7.最初の試験
「情報、覚えた?」
「ああ、もちろん。」
扉をくぐるとすでにシロナがいて、その向こうには情報の通り。足を踏み入れるのを躊躇うような危険そうな景色が広がっていた。建物は辛うじて倒壊こそしてないが、壁にヒビが入っていたり、穴が空いていたりして、ほんの少しの衝撃で崩れてしまいそうな建物がいくつも立ち並んでいる。今いる場所はそこからほんの少しだけ離れていて、かろうじて安全が保障されているようだ。
「情報通りには言えない。でも言える事がある。この試験はただの脱出ゲーム。大変なのはゴール探し。」
「脱出ゲーム?…救出作戦とかではなく?」
僕の情報でいけば、今回の目的は救助対象の捜索、発見のはずで、脱出やゴール探しに関しては全く触れられていなかった。
「違う。救出はメインじゃ無い。メインはゴール探し。」
「じゃあ救出してからゴールを探そう。」
「しない。救出はタイムロス。ゴール探しが最優先。」
「救出だってやるべきだろう?」
シロナの情報に嘘はないらしいが情報に書いている限りやらなくていい、なんて事は無いと思ったのだ。
「これは単なる試験。やらなくて良いことはやらない方針で行くべき。それに今回は時間を測ってる。」
「助けなくていいなら情報に載せないだろ、助けるのだってタスクに入ってるはずだ。」
「いらない。」
「いる。」
お互いに意見がぶつかり合い、じーっと2人で睨み合う。…いや、実際は僕が睨んで、シロナが無表情に見つめてくる。見つめてる間も無情にも時間は過ぎていく。流石にそろそろ動き出さ無いといけないと思った時、シロナも同じことを考えたのか眉間に皺を寄せて建物の方を向いて向いて話し出す。
「…なら、好きにすればいい。私はゴールを探す。」
「…わかった。なら僕は救出対象を探してくるよ。見つけたら何か合図をくれ。それを目印に走るから。」
「なら火柱の幻影魔法を使う。」
「わかった。」
妥協点として僕らは別行動をすることにした。ただでさえ、時間制限があるかもしれないのに余計なことに時間を使ってしまった。さすがにこれ以上のロスはでき無いと判断して僕は全速力で建物を見て回る。サッと屋内を見ては移動、を繰り返し、十数軒目でようやく対象を発見できた。
「この人かな?」
倒れていたのはかなり体の大きな男性だった。頭を打っている可能性を考慮してできるだけ刺激を与えないように背負い、移動を始める。
移動し始めてすぐ、少し離れた場所から火柱があがる。それを目印にさらに加速して進んでいく。
「お待たせ。見つけたぞ。救出対象。」
「…そう。」
シロナのそっけない返事を耳にしつつ、僕らはゴールの扉をくぐった。
「…あら、おかえりなさい。あなたたち、もっと遅くなるかと思ったわ。」
扉の向こう側は元いた実習準備室だった。僕らが戻ったことを認識するなり担任が声をかけて来た。まるで、試験中の様子を見ていたかのように話す様に少し冷や汗をかく。見ていたとなると僕らが言い合っている所をバッチリ見られている可能性が高いからだ。
「あなたたちで6チーム目よ。といってもタイムで見たらまた別なのだけど。…さ、その男をこちらに渡して。答え合わせは全チームそろってからしてあげる。」
そんな僕の焦りをよそに、担任はさっさとしなさい。と言ってくる。仕方がないので男性を先生に渡し、僕らは準備室の中で腰を下ろす。
「…なあシロナ。そっちの情報にはなんて書かれてあった?」
「…1個目、扉の向こうには今にも倒れそうな建物が複数立ち並んだ場所です。充分気をつけてください。
2個目、建物のどこかに出口となる扉があります。そこがゴールとなります。
3個目、会場はかなり広く、試験開始と同時にタイムを測っています。
4個目、タイムはゴールの扉をくぐった瞬間にストップとなります。」
「…なるほどな。」
「ユウリは?」
僕は先ほどの情報をそのままシロナに伝える。
「…そう。」
会話がそこで途切れる。それからしばらくして、人も増えて来たなと思ったころ。
「さて、今のチームで全部ね。さてあなた達。お待ちかねの答え合わせの時間よ。
まずはみんな、怪我なく戻って来れて良かったわ。そして、不合格者もいないから安心していいわよ。答え合わせに関しては、どうせこれに口を挟まれるからいっその事これに全投げすることにしたわ。じゃ、あとよろしく。」
そう言ってうちの担任は椅子にドカッと座りだんまりを決め込む。試験が終わって機嫌が治ったかと思ったが案外そうでもなかったらしい。
「ではでは、バトンタッチされたので私から答え合わせしますね〜。
まずこの試験のクリア条件は〜、なんとなんと!ゴールの扉を見つけて通るだけだったのです!とーっても簡単ですね〜。
そして皆さんが混乱されたであろう情報、『対象の救出』ですが〜これに関しては正直に言っちゃいますと、やってもやらなくてもあまり関係は無いですね〜。それよりも何よりも、どれだけ早くゴールできたかどうかの方が評価されます〜。」
その言葉で一気に室内が騒がしくなる。当然だ。わざわざ情報に書いておいて、やらなくてもいい、だなんてひっかけ問題もいいところだ。
「まて、少し違う。正しくは救出に時間を使う意味がないだけだ。」
「いやそれでは伝わらないでしょう、もう。簡単に言うと『救出したけどタイムが遅かったチーム』と『救出しなかったけどタイムが早かったチーム』とでは後者の方が点数が高い、って言うのが正解よ。もちろん、『救出しなかったけど遅かったチーム』は1番点数が悪いし、『救出したうえで早かったチーム』は1番点数が高いわよ。」
一応違いはあったらしいが、話を聞く限り救出に関しては本当に優先度は低かったようで、シロナの言っていた事がほとんどあっていた。しかし、完全に意味がなかった訳ではないため、やはりあの時の考えが間違っていたとは思えなかった。
「今回、1番早かったチームのタイムが1分58秒。1番遅かったチームは10分24秒よ。誰が、とかどのチームがとかはまだ言わないけれど、後日タイムと順位はまとめて出すわ。今日はもうおしまいよ。」
「…そういうことで、これで今回の試験は終了だ。この後は特に授業もないため、各々寮に帰ってもらってかまわん。明日からは通常の授業だ。ゆっくり休むように。」
「1限目は8時半からですので〜遅れないように、自分の教室で待ってて下さ〜い。転移の場所は“1年B組教室前”のように言えば行けますよ〜。今日はお疲れ様でした〜。」
各教師から注意事項と労いの言葉を受け取り、寮へ帰ることとなった。
7話を読んでくださりありがとうございます。
作者の心の声
A組の担任とB組の担任は相性が悪い。テストに出ます覚えておきましょう(ね?私。)




