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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第一章 出国まで
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第五十五話、諸悪の根源が判明する、前編

◎ 第五十五話



「めぐみ様、大丈夫ですか。気分が悪いですか?」

 私は目を開けた。レイレイが心配そうな顔をして私を覗き込んでいる。とにかくここがメイデイドゥイフかどうかはわからない。

 私が気を失った後、飛行機がトラブルを起こしたのは事実だ。私は自分が知る限りの記憶を掘り起こす。

 飛行機に乗った後……最初にあのぼんやりとした目を持つ薄笑いを浮かべた機長の顔を思い出した。あの人が飛行機を操縦したのだ。飛行機がトラブルを起こし、二階の貴賓室にいた私とレイレイは無事だった。デース・池津さんは、私の制服を着せられて首を亡くした。もちろん命もない。その細工で日本中の皆さんは私が死んだとおもっている。私はレイレイがその騒ぎに一枚噛んでいたことを認めないといけない。

 私はそれから潜水艦に乗せられて一度は目覚めた。レイレイがいてまだ日本のニュースが見れるといって私に見せてくれた。お父さんは無事だったが広本さんが重傷だったことがニュースに出ていた。お父さんが私が死んだと聞かされて全く納得していないのが映されていた。

 それからまたまた私は記憶を失って今目覚めた。目覚めたらレイレイがいてメイデイドゥイフの宮殿の中だよ、という。

 メイデイドゥイフの宮殿の中!

 ここはもうメイデイドゥイフなのか?

 本当に?


 信じられなかった。

 当たり前だ。

 ここはもう日本ではないと言われてはいそうですか、なんて言えない。




 私はあたりを見回した。私はベッドに寝かせられている。身体の上には真っ白なシーツ。ベッドは大きいが、部屋はやや狭い。病院の中みたいだ。ここはまだ日本の病院だよといわれてもわからない。そのくらい特徴が感じられないそっけない部屋なのだ。

 レイレイは私の顔をのぞきこんでにこにこしている。どうしてレイレイはこんな時にも笑顔でいられるのだろうか。私は急にレイレイが憎らしくなった。なによ、ちょっとばかり顔がいいからと思って私に何をしてもいいということにはならない。


 つまり最初から最後までレイレイが全部私についているのだ。私がレイレイに何から怒ろうかと思っているとレイレイがドアの方から何かを運んできた。ワゴンの上に何かがのっている。ティーポットにティ―カップにソーサー、ミルクポットにシュガーポット。お皿が等間隔に空中に浮いていると思ったらそれぞれに食べ物が盛り付けられている。

 アフタヌーンティーセットだ。

 虚を突かれて黙り込むとレイレイは笑顔のままで私のベッドわきまでそのワゴンを運んできた。

 三段になったプレートには上段はケーキ、中段はスコーン、下段にはサンドイッチが盛り付けられている。小さなブーケまで添えられている。

「めぐみ様、どうぞ食べてください。しっかり栄養を取って体力を回復させてください」

「レイレイ……」

「体力が回復なさったら、太后さまに会えます。太后さまはめぐみ様が無事到着されたことを喜ばれています。早く会いたいともおっしゃっています」

「太后……」

 状況がよく呑み込めず私は呆然とする。

 レイレイは微笑みながら私のためにお茶をサーブしてくれた。

「お茶の葉はファーストフラッシュです。お好みの茶葉があるのでしたら次回からそれをお持ちします。さあ、めぐみ様、どうぞ」

 お茶の薫りが私をリラックスさせた。私は急に空腹を感じたが先に疑問を解消させておきたい。それに私は今、怒るべきなのだ。日本へ戻せというべきなのだ。

「ねえ、レイレイ。私は今こうしている場合じゃないでしょ。ここが本当のメイデイドゥイフなら、私は日本に帰りたい。これは誘拐でしょ、あなたは誘拐犯よ。早く私を日本に帰してよ」

「めぐみ様、こういう強引な連れ出しは本当ならばしたくなかったのです。だけど必然性があるのです」

「必然性?」

「そうです、めぐみ様、冷めないうちにお茶をどうぞ。ミルクは? シュガーは?」

「はぐらかさないでちゃんと私の質問に答えてよ、レイレイ」

「私がそれをいうと越権行為になります。太后さまが理由を説明なさいます。それまではゆっくりおくつろぎくださいませ」

「……」


 のどがとても乾いている。カラカラだ。

 私はあきらめて紅茶を受け取り一口飲んだ。とても薫りともども美味しい紅茶だ。レイレイは下段のおプレートを取り、サンドイッチをつまめるように私の胸の前にサーブする。私はベッドの上で座ったまま食べろということなのだ。

