第三十八話、理玖からの手紙
◎ 第三十八話
午前はその世界史と日本史の授業で終わった。もうお昼になっていた。
部屋に戻って一人でお昼ご飯を食べていたら、お父さんが帰ってきた。大きな荷物を三つ持っている。帰宅してこまごまと必要なものや、学校に行って私の荷物を取りにいってくれたのだ。
「困ったよ。記者がぼくのまわりを囲んで動いてくれないんだ。めぐみの居場所がマスコミにつかめないらしくてね、どこへやったんですかって言われたよ。困った困った。マスコミを巻くのに広本さんががんばってくれて、車もダミーや迂回路をつかってやっとここに戻ってきたんだ。ああもう昼かあ、そうそう大盛女学園にも行った。退学届もだしておいたよ。大盛校長が出てきて卒業証書を渡したかったのにといろいろ言われたけどとりあえずな」
「退学届も出したのね、話がすすむのが早いなあ。でも私が離婚されて帰国したらまた再入学になるでしょ」
「……離婚ねえ、その確率も大きいがとりあえずけじめはつけておいた方がよいだろう」
「日本を出国するまでに学校や大豆バレエにあいさつに行きたいけど」
「無理だろう」
私ががっかりすると、お父さんはやさしく私の肩をたたいた。
「これも良い経験になるよ、めぐみ。きっとね」
学校に残してきた通学かばんには使い慣れたノートやペンがあってうれしかった。上等そうな筆記用具もいいけどチープだけど文房具屋さんで理玖と一緒に限りあるお小遣いの中で選んだものの方が愛着がある。カバンのなかをさぐっていると見たことのないクリアファイルがあり、その中に二つ折りにしたレポート用紙が入っていた。
「お父さん、これ」
「あ、忘れていた。理玖ちゃんがこれを渡してくれって、ファイルにはさんでいるから」
「先に言ってよお父さん」
理玖にこうやって手紙をもらうのははじめてではないだろうか。私は急いで手紙を開封した。
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めぐみへ
メールしても届かないし、電話をしてもつながらない。
めぐみ、どこにいるの?
とても心配だよ。私はお父さんに頼んで外務省に聞いてもらったの。
場所は教えてもらえなかったけど、元気だって。
めぐみの家の周りいつでも記者さんたちがいるよ、だからかな。
本当に行っちゃうんだ、メイデイドゥイフっていう国へ。
めぐみがクオーターだってなんとなく知っていたし肌の白いところがすごくうらやましかった。めぐみは私のことを美人だといつも言ってたけど、本当はめぐみみたいなのが美人っていうのじゃないかな。
あっちへ行っても私のことを忘れないでね。私たちは親友よ。
私は早速来週からロンドンでバレエ留学をすることにしました。あのYOU TUBE で私も顔や身元を知られてしまったのでお父さんが海外留学を早めた方がいいだろうって手配してくれたのよ! ちょうどサマースクールの季節なのですんなり決まりました。私はそこで本気でバレリーナになるための勉強をします。
めぐみ、いつか私をメイデイドゥイフに呼んでください。皇太子妃になっためぐみの前で私はバレエを踊ります。めぐみのおかげで私の夢が一つ増えました。ぜひ実現させたいです。
そして私も皇太子のような立派な人からプロポーズされたいです。結婚式招待してくれたらうれしいけど、どうかな。八月十五日にメイデイドゥイフから迎えの専用機が来るらしいけどまさかそれでお別れではないでしょう? 返事を待ってます。
友永理玖より
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文章はお父さんを見かけてからあわてて書いたらしく走り書きだった。しかもレポート用紙。でも理玖のサインの下にトウシューズのイラストがついていた。何度か消しゴムを使った跡がある。
お父さんが言った。
「理玖ちゃんには都内の旅館に元気でいるからとだけ伝えている」
「わかった……」
私は結婚式にはお父さんの他に理玖は呼びたいと思った。だけど今の時点ではなにもわからない。返事を書かなきゃと思った。だけど今は結婚する本人の私ですら、詳しいことがわからないのだ。今は理玖はまだ学校だ。放課後はバレエレッスンだから九時頃に帰宅する。私は今夜遅くても理玖に電話をしようと思った。
昼食を終えて午後からの授業が待っていた。今度は礼儀作法と着物気付だ。これは少しは身体が動かせそう。バレエがあるともっといいけど、こんな日本家屋では難しいだろう。大豆バレエのみんな、どうしているかなと思った。




