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灯りの分岐

作者: SAME

昔、ある町に夫婦が住んでいた。夫は温厚で働き者の家族思い。妻は社交的でしっかり者の世話好き。

彼らには一人娘がいて、御年23のお年頃。両親の愛情を一身に受けて親元で何不自由なく暮らしていた。


外からは、ありふれていて何の問題のない、幸せな家族に見えていることだろう。

しかし、やはりこの家庭にも問題はあった。


夫が愛したのは妻と子供・・・妻が愛したのは子供と妻の両親、そして妻自身だったのだ・・・。


朝早くから夜遅くまで、夫は働いた。平均よりちょっと多いお給料を稼ぎ、家事も手伝い、義両親のサポートをもこなした。

家族に快適な暮らしをさせたいと、副業で小銭も稼いだ。


朝から昼間まで、妻は家事をした。彼女は手に職などもっておらずパートなどにも興味はなかった。だから残りの余った時間、自分の時間を有意義に楽しみ、両親や娘と出かけ、たまにボランティアに顔を出し、近所の裕福な家を羨み、夫の給料の少なさを嘆いた。


妻に言わせれば、夫は要領が悪いのでこんな額のお金しか稼げない。なんて甲斐性がなく頼りないのだろう。だから自分や娘は贅沢もできないし生活もやっと。親に恩返しすらかなわないということだった。

彼女の夫に対する不平は、見事に娘に受け継がれた。

その子は海外旅行に行った、あの子はブランドのバックを提げていた、今度この子はすっごい豪華なリゾートホテルで式を挙げるんだって!家が貧乏だから私はみんな諦めなきゃならない。

毎日のように降る不平不満のなか、夫はただただ働いた。家族を愛していたし守りたかったから。


人並みよりちょっと上の生活では母子は満足しなかった。

一度だけ、夫は妻や娘に『働いてくれないか』と頼んだことがある。家事も今以上にサポートするからお願いできないか、今自分は、仕事の他に副業もこなしている。それでもこれ以上稼ぐのは難しいから、と。


彼女たちの反発は、それはそれは大したものだった!

自分の稼ぎが少ないのは自分のせいでしょう?私たちには関係ないじゃない。妻子も養えないなんて、男として情けないわね?

大体主婦は忙しいのよ、疲れるの。私たちに無理をさせてまでお金が欲しいって言うの?


夫は2度と仕事のことについて話すことはなかった。家族を愛していたし壊したくなかったから。


ある日、珍しく仕事が早く終わり、丁度副業も休みだったので、夫は家路についた。

突然、現れたら驚くだろうか?家族そろって夕飯を食べられるなんて何十年ぶりだろう?まだ娘が小さい頃・・・ああ、時間がたつのも早いものだなぁ。あの子もすっかり大きくなった。いずれ結婚して我が家を出て行く日もくるだろう。そうなったら妻と2人でゆっくり温泉にでも行きたいものだなぁ。


歩くスピードが心持ち速くなる。

次々と点灯していく街灯や町並みを抜けて、夫はひたすら自宅を目指した。


自宅の電気は消えていた。

鍵を開けてリビングを除くと、相変わらずの光景が-散らかった衣類や雑誌や空容器が散乱しているーが目に入った。

ここの所、リビングを綺麗に掃除するのが彼の日課になっていた。どんなに片付けていても、次の日の帰宅時には元に戻っている。

外のかすかな光が陰を際立たせ、部屋の惨状を陰湿に強調している。

夫は電気をつける気もおきず、ため息をつきながら近くのゴミを一つ手に取った。


その瞬間

ベランダごしに、隣の家の明かりが目に入った。


暖かそうなオレンジ色の光。


目を道路側にやれば、遠くに見える家々にも明かりがともり、そう、きっとその下にいる彼らの家族を照らしているのだろう・・・。彼は、老夫婦だけの世帯も新婚夫婦も2世帯もありとあらゆる人々が、同じように明かりの下で話したり笑ったりする姿が見えたような気がした。

もちろん、彼らにだって悩みや問題があるのだろう。けれども・・・。


他所の灯り、一つ、見ただけなのに、何かが心にあふれ出してくる。


彼は急に虚しくなって手元のゴミを見た。


自分はリビングを綺麗にしている。それはこの部屋の役割を維持したいからだ。くつろいだり何か食べたり語らったり、ここは、そういう場所のはずだ。

でも、片付け電気をつけて明るくし、安らげる場所を作ったとしても、明日の今頃にはまた、一からやり直しになるだろう。

妻や娘は、長い時間家にいない自分が片付けていることに何の疑問も持っていない。


これは自分の今の状況にもいえる。

いくら家族のために働いても、仕事を掛け持ちし、人並みとはいえ余裕のある生活ができるよう頑張っていても、大事にされるどころかこれまでに感謝の言葉すらもらったことはない。言葉と言えば不満ばかり、常に貶されているだけだ。


自分は今まで「家庭」を維持するためにやってきたのに。あらゆる我慢と犠牲を払い、自分勝手な妻や娘のために。

自分がいなければ生活できないくせに。この歪で壊れた家族は何なのだろう?あいつらさえいなければ、ちゃんとした「家庭」をつづけることができたのに・・・。


そこまで考えて、彼ははっとした。


・・・いや、維持はできてるんだ

自分は 維 持 す る こ と し か 考えてこなかったのだから!!!


相手に向かい合えば、その後の変化がどうなるのか不安で、ただ「家族」としてあればいいと・・・ずっと形を保たせることしか考えなかったのだから。


妻は何年経っても変わらず、何にでも文句を言い続けることだろう。

娘はこのまま嫁に行くことはない・・・できないだろう。

そして自分は・・・。



地下の車庫が開く音がした。妻達が戻ってきたようだ。

彼はゴミを床に戻し、そのままゆっくりと自室へ入っていった。


 ※分岐点・地下の車庫が開く音がした。妻達が戻ってきたようだ。

      彼はカーテンを閉め、リビングの電気をつけた。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

主観にまとまりがございません。読みにくくてごめんなさい。


最後の4行が分岐です。違いが分かりにくいですが。

どちらの行動をとったかで、その後の「彼」の生活は変わってしまうでしょう。

「夫」としてではなく「彼」としての人生が。

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