 私はハムとキューリがはさまれたサンドイッチを取ったが私はもう一度レイレイ越しに部屋をぐるりと見回した。小さな部屋だがここも窓はない。壁に囲まれた四角い部屋だ。メイデイドゥイフの宮殿の中の部屋とレイレイはいうが、壁にも何の飾りもない。本当にここはまだ日本ですよ、と言われても違和感がない部屋なのだ。

 レイレイを見上げたらレイレイは私を心配そうに見ている。

「めぐみ様、サンドイッチを食べて」

「信用できないわ。また食べ物や飲み物に薬を入れているのではないの」

 レイレイが悲しそうな顔をした。

「私はめぐみ様に毒を入れたりはしませんよ。皇太子妃になられるめぐみ様に対してそんな不敬なことはいたしません」

 私は今更ながらレイレイのいうことに唖然とする。この期に及んでもまだレイレイは私が皇太子妃になるというのだ。

「皇太子妃、じゃあ、グレイグフ皇太子はまだ私のことを……というか本気で言っているの?」

「もちろん、待っておられます。そして本気で言っています。ですので、ちゃんと体調を整えて太后さまに会っていただきたいのです」

「レイレイ、日本にはいつ返してくれるの」

「それも太后さまがお決めになります」

「……お父さんは私が拉致されたと言っていたわ。私、拉致されたの?」

 そこでレイレイははじめて言葉に詰まった。私はレイレイを睨み付ける。レイレイは目を伏せて私に一礼した。

「めぐみ様に対して手荒な処置を取ったのは間違いありません……」

「じゃ私はやはり拉致されたのね? 私すごく怖いのだけど」

「申し訳ありません」

 私はまた涙が出てきたのを感じた。レイレイは目線をあげて心配そうに私を見ている。すべてのことはレイレイがしたのだが、レイレイは太后と言われる人の命令でやったという。グレイグフ皇太子でもない。太后だ。そういえば私との面談直前に坂手大臣はグレイグフ皇太子と会っていた。その時に太后が悪性腫瘍にかかっていて結婚を急いでいるといっていたのを思い出した。

 だったらすべてのキーマンはレイレイでもなくグレイグフ皇太子でもなく、太后だったのだ。メイデイドゥイフの太后!

 彼女に会わないといけない。


 すべての元凶が彼女だとしたら、私は太后に会わないといけない!


 そして私やお父さんの運命をこんなに強引に変え、日本の外務省や自衛隊を騙してまで強引に私を拉致した。世間には私が死んだことになっているらしい。私の死体はあのデース・池津さんだ。私の替え玉だ。そして日本を欺いて私を拉致同然にしてメイデイドゥイフの宮殿に連れ込んできた。

 私はどうでもメイデイドゥイフの太后に会わないといけない!

 私はサンドイッチを両手で持った。そしてそれをぎゅうっとひきしぼった。キューリがドレッシングと一緒にパンからはみだしてきた。ベッドのシーツが汚れたが私は構わなかった。

「め、めぐみ様」

 レイレイがあわてた声を出した。私はじろりとレイレイを見上げて言った。

「レイレイ、太后にはいつ会えるの?」

「……」

「早く答えないさよ」

「めぐみ様の体調がよくなってからです。私はあなたの通訳です。私はあなたの専属通訳です。めぐみ様の専属バトラーでもあります。」

「レイレイが私の専属通訳なの?」

「そうです。太后さまは日本語がわかりません。メイデイドゥイフ語しかわかりません」

「バトラーって何?」

「日本語で執事、使用人のことです」

「レイレイが私の通訳であり執事ってことね」

「そうです。すべては太后さまがお決めになりました」

「グレイグフ皇太子が決めたのではないのね? じゃあもしかしたら一番最初にYOU TUBE の例の動画をみたのももしかしたら太后なの」

「……」

「答えなさいよ、どうなの?」

「……そうです。太后さまです」

「まあ」


 とするとグレイグフ皇太子は太后の命令で私にアプローチして、太后の命令で日本まで来て外務省立ち合いの上で私と面会して太后の命令でプロポーズしたことになる。別に私の魅力でも何でもなかったのだ。すべては太后の命令で決まっていたのだ。

 そして太后の命令で私を死んだことに細工して私を拉致してここまで連れてきたのだ。

 一体なんのためにそんな面倒なことをしたのだろう!

 レイレイが私にナプキンをよこしてきた。手を汚れたので拭きなさいというわけだ。真っ白なリネンのナプキンでほどよく濡れている。私はレイレイの顔をまた見上げた。

 レイレイは心配そうな顔をしている。これも太后の命令なのだ。レイレイもグレイグフ皇太子も私のことは好きではなく、太后の命令で私の世話をしているのだ。

 私は両手のこぶしをぎゅっと握りしめた。いまやキューリの入っていたサンドイッチは完全につぶれていた。






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