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無敵の三姫  作者: 猫化猫
8/8

8.喧嘩

試験後、僕とシロナは特に会話もなく寮に帰ってきた。

寮に着くと同時にシロナから先ほどの試験についての話をされる。


例えば、「救出はタイムロスだった」だとか「2人で扉を探したほうが効率的だった」とか。確かに言っていることは間違ってはいなかったが、こちらの救出だって評価に無関係ではなかった話をするとさらに「タイムを計っているときに優先してまですることではない」と言われ、お互いに延々と平行線の話をする。


言い合いは終わらず、食堂についても口を開けば同じことの応酬を続けていた。


「お前、頑固すぎるだろ。僕の行動だって完全に間違っていたわけじゃないんだろう?」

「間違ってない。でも結果的には無駄だった。」

「それは結果論だろう?あの状態で判別できるものじゃない。」

「そんなことはない。私は最初から無駄だといっていた。」

「ねーねー?おふたりさん。言い合うのはいいんだけど、ちょーっと目立ってるよ~?」


食事をしながら話していたからか、後ろに立っている人の気配に気が付かなかった。

振り返るとそこには同じく1年生の腕章をつけた黒髪の少女がこの険悪な雰囲気にはそぐわない、人好きのしそうな笑顔を浮かべて立っていた。


「だれ。」

「私?私は、1年B組のマイ・メアリーだよ~。一応これでもメアリー辺境伯家の長女なんだよね~。」

「そう。」

「そうそう。って、違う違う。本題を忘れるところだった。2人はさ、1年生の筆記と武術のトップなんでしょ?そんな話題の中心!みたいな2人が食堂で言い合いをするのは目立っちゃうとかの次元超えて注目の的と化してるよ?大丈夫そ?」


そういわれて初めて周囲を見回してみると周囲にいた生徒たちが不自然なくらいサッと目をそらしてくる。彼女の言っていることは正しいようで、流石に問題があると判断し、僕らはいったん言い合いはやめることにした。


「うんうん。食事は仲良くね~。喧嘩しながらご飯を食べるとまずくなるんだよ?」

「マイー。まだー?」

「あー、ごめんごめん。もう終わったー。それじゃあ2人ともばいばーい。」


そういって手を振りながら嵐のように去っていく。およそ貴族の令嬢とは思えない言動の少女だったな。


「不思議な人。」

「同感だな。」


試験が終わってから初めて僕らの意見が一致した時だった。


その夜。まだ納得がいっていないからか、消灯時間を過ぎたころ僕らはまた言い合いをしていた。それに気が付けば話の内容は「救出をするべきだったか否か」ではなく「もしもこれが試験ではなかったら」になっていた。


「今回は試験だったからそうかもしれないが、実戦だったら捨て置けないだろう。」

「実践と試験は別問題。論点をずらさないで。」

「ずらしていない。試験というのは実戦を想定して行われるものだ。お前の考えのままだと救えるものも救えなくなる。」

「1人を命がけで救うより、一刻も早く安全地帯に避難することは大切。試験会場もかなり危険な場所だった。もっと時間をかけていれば建物が倒壊していた恐れがあった。」


建物が倒壊する可能性があったと分かっていて、見捨てるという選択をするということか…?それは、それは。許すことはできない。


「…なら、なおさら一刻も早く助けるべきだろう!」

「その助け出す対象がどこにいるかも定かではなかったのに、時間をかけないことは不可能に近い。」

「今回、できただろう!体感時間だが僕らは会場に入ってから5分ほどで脱出した。問題なんてないだろ。」

「一番早かったチームは2分を切っている。最初の会話時間を抜いても私たちは2分かかっている。ならそこは救出をしていない可能性が高い。」

「してない可能性って…してる可能性だってあるだろ!」


これが実践だったら、救出できるかもしれない人を完全に無視して逃げることは間違っていると思う。しかしシロナも僕もお互いに譲らないままどんどんとヒートアップしていき、いつしか僕はほとんど怒鳴っているような状態になっていた。それに対してシロナは全く表情も変えずに話してくることが余計に癇に障り口論が止まることはなかった。


