表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第三章・統治者への道
105/116

第五話、お父さんの現況がわかる


 するといきなり、検索欄に日本語一覧がでてきてびっくりした。トップが私のフルネーム。


爆雪めぐみ、

めぐみん、

メグミルク、

め組……

 もちろん私は一番上の爆雪めぐみをクリックする。

 するとまた別項で検索一覧が出てきた。


「あの爆雪めぐみはどうなったのか」

「メイディドウイフ皇太子妃になりそこねた悲劇の少女」

「自衛隊基地には爆雪めぐみさんの亡霊を見た人多数」


 ……やはり私は死んだことになっているのか。あの飛行機事故で……レイレイの手腕は大したものだわ。

 三人の言い争っている声を背景に私は次から次へと夢中でクリックしていく。

 やがて「爆雪めぐみは実は生きています」 という項目にあたった。うわ、私が生きていると思ってくれている人がいる。と喜んでクリックすると、お父さんと私のツーショットの写真画像が一面にバーンとでてきた。

 しかしそれ以外の画像がない。仕方なく管理人のプロフィールをクリックしてみる。すると見覚えのある男性の画像が出てきた。誰だろうと目をこらす。しかもどこかで見た顔……自衛隊員の服装。

 名前は…… 「棚下」 とある。

 私は思い出した。私が飛行機のタラップを上ると見送りの自衛隊員たちをかき分けて私に向かって大声で「気をつけろ」 といった人だ。あのおじさんだ。あれが棚下さんだった。私は棚下さんが自衛隊の仲間から取り押さえられながらも叫んだ言葉を思い出した。


「めぐみさん、メイデイドゥイフの陰謀に気をつけてください。日本の外務省には国交と貿易とお金をばら撒いて日本人の少女を供出せしめんとしているのですぞ、日本が舐められている事態なのですぞ」


 ああ、棚下さん……あの人だけだ。陰謀説を言った人は。

 坂手大臣はじめ皆が名誉なことだと喜んでいたのに、棚下さんだけは違っていた。そして結果的には棚下さんだけが正しいことを言っていた。

 こうしてなお、ブログまで作って私が生きていると主張しているのだ。

 私は震えてきた。下記のページをクリックして電子署名をお願いします、とある。私はページの下をスクロールする。すると禿げ頭のおじさんが、私の写真をもって立っている。見慣れた顔だけど誰だ? と思ったらそれがお父さんだった。

 うそ、と思って大きくクリックすると、お父さんが「めぐみは生きている、署名をお願いします」 というタスキをかけて見慣れた駅や学校の前で通行人に署名をお願いしている画像があった。お父さん……私のお父さん……頭の上にあったお父さんが大事にしていた髪の毛はもう一本もない。それから突き出たおなかもぺったんこになっていた。お父さんはやせていた。頬までこけて最初はだれだかわからなかったぐらいだ。

 ああ、私のお父さん……

 画像を見ているうちに私は身体の震えが止まらなくなってきた。お父さんと棚下さんだけが私の生存を確信している。何の根拠もないらしいけれど、生きているからと署名をお願いしている……現にこのホームページにも電子署名をお願いしますとある。現在の署名人数はたったの三十三人。多分誰もが私の生存を信じていない。お父さんと棚下さんだけなのだ。

 ああ、お父さん……私が生きていることを信じている。

 棚下さんとお父さんがつながっている。協力者はいず本当に二人だけでやっているようだ。あれ、棚下さんは自衛隊の服装ではないし、首周りが垂れている変なシャツとくたびれたズボンをはいている。もしかしたら私が搭乗するときに騒ぎを起こして自衛隊をクビになったのかもしれない。

 それでも少なくともこの二人は私が生きていると信じている。

 お父さん、私のお父さん。

 それにしてもお父さんたら……かわいそうにこんなにハゲてしまって……河童ハゲだったけれど半年で完全にハゲてしまった。誰だかわからぬぐらいにハゲた。そして老けた。口の横のしわが深くなって痛々しい。おなかもぺったんこになって逆に貧相になっている。

 ……こんなに老けちゃって……それでも、ああ、お父さんに会いたい。


 いきなり電源が抜けれて画面が真っ黒になった。ダミアンが私のすぐ横に立っている。反対側にはレイレイがいた。私は泣きながら立ち上がった。しゃくりあげながら怒鳴ったつもりだが、かすれ声しか出なかった。

「ちょっと何をするのよ、まだ全部見ていないのにひどいじゃないの」

「お体に触りますので、今はダメです。もう少しお元気になられてからにしましょう」

 レイレイが優しく腰をかがめてささやいてきたので私はレイレイに平手打ちをした。レイレイは例によって避けずに目を開いたまま、笑顔を絶やさない。効果ゼロだ。私は後ろを振り返ってもう一人呼ぶ。

「ヨハン」

 ヨハンがいない。ついさっきまで私のすぐそばにいたのに、いつの間に退出したのか。私は次に声をかけた。

「ダミアン」

 ダミアンはいたが、肩をすくめただけだ。ひどい。

 一体、三人でどういう話し合いをしたのか。

 パソコンを見せてほしいのに。見せてそれでいて途中で取り上げるなんてひどいじゃないか。

 私はキーボードをかちゃかちゃと言わせた。大きなディスプレイ画面に近寄って叩いてみた。そこまでしてもダメだった。コードを頼って電源をみようとする。

 と、私は急に眠たくなった。レイレイが私の腕をもっていた。

 たぶんまた睡眠剤を使われたのだ。ひどいじゃないか。

 やっぱり私は拉致されたままなのだ。

 やっぱり私には自由がないのだ。

 事態が変わったように見えても変わっていないじゃないか。

 ひどいじゃないか、みんな!

 お父さん、助けて!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