涙
山岸は施設にいる母に会いに来ていた。介護支援ロボットNF17が母の世話をしてくれていた。重労働で賃金も低いため、介護の担い手はずっと不足していた。その問題を解決するため、今年度から介護支援ロボットが導入されたのだった。高齢者の移動補助、食事補助、排泄補助、投薬管理、そして日常会話の相手。介護支援ロボットはたいていのことができた。
「喉が乾いた。お水を少しだけちょうだい」
母がそう言うと、NF17は30ミリリットルの水を正確にコップに注ぎ、母の口元に運んだ。
「ありがとう」
母はNF17にお礼を言った。
「どういたしまして」
NF17は機械的に返事をした。その夜、山岸はNF17と話をしていた。山岸は後ろめたい気でいた。仕事の関係でなかなか施設に来ることができなかったが、もう少し会いに来る機会を増やした方がいいかもしれないと内心では考えていた。
「仕方ないじゃないか。仕事をしなければ子供たちを育てられない」
山岸は言った。
「お母さまは気になさっていません」
NF17は言った。
それから一か月後、容体が急変し、母は息を引き取った。山岸は死に目に会えなかった。その日、施設から300キロ以上離れた場所に出張していた。連絡を受けて急いで駆けつけたが、既に母は冷たくなっていた。医師とNF17が立ち会ったということだった。
「お母さん。ごめんなさい」
山岸はボロボロ泣いていた。もっと良くしてあげられたはずだ。もっと会いに来られたはずだ。そう思っても、もう遅かった。
「お母さまは気になさっていません」
NF17は言った。
「お前に何がわかる?」
山岸はカッとなってNF17に殴りかかろうとした。その時、山岸はNF17の目の辺りから、液体が流れ落ちているのを見た。
「お前、泣いているのか?」
山岸はNF17に問い掛けた。
「冷却システムの故障のようです」
NF17は言った。
翌日、山岸は母のお葬式をした。ほとんど付き合いのなかった親戚に連絡したが、遠いから行けないと断られた。父はすでに他界しており、兄弟のいない山岸は一人で葬儀を執り行った。
「もっとお花を敷き詰めてくれよ」
山岸は棺の中の母を花でいっぱいにしようとしていた。NF17がそれを手伝ってくれていた。




