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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第三章・統治者への道
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第十四話・筆子さんの再婚




 ロザチカとはスカイプで連絡をとっている。レイレイ達も忙しいはずだが、よく連絡をくれる。坂手大臣も帰国後の生活に慣れましたかと毎日のように聞いてくる。外務省がメイディドゥイフの情報をくれとか、警視総監から警備の失態で拉致されてしまったことをおわびしたいとか、いろいろあったが全部坂手大臣に返答をまかせた。私は誰とも会いませんと。

 レイレイからは日本語が堪能なのと、性格ゆえか結構細かいことを報告してくれる。今日は鎖国を解く手順を議論しました、とか。専制君主よりも選挙をして国民にも政治参加を促そうかという案も出ているらしい。

 レイレイはそれも私の功績でもあるという。メイディドゥイフが良い方向に行くのだったらそれでいいが私は政治学なども興味がなく、「グレンはどうしてる」 と聞くだけだ。動画や画像を送ってくれるので、癒されている。なんとロザチカが乳母も雇わず、忙しい女王業のかたわら、おしめの交換やミルクを作って飲ませたりを頑張っているらしい。だったら情がうつって暗殺なぞしないよね? でもその日は違った。レイレイが深刻そうな顔をしている。

「先週から筆子さまがザラストさまとずっと一緒にいます。昼も夜もです」

「えっ。昼も夜もって、ヨハンがいるでしょう」

「ヨハンはロザチカづきです。これはザラストさま直々のご命令でした」

「どういうこと」

「はい。この件はロザチカさまも警戒されておいでです。メイディドゥイフ国家は兄弟姉妹で争って殺し合って成り立っている王室ですので」

「ちょっと、レイレイ、あなたも一応、血縁者でしょうが」

「はい。でも筆子さまだけは違います」

 私は急に不安になった。筆子さんと再会したときに、このメイディドゥイフ王家を乗っ取りましょうよと思い切り提案していたな……それを思うとドキドキする。でもここは日本だし、仮に筆子さんがそうだとしても年齢が違い過ぎる。筆子さんとザラストさんは三十歳は離れている。

 私がそういうと、レイレイは過去親族同士で五十歳違いの結婚もあったという。そういえば、古代エジプトでは親子や兄妹の結婚が当たり前だった……私が帰国して一週間たったがメイディドゥイフはまだ混乱しているだろう。

 鎖国廃止のニュースやいつのまにか太后が死んでグレン将軍の生まれ変わりとする男児が日本人の少女から生まれたとされている。しかも罪人扱いされていたロザチカが今は女王だ。昔も現在も全部は明らかになっていないし、私もそのあたりのことはわからない。太后と一緒だった私ですらわからないので、メイディドゥイフの人々にとってはもっとわからない。寝耳に水の状態だ。

 私は二階の部屋で寝転がる、父と一緒に鮭茶漬けを食べる。まわるお寿司を食べる、という願いをかなえたものの、今頃になって心配になってきた。レイレイと連絡を取る。

「レイレイ、少なくとも私が産んだグレンを暗殺されないようにしてよ。頑張ってよ」

「頑張りますけど結婚はいつしてくれますか。グレンをパパと呼ばしてもいいですか」

「やめて。それこそロザチカに暗殺されるわよ。ああ、ロザチカはレイレイの産みの母だったわね、それはないか」

「いや、ありえます。そういう王家ですので」

「でもグレン将軍は建国の時に、そういうのを一掃したのでしょうが」

「でも太后のおかげで元通りです。ロザチカ女王からの信頼は今は厚いですが私も今後もどうなるかわかりません」

「レイレイ」

「めぐみ様、メイディドゥイフに戻ってきませんか。あなたは自由です。日本政府の後ろ盾もありますし、そういう意味では安全です。世界中の注目の的です。戻って我が祖国メイディドゥイフの土地を巡幸しませんか。ロザチカさまとご一緒に。そうすれば国民も喜ぶでしょう」

「そんなこと言われても」


」」」


 その数時間後、時差の関係があったが翌朝起床したら父があわてている。

「めぐみ。筆子さまという人はまだメイディドゥイフにいらっしゃったな。大ニュースになっとるぞ」

「わかってる。太后の弟のザラストさまと婚約したのね。筆子さん仕事早い。というより元々女性として魅力的だものね。ザラストさんもいい人だけど愛はなさそうだし、政略結婚みたいだな」

「婚約でなく身内だけで結婚したという。筆子さまは、一度目が民間の人で、その人が亡くなられて、次の夫が三十歳年上の王家の人。めぐみ、その、ザラストさんも知っていたのか」

「まあねえ。それにしても筆子さんたら」

「筆子さまだろ、不敬だ」

「お父さんは何も知らないのよ。まあ、私も知らないけど」

 婚約じゃなくて、結婚か。仕事が早すぎるよ、筆子さん。


 結婚話と言えば理玖もだ。バレエ好きのイギリスの貴族と婚約したが遊びに来てくれと言う。日本には帰国せず、イギリスで盛大な結婚式を挙げるから出席をしてくれという。私の存在が明らかになったのも、理玖のおかげだし、いずれ直接会ってお礼をいうつもりだった。理玖はバレリーナとして活躍しつつ、英国人と婚約。女性の王道人生のようだ。理玖は理玖でバレエ界で天下取るのだろうか。

 私は理玖とテレビ通話しながら頭をぶんぶんと振る。理玖は幸せそうにのろける。

「日取りはまだ決まってないの。私もバレリーナとして一番良い時期で公演にも出たい。観に来てね。それと式にも出てね。できたら赤ちゃんも連れて来て」

「グレンは連れてこれない。メイディドゥイフ経由でイギリスの結婚式に行くのは無理よ。いや~理玖、私はまだロザチカさんのことよく知らないのよ。ぶっちゃけ、あの人、怖いし元々あんまり関係ないし。でもグレンになにかあっても困るからグレンだけ連れて帰ればよかった」

「グレンは一応メイディドゥイフ王家の後継者でしょ。めぐみったら、あなたも王家の人間なら、もっと堂々としていなさいよ」

「だからそんな実感ないってば」

 私はさすがに理玖には、ロザチカの卵子で改めて妊娠と出産を要請されたことは話せなかった。それにしても帰国しても問題が続く。私はこれで本当に観念した。私の人生で静かに過ごせることは無理そう。



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