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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第一章 出国まで
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第三話、検索前編

◎ 第三話


 外務省の人たちが帰った後、私は着替えもしないでへたりこんだままだった。お父さんも黙りこくっている。私は不安だった。外務省周囲には緘口令をしいているし、マスコミには公表はしないとはいうものの。私はお父さんに話しかけた。

「お父さん、これってやっぱりドッキリカメラじゃない? 信じられないよ。あんな動画で私に一目ぼれって何かの陰謀じゃないかな。本当は詐欺か何かであとでたくさんお金を取られるとかなるのじゃないかな」

「うむ、私もそう思ったが、外務省の名刺もあるし、何よりも金銭要求がなかっただろ。それと彼らはメイディドゥイフの詳細データを置いていったから……こういうことをしていくというのは、やはり本気の本当の話ではないかと思うが、どうしたものかなあ」

「四十歳でお父さんと同じ年じゃ、うれしくないなあ。言葉も通じないだろうに、何を考えているのかなあ」

「めぐみ、私にもわからないよ。まあしばらく様子を見てみるか。友達にはこの話をしない方がよいぞ、お父さんも職場には何も言わないし、ずっと黙っていたらいいだろう。あちらが本気で結婚前提で付き合いたいといってもうちはごく普通の庶民の家だし、うちのめぐみがあちらに気に入られて皇太子妃となるなんて考えられんよ」

「皇太子妃、私が? うそお……笑えるぅ」

 私はひっくりかえって居間のじゅうたんに直に寝そべった。低い天井にぶらさがっている電燈を見る。壁にかかっている古い時計を見る。うちの家は築五十年の中古住宅だからクローゼットというものもないので、昔風の箪笥があってそれがなおこの家を狭く見せている。居間の出入り口に一番近いところに電話がありその上には小さな仏壇がある。変わった配置だが昔からそうだったので私には違和感がない。仏壇の中にいるのはもちろん私のお母さんだ。写真しかないけど。お母さんは一階にいる私たちを見守るようにこの仏壇にいるのだ。お父さんにとってはお母さんとの思い出が何より大切なのだ。仏壇のすぐ下の置物入れの奥には遺品がいろいろ入っている。

 ついで私は窓の両脇にかかっているカーテンを見る。黄色をベースとした花柄だ。もう何年も洗濯していないのでカーテンの裾が汚れて灰色になっている。居間のすぐ隣が狭い台所だ。台所を出るとすぐ廊下になってつきあたり右がトイレとお風呂。二階は二部屋あって私の部屋とお父さんの書斎みたいになっているがどれも本当に狭い。そういうものだと慣れているけど、私の家は本当に普通の家でマジでしょぼい家だ。お金持ちの理玖の家とは大違い。うちは本当に本当に庶民だ。こんな私が外国の皇太子妃ってうそだろって思った。

 やっぱり詐欺だ、ジョークだ。

 実は私以外にも何人にもこういう話を持ち掛けてサギにでもかけるつもりじゃないかな。私には現実感がなく、そのメイデイとかいう国の皇太子にも親近感が全くなく逆にバカじゃないかと思った。

 寝っ転がったままお父さんの方を見るとお父さんはパソコンを見ている。背中を丸めて。お父さんの頭のてっぺんにはやはり髪の毛がない。背中を曲げるとお腹のでっぱりがもっとぶくっと膨れてカッコ悪い。カッパハゲなのに無駄に太っていて本当にみっともない見てくれの悪いお父さんだ。あの美人のお母さんと結婚したなんて信じられない。お母さんはお父さんのどこがよくて結婚したのだろうかと私は思った。

 だけど、お父さんはとてもよいお父さんだ。私をかわいがってくれる。お誕生日もクリスマスもサプライズのプレゼントを毎年くれる。お給料全部私のために使ってくれる。お父さんの趣味って何? と聞くとめぐみを幸せにすることだっていう。お給料は生活費と私の学費、余ったお金も私の将来のために貯金してるって。こんなによいお父さんをもっていて、私は幸せだ。だけどお父さんはお父さんで恋人ではない。私は早く結婚してとてもよいだんなさんを持って、幸せになりたい。

 でもこんな私を好きになってくれる人っているのかしらって思う。お父さんは私のことを「甘ったれ娘のめぐみちゃん、人に好きになってもらえたらいいけど、そんなに引っ込み思案では大丈夫かな」と心配する。私の将来は私にもわからない。

 やがてお父さんはいくつかの紙を出してプリントアウトしてきた。そしてその紙をじっとながめている。お父さんは全く動かない。私はむくっと起き上がった。紙をのぞきこんでみると、何かの地図だった。

「お父さん、それ何?」

「メイディドゥイフの地図だよ。お父さんもあの国のことは全然知らないから検索してみたんだ」

「私にも見せてよ」







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