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短編詰め合わせ

泣ける場所

作者: 猩々緋
掲載日:2010/10/02

 泣ける場所がある、と言うことは、素敵なことだと思う。

 例えばそれは母の腕の中だったり、自室の布団の中だったり、階段の隅だったり。

 私にとってそれは、幼馴染である「彼」の腕の中だった。

 泣き虫である私は、よく彼の元へ行っては縋りつく。彼はそんな私を腕の中に招きいれ、頭を、背中を撫でてくれる。頭を抱きこまれた形である私の耳には、彼の少し早い心音が聞こえるのだ。

 その音に、手に、温度に安心したところで、「泣きたいなら、思う存分泣け」と声が降ってくる。それを皮切りに、私の目からはとめどなく涙が溢れる。

 

 私にとっての「泣き場所」は、彼の腕の中だった。



 ある日、彼の両親が亡くなった。事故だった。

 誰を恨む事もできない事故だった。

 葬式の最中、彼は涙を流すことはなかった。兄弟は居ず、まだ高校生である彼は親戚のところでお世話になるらしい。

 ご遺体を焼く時、私も昔なじみと言うことで参加させて頂いた。

 彼の両親のご遺体が焼釜に入るのを見届けると、骨を拾うまでに時間ができる。

 「ねぇ、ちょっと来て」

 焼釜を見つめてぼぅっとしている彼を引っ張って、なるべく人気のない部屋を目指す。彼は困惑気味だったが、されるがままだった。

 やがて見つけた和室に入ると、私は部屋の中心まで行って彼に向き直り、両腕を広げる。

 「・・・?」

 ぽかんとしたまま、彼は私を見つめた。そんな彼の頭を引き込み、私の胸に抱きこめる。

 様は、彼の真似なのだ。

 彼の頭を抱きしめ、撫でたり、髪を梳いたりもしてみる。そして、言うのだ。

 「ここなら、誰も居ないよ。こうしていれば、顔だって見えないよ。だから・・・だから、思う存分、泣いていいんだよ」

 

 しばらくの沈黙の後、ゆっくりと、恐る恐ると言った風に彼の手が私の背中に回った。

 「・・・っ、う・・・く」

 嗚咽が聞こえてきて、私は彼の頭を撫でた。彼の脚は力を失ってきているようで、徐々に崩れていく。彼は私よりも背が高いので、彼の頭を抱えている私も自然に膝を折った。

 控えめだけれど、はっきりとした嗚咽が聞こえる。胸元も湿ってきた。

 彼に私の心音が聞こえるように、強く抱きしめる。私を抱きしめる彼の腕にも力が入った。

 ご遺体が焼け終わるまで、確か30分ほど掛かると言っていた。じゃあその間、彼の気が済むまで泣き続ければいい。

 

 

 彼の腕の中が、私にとっての「泣ける場所」だった。

 私の腕の中も、彼にとっての「泣ける場所」になればいい。そう、心から思った。



 こういう雰囲気と言うか、シチュエーションというか、とにかくそんなのを書きたくて書いた文です。

 思ったよりも短くなったしまいました。

 

 「泣いたらすっきりする」とは言いますが、実際に泣くのは大変ですよね。きっかけがないことには涙腺は緩まないし、誰にもかまって欲しくないのに心配をされたり。

 そんなときの「泣く場所」があったらいいな、と思いました。

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