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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第一章 出国まで
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第二十九話、お母さんの遺品がなくなっていた

◎ 第二十九話


 家のカーポートに車を入れ、私たちは玄関のカギを開けて我が家に入る。でもこれだけのことなのに何十人のも記者さんたちから数百枚は確実に写真&映像を撮られてしまった。もうむちゃくちゃだ。こんなことになって元の生活に戻れるのか心配だった。元の生活……普通に学校へ行って普通に退屈な授業を聞いて、お昼ご飯を食べたらまた授業を受ける。放課後は手芸だ。今は夏休み前だけど秋の芸術祭に備えて五人だけしかいないけど共同制作でパッチワークの壁掛けを作成中だ。

 それが終わったら週末は大豆バレエ、バレエをしないときは帰って晩御飯の用意をしてお父さんと一緒に食べる。宿題を仕上げてからお風呂に入ってお風呂上がりにはもう習慣となっている柔軟体操をする。理玖たちとチャットをしてゲームもする。時間があれば自分の部屋で刺繍作品も仕上げる。こういう毎日だ。それが普通の生活。私は理玖のように人前で堂々と踊ったりインタヴューされるのはできない。

 メイデイドゥイフのことがあってから、私は人前で注目されてしまったがほんとイヤだ、やめてほしい。私はお父さんにどうするか聞いた。お父さんは冷蔵庫の隅っこに入っていた缶ビールをとって一気飲みしていた。それから台所のテーブルに置いたままだったパソコンを立ち上げた。 

 トップ画面はヤフーニュースだがトップに私の画像がアップされていた。早くも校長先生の窓から飛び降りてこっちへ向かう私の画像が出ている。マスクをかけるのを忘れていたので顔が丸見え。題名に「メイデイドゥイフ皇太子妃になる爆雪めぐみさんがこっちへ向かって走ります」とある。無言のままでクリックすると私が動画になって手前に走っているシーンになった。これは正面玄関に横づけになったお父さんに車に乗るために走っていた時のものだ。同時に音声が入ってきた。

「ちょっとお転婆娘のめぐみさん。一階の教室の窓から足がいきなり出たかと思うと飛び降りてきて記者たちの方へ走ってやってきました。必死な顔です。そんな状態でしたがちゃんと学校専属のガードマンにはありがとうと挨拶して父親の爆雪太郎さんの車に乗って去っていきました」

 やだー……。音声はまだ続く。

「もう一度動画を見ましょう。窓からまず足がでます、それから手が。我らのめぐみさんはバレエをしているので身体が柔らかいですね。でも窓から飛び降りるときはしりもちをつきました。一分四十秒あたりからパンツもほんの少し見えますので静止画にしてお楽しみください。結構かわいいですね、必死な顔で走るところはなかなかいいですよ。ちょっと野暮ったくてあか抜けない女の子ですけどいいんじゃないですかね、皇太子妃か。すごいですね。ではまためぐみさんの画像撮れたらアップします」

 私はその画像が見ている間に閲覧人数のカウンターがまわっていくのに呆然とした。一個ずつ更新するのではないのだ。一秒ごとに数百ずつカウンターの数があがっていく。今日は平日でしかもまだお昼になっていない。これだけの人が私の画像を閲覧している。

 お父さんが言った。

「つい三十分前の動画がうちに無断でアップされている。えーとめぐみ、今後はうっかり下着を見られるような真似をしないほうがいい」

「……」

 私はうなだれた。お父さんは黙って画像を見ている。それからつぶやいている。

「とにかく日本中、うちのめぐみがメイデイドゥイフの皇太子妃になると信じ込んでいる。これをどうするかは大臣か次官クラスに収めるしかないだろう。もう一度電話をかけてみるよ」

「お父さん誰にかけるの」

「坂手大臣にしよう、一番偉いのだからな。しかし電話が通じるかな、プライベートな携帯電話を教えてもらってはいたけどな」



 結局私たちはずっと家の中にいた。まわりには報道陣がいた。私たちは前の時のようにインターホンのスイッチを切り、テレビや電話の電源も引っこ抜いている。結局坂手大臣と連絡が取れたのは夜だった。お父さんと大臣は長い時間話していた。私は台所でやりかけのクロスステッチの続きをしてたが、お父さんの話が終わらない。

 私は夜の九時までクロスステッチをしていたが、目が疲れてきたのでもうやめた。シャワーを浴びてそれから少し早いが寝ることにした。カーテンの隙間からそっと覗くとまだ何人かの記者さんたちが家の周りをうろうろしていた。はあ、とため息をついてベッドに横になった。

 大変なことになったと思っていた。話が大きすぎて自分のこととは思えない。お父さんと大臣の話はまだ続いているのだろうか。私は疲れていたのだろう、そのまま眠りについてしまった。

 次に目を開けたら朝の六時になっていた。それで朝ごはんを作ろうとして階下におりていく。するとお父さんがすでにいていつもより豪勢な朝ごはんを用意してくれていた。メニューは白いごはんと卵焼き、わかめのお澄まし汁、しゃけ一切れ、大根おろし。いつもはパンと牛乳だけなのでお父さんが作るにしては豪勢だ。お父さんがおたまを持って私を見た。

