第44話・強制妊娠から強制出産へ
ダミアンの隣にいるレイレイの表情は硬かった。納得しない私にすがるように説明をする。
「麻酔を使いますので寝ているだけでOKです」
……寝ているだけでOKって、この人たちは私をとことん、バカにしているわ……
「そして生まれ出た子供はこのメイディドウイフの第一の皇位継承権を持っています」
……そりゃそうでしょ。そのために私を拉致したのだから……
「早期出産になりますが、グレン将軍の誕生日の六月になると、国民の前に出せるようになります」
……ふん……
「それまでは、この執務室で保育器に入れて、私たちが大切に育てます。めぐみ様は本当に何もしなくてもいいのです」
……あきれるわ。どうしてそんなに大事なことをさらりというのだろうか。私はただの借り腹だからだろうか。私はレイレイの顔を睨む。レイレイの顔もこわばっていた。
「めぐみ様、わかっていただけましたか?」
私は突然立ち上がり、部屋の外に出ようとした。ダミアンが行く手をふさぐ。私はダミアンの手にかみついてさらに外に出ようとした。負けるものか。
「めぐみ!」
ザラストさんの声を後ろに私はドアのノブに手を開ける。しかし開かない。ドアの外からは大勢の人の気配がしている。たぶん近衛兵だ。このドアの向こうに整列して並んでいるのだろう。私は大きく息を吸う。
「助けて」
私は叫んだ。もちろん日本語だ。
「波羅さん、いる? 筆子さん、助けて。坂手大臣、聞こえる? 助けてよ。お父さん!」
涙が出てきた。それでも私は嗚咽するかわりにのどの奥から大声で叫ぶ。
「お父さん、聞こえる? 私は出産なんていや、日本に戻る。戻りたい。日本に戻して、助けてえ」
私の身体の周りにやわらかな雲が私を取り巻いていた。なんだろうと思ったら手足の力がいきなり抜けた。レイレイが崩れる私の身体を抱いた。
「めぐみ様、大丈夫です。私はあなたを愛しています。忠誠を誓います」
レイレイの青い目が私の世界を覆い尽くそうとしている。私は反論しようとする。なにが愛している、なにが忠誠を誓うだ、だが声がでない。かろうじてかすれ声を絞ってレイレイに顔になげつける。
「れ、レイレイの……ば、か……あな、た……のせいで……わ、わたし……は……」
「めぐみ」
今度はザラストさんの声が耳元でした。それきり意識はない。
おなかの子供を取られて……再び私は囚われの身になるのか……私は……
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
どのくらいの時間がたったのか、私は遠くで赤ちゃんの泣き声を聞いたような気がした。たぶん生まれたのだ……おなかは痛くない……私は母になったのか。
頭の中がぼんやりとしている……体が動かない。
太后は死んで太后と建国の父、メイディドウイフの建国の父、グレン・メイディドウイフのDNAを受け継いだ子供が生まれて……私は……再び眠りにつくのか。
気が付けばメイディドウイフにいた。
次に気が付けば妊娠していた。
そしてその次に気が付けば出産していた。
ええ、どうせ私はこのパターン。
己の意志に沿わぬいじめにあって、皇太子妃だのなんだのと全世界から持ち上げられた……
あげくのはてにこのザマだ。
……しかし皆はこのザマは知らなくても、私は負けない。
最後に勝つのは私
……勝ってみせるわ……よ……
第二章・過酷な現実・完