「コンコンコン。」


僕が声を張っていて聞こえにくかったのもあるだろうが、僕らは来訪者が来ていることに気が付かなかった。


「…うーん。ここだよね?…あってる?…そっかあ、あってるか、じゃあ入るねー?ノックしたからいいよね?入りまーす…しつれいしまー、、、す。…えーっと、聞いてはいたけど、ほんとにまだやってたんだねぇ。」

「っだれだ?」

「あれ、私食堂で自己紹介しなかったっけ?ま、いいや。私1年B組の…」

「知ってる。マイ・メアリー。」

「してるじゃん!よかったよかった。きみたちさぁ、今何時だと思ってるの~?1時だよ?深夜の1時!そーんなに大きな声で言い合ってたらほかの部屋の子たちがびっくりしちゃうでしょ~?」


もう!といったように腰に手を当てて文句を言ってきたのは昼間に食堂であったマイだった。食堂の時も思ったが、部屋に入って声を掛けられるまで全くと言っていいほど気が付かなかった。割と気配には敏感だと自負していたのに少し自信を無くしてしまいそうだ。


「さてと、お2人さん、流石に外野からみてもちょっと長引きすぎだから2人の意見を聞かせてほしいな~?私だって寝てるところをたたき起こされたんだから、聞く権利ぐらいあると思うんだよね~。」

「…良い含められてる気もするが、そう言われるとそうだな。…わかった。教える。今回の試験についてなんだが、」


試験開始から今に至るまでをかいつまんで説明する。時々シロナが口をはさんできてまた口論が始まりそうになったりもしたが、「全部話し終わるまで口論禁止!」と言われ、最後まで説明しきることができた。


「あー、ね。それうちでも起きかけたんだよねぇ。何とかギリギリ止めれたはいいんだけど、2人を見てたら男子寮で喧嘩してないか心配になってきたよ~。」

「な、なんというか、悪い。」


はぁ、と深いため息をついて遠い目をしているのを見ると申し訳ないことをした気持ちになる。


「いいよ、あいつらは明日どうにかするから。…はぁ。

…とにかく2人とも、話を聞く限り頭が固い!もうカッチカチ。もはや岩のほうが柔らかいんじゃない?あのさ、もっとやわらか~く考えないと。例えば、出口探しも、人探しも今回の情報をきちんと整理すると同時進行できるものだったの気づいた?それに、先生たちは名目は答え合わせ~なんて言ってたけど結局あれは答え合わせじゃなくて得点配分の説明だったし。言い換えたら答えは一つじゃなかったってこと。どっちかを優先するんじゃなくてどっちもできるように考えるんだよ。ね。筆記1位さん?そういうの考えるの得意でしょ、多分。例えば私たちは4人チームだから2人ずつに分かれてやったよ。タイムとかはよくわかんないけどそこそこ早かったと思うんだよね~。」


答えは1つではない。そう聞くと何かが腑に落ちる。僕らはずっとどちらが正しいかで言い争っていたが、きっとどちらも正しかったのだろう。だからこそ終わらない言い争いをしていた。そう考えるとなかなかに不毛な争いをしていたんだなと思えてくる。今でもあの時どうすればスムーズに行ったのか分からないが、マイの言う通り頭が固かったのは事実だろう。横ではシロナも何かを考えていて、深い思考の海に沈んでいるようだ。


「ん、まあ納得できなくてもいいけど、チームを組んでいる以上うまくやれるようにしないと長続きしないよ~っていうお話でした!どうかな、喧嘩、終われそう?」

「喧嘩じゃない。意見の衝突。」

「世間一般ではそういうのを喧嘩っていうんだけどね?」


思考の海から帰ってきたのかシロナが言い直すが、結局マイに言い負けている。先ほどまでの緊張感はうそのように消えており、シロナでさえ少しまとう雰囲気が柔らかくなったように見える。


「マイ、助かった。それと、悪い。チームも違うのに仲裁に入ってくれて感謝する。」

「ほいほい。いいならよかった。じゃ、私はもう眠いので帰るね?良い子は寝る時間だからね~。おやすみ~しつれいしました~。」


昼間同様、マイは颯爽と去っていく。静かになった部屋で僕らは一度目を合わせ、会話はせずほんの少しだけ笑ってマイに倣ってもう寝ることにした。

8話を読んでくださりありがとうございます。



マイと書いてシリアスブレイカーと読む。

今後のシリアスさんは息してないかもなぁ(遠い目)


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