし、気にいられてもうちのような普通の家とあちらの国の皇太子とは付き合うこと自体が不可能でしょうし」

 お父さんは今度は私をしみじみ見て言った。

「こんなことも今日だけだよ、めぐみ」

 ……お父さんの言うとおりだ。こんなことは今日限りだ。きっと。家に帰ったらアイスミルクはやめてイチゴのヨーグルトジュースを飲んでトーストを焼こう。トーストの上には山盛りのバターをつける。その上にさらにはちみつをかける。肥ってもいい。たくさんカロリーをとってやる。

 大山さんが先にたって小部屋の方をノックした。

「はい、どうぞ」という声が奥からした。女性の声、しかも日本語だった。

 そしてドアが開いた!











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