愛しの世界にさよならを
不意に空を見上げた。深い深い静寂と、闇の中に、ぽっかりと金色の穴が開いているのが見えた。
その穴の向こう側で、僕に背を向けているウサギ。まるで、ついてこいとでも言わんばかりだ。
とりあえず手を伸ばしてみるけど、届きそうにもない。
あぁ、僕もそこにいっていいかな?ちょうど、行く場所を探していたんだよ。
冷えて、疲れきった手足も、今ならまだ、言うことを聞いてくれるだろう。
なんだか悲しくて首にかけていた、愛用のヘッドホンを丁寧にかけなおす。
リピートし続け、何度も何度も聞いたお気に入りの曲が、静寂をぶち壊していく。
幸せじゃないか!こぼれ落ちんばかりの星屑は、辺りを照らし。こんなに美しい世界。
こんなにすばらしい世界に、独りきり。踊り出しそうなくらいに、幸せだ。
あぁ、僕は幸せ者だ。なにもかも全部捨てて。
「じゃあね、ばいばーい」
そんな美しい世界に、笑顔でお別れを告げて。
僕は、金色の兎穴に飛び込んだ。
兎穴=月




