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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第二章 過酷な現実
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第二話、時計とカレンダー

 レイレイは日本にいるときから私には逆らわなかった。レイレイの言うとおりの場所にさえいればよいらしい。もちろん私は同意できない。レイレイは太后の命令でそうしているのだ。私はそれを忘れてはならない。絶対に忘れてはならない。

 私は太后が手術直後というのが本当ならば待つしかないと思った。

 考えるのよ、めぐみ。

 しっかり考えて、めぐみ。

 レイレイは太后の味方。でもこの部屋にはカメラがあることも教えてくれた。

 となるとレイレイと私がこの部屋にいるのを見ている人がいるのだ。そういえばレイレイが割れたプレートをワゴンに載せてこの部屋の外に出そうとしたときに私は誰かの手を見た。手だけでは男性か女性かはわからない、足音も聞こえた。

 ここが宮殿だというのことが本当かどうかもわからない、だけど誰かがいて、誰かが私を見ているのだ。レイレイの忠告は明らかにその誰かに遠慮して言っていた。あのお皿の落とし方はわざとらしかったし、それも忘れてはならない。

 考えて、めぐみ。

 しっかりと、めぐみ。

 私の脳裏に私のお母さんの声が聞こえた。

「危ない、めぐみ」

「危ない、めぐみ」

「危ない、危ない、危ない、めぐみ……」

 私はいつのまにか眠っていたようだ。私が唯一日本から持ち出せたトートバッグがある。私は起き上がってバッグをしっかり両手で抱いた。

 私はこのバッグを持って必ずや日本に帰る。

 帰るのだ、帰ったらお父さんに一番に会って「私は生きているのよ」と安心させてあげたい。お父さん、かわいそうに、心配しすぎて頭が全部ハゲてしまうのではないかしら。突き出た大きなお腹もやせてしぼんでしまうのではないかしら。

 お父さんのカッパハゲをこれ以上ひどくさせないために、私は帰らないといけない。でも何も知らない状態ではいけない。

 さあ頭を働かせるのだ、しっかり考えるのだ。

 まず時計とカレンダーがいる。

「わかったわ、レイレイ。私は太后に会えるまでとりあえずはこの部屋に滞在をするわ」

 レイレイがほっとした顔をした。

「ありがとうございます」

「まず私の欲しいものをもってきて。カレンダーと時計よ」

「太后さまの許可を得てからお持ちします」

「当然の要求だと思うわよ。今聞いてきてよ」

「それはちょっと」

「私の言ったこと聞こえた? 今聞いてきなさい」

 私が強く言うと、レイレイは驚いたようだ。

「わかりました。ではしばらくお待ちください」

 レイレイは一礼してから去った。


 私はソファに座って片足を手で支えて上に伸ばした。バレエストレッチだ。手足を上に横に四拍子のカウントをとって伸ばしたり曲げたりしながらさりげなく天井や壁の様子を見る。

 天井にも壁にも無地の壁に見えるがこれのどこかにビデオカメラが仕込まれているのなら、私は慎重に行動しないといけない。メイデイドゥイフはレイレイを使って日本政府を欺いてまで、私を連れてきたがったのだ。その理由を見極めないといけない。



 レイレイがやってきた。表情が明るい。学校で使うような下敷きサイズの卓上カレンダーと小さな液晶時計を手に持っている。

「太后さまのご許可がでました。これをお使いください」

「……」

 私は黙って受け取った。カレンダーは一枚だけだ。今月分の一枚だけだ。曜日の欄が日本語でも英語でもない。多分メイデイドゥイフ語だろう。よめないが月曜日から火曜、水曜と曜日の順番は世界共通だからわかってくるはずだ。時計は午後一時をさしている。それも今はじめてわかった。

「今日は何日?」

「はい、八月二十一日です」

「えっ、じゃあ日本を出てからもうそんなに日がたっていたのね」

「そうですね。潜水艦と飛行機でここまで来て、眠ってもらっていたし、覚醒後の体調管理の調整もありましたので」

 眠ってもらっていたという言葉に私はむかっ腹をたてた。

「ちょっとお、レイレイ、いい加減に」

「まもなく太后の侍従医、ダミアンディがめぐみ様の元に挨拶にきます」

 はじめて聞く名前が出てきた。私は話と怒りの腰をおられて、とまどう。

「え、誰? ダミアンデイ?」

「ダミアンでいいですよ、私も彼のことをそう呼んでいます」

「ダミアン……」

「太后さま同様ダミアンもめぐみ様に会えることを楽しみにしています」

「じゃあ、今まで顔を見せなかったのはなぜよ?」

「見せてましたがめぐみ様は眠っておられました」

「……」

「ダミアンは太后さまの侍従医ですから、ご加減が良くないときはあちらに優先的に付き添います」

「……」

 しっかりと考えなきゃ!












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