「おはようめぐみ。今日もお父さんは仕事を休んだので早起きしてちゃんとした和食の朝ご飯を作ったよ」

「私はあれからそのまま寝ちゃった……大臣と話したのでしょ、どうなったの」

「どうなったもこうなったも……お受けしたらということだ」

 私は席についておはしをとったが驚いて落としてしまった。

「じゃもしかして外務省が……私はちゃんと断ったのに引き受けたということなの」

「微妙に違うな、めぐみ。八時になったら田中さんと鈴木さんが迎えに来るから外務省に行こう」

「お父さん、坂手大臣には何と返事したの?」

「うん、めぐみ。こんな大騒ぎになってしまったから、もういっそのことあちらの国へ嫁いでしまったらどうかと……」

「お、お父さん?」

 私は驚きすぎて何も言えなくなった。お父さんが変わってしまったのだ。お父さんがまさかこんなことを言いだすとは思わなかった。私があのメイデイドゥイフの皇太子のお嫁さんになるの? うそ……。

「ご飯を食べようよ、めぐみ」

「ちょっと、これってしゃけを食べながらする話じゃないじゃん、お父さん本気なの?」

 お父さんはちょっと深刻な顔をした。

「本気だ。その前にもっと大事な話がある。お母さんの位牌、電話の隣にいつも置いてあるだろ、その下にちょっとした遺品を入れる小引き出しがあるんだ。お前も知っているだろ」

「話を逸らさないでよ、どういうことなの」

 お父さんの目つきが鋭くなった。

「いいから聞いてくれ」

「……」

「遺品のうちの一つがなくなっている、それもいつからなくなったかわからないんだ」

「お母さんの写真のこと?」

「違う、写真はこのとおりちゃんとある」

「じゃ何なの」

「産着だよ……お母さんが赤ちゃんの時に捨てられたと言っただろ、その時に来ていた服だ」

「赤ちゃんの産着……あの小さいベビーピンクの産着ね。それが」

「昨日初めて気づいたんだ、ぞっとしたよ。我が家に誰かが意図的に入ってそれを盗っていったということではないかと思うんだ」

 お父さんは大きくため息をついてそれから白い湯気のたつご飯をほおばった。よくこんなことを話しながらご飯を食べれるものだ。

「時々帰宅時に違和感を感じることがあった……お母さんの若い時の写真などはそのままある。だけど産着だけないんだ。これは推測だが産着にはお母さんの体毛や汗などがしみついていたとしたら……」

「だとしたら……」

「このたびのメイデイドゥイフのしつようさの合点がいくんだ。例のYOU TUBE の動画が引き金になったことは間違いないが多分……」

「お母さんがメイデイドゥイフの国の人だったということ?」

「正確にはおばあちゃんだな、おそらくな」

「おばあちゃんが亡命かなにかして生まれたばかりのお母さんを捨てて……捨て子のお母さんが十八才になってお父さんと結婚して私が生まれて……それをメイデイドゥイフに知られたということなの? そんなことをしてどうするの?」

「私にもわけがわからない、だけど坂手大臣は何か関連性があるのは確実だと言っていた」

「普通亡命したとしたらすぐわかるのじゃないの? その人がお母さんを産んで捨て子までして」

「だから私にもわけがわからない。めぐみ、朝ごはんはしっかり食べなさいよ。もうすぐ迎えが来るよ」

「お父さん、それで私が嫁に行くの、あの国に? お父さんこそ朝ごはんをしっかり食べている場合じゃないと思うけど」

「どういううまいご飯でも、家の中でゆっくり家族で食べるご飯が一番おいしいに決まっている。だから一緒に食べるんだ。ぼくの娘のめぐみと……」

「……お父さん」

 お父さんは下を向いてやけくそのようにご飯を食べている。ご飯のどんぶりが空いたら、私の前に突き出す。

「ご飯のおかわりっ」

「……はい」

 私は立ち上がってジャーを開けてご飯をよそった。ふりむくとお父さんが私の方を見て泣いている。

「やだ、どうして泣くのよ」

「こ、こうやって娘にご飯をよそってもらえるのも最後かもしれん……」

 お父さんはどんぶりを受け取るとまた下を向いてご飯をたべた。しゃけはすでになくふりかけもなしでそのままご飯を頬張っている。

 私はご飯なんか食べれる心境ではなかった。お父さんまでもがあの皇太子と結婚させるつもりだ。私は海外に行ったこともないのに、お父さんだってそうなのに私にはメイデイドゥイフという国へ行って暮らせというのだ。四十歳の皇太子と結婚せよというのだ。四十歳といえば立派なおじさん、お父さんと同じ年だ。私は恋愛をまだ知らない。それなのにそんなことをいうのだ。私はその場で泣き崩れた。

 私のお父さんは一晩で変わってしまったのだ。








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