泣ける場所
泣ける場所がある、と言うことは、素敵なことだと思う。
例えばそれは母の腕の中だったり、自室の布団の中だったり、階段の隅だったり。
私にとってそれは、幼馴染である「彼」の腕の中だった。
泣き虫である私は、よく彼の元へ行っては縋りつく。彼はそんな私を腕の中に招きいれ、頭を、背中を撫でてくれる。頭を抱きこまれた形である私の耳には、彼の少し早い心音が聞こえるのだ。
その音に、手に、温度に安心したところで、「泣きたいなら、思う存分泣け」と声が降ってくる。それを皮切りに、私の目からはとめどなく涙が溢れる。
私にとっての「泣き場所」は、彼の腕の中だった。
ある日、彼の両親が亡くなった。事故だった。
誰を恨む事もできない事故だった。
葬式の最中、彼は涙を流すことはなかった。兄弟は居ず、まだ高校生である彼は親戚のところでお世話になるらしい。
ご遺体を焼く時、私も昔なじみと言うことで参加させて頂いた。
彼の両親のご遺体が焼釜に入るのを見届けると、骨を拾うまでに時間ができる。
「ねぇ、ちょっと来て」
焼釜を見つめてぼぅっとしている彼を引っ張って、なるべく人気のない部屋を目指す。彼は困惑気味だったが、されるがままだった。
やがて見つけた和室に入ると、私は部屋の中心まで行って彼に向き直り、両腕を広げる。
「・・・?」
ぽかんとしたまま、彼は私を見つめた。そんな彼の頭を引き込み、私の胸に抱きこめる。
様は、彼の真似なのだ。
彼の頭を抱きしめ、撫でたり、髪を梳いたりもしてみる。そして、言うのだ。
「ここなら、誰も居ないよ。こうしていれば、顔だって見えないよ。だから・・・だから、思う存分、泣いていいんだよ」
しばらくの沈黙の後、ゆっくりと、恐る恐ると言った風に彼の手が私の背中に回った。
「・・・っ、う・・・く」
嗚咽が聞こえてきて、私は彼の頭を撫でた。彼の脚は力を失ってきているようで、徐々に崩れていく。彼は私よりも背が高いので、彼の頭を抱えている私も自然に膝を折った。
控えめだけれど、はっきりとした嗚咽が聞こえる。胸元も湿ってきた。
彼に私の心音が聞こえるように、強く抱きしめる。私を抱きしめる彼の腕にも力が入った。
ご遺体が焼け終わるまで、確か30分ほど掛かると言っていた。じゃあその間、彼の気が済むまで泣き続ければいい。
彼の腕の中が、私にとっての「泣ける場所」だった。
私の腕の中も、彼にとっての「泣ける場所」になればいい。そう、心から思った。
こういう雰囲気と言うか、シチュエーションというか、とにかくそんなのを書きたくて書いた文です。
思ったよりも短くなったしまいました。
「泣いたらすっきりする」とは言いますが、実際に泣くのは大変ですよね。きっかけがないことには涙腺は緩まないし、誰にもかまって欲しくないのに心配をされたり。
そんなときの「泣く場所」があったらいいな、と思いました。




