2.天成才学院
「に、し、ろく……16、17。全員いるわね。それじゃあ移動するわ。列に、ってもうなってるわね。手間が省けて助かるわ。」
A組の教師が数を確認した後、先導して歩き始める。特に誰かが声をかけたわけでもないが、先ほどの混乱をおさめた彼女を先頭に2列になっていた。…その彼女の隣が自然と私になったことが理解に苦しむけれど。
「君、名前を教えてもらってもいいかな?」
移動中に隣から声を掛けられる。
特に黙秘する理由もないため、率直に返答を返すことにした。
「シロナ。」
「…やっぱり。君がシロナ・クロフォードさんなんだね。僕はユウリ・コーガリー。ユウリって呼んでくれ。さっきの掲示の通りだとおそらく君と僕がパートナーになると思うんだ。」
先ほど見た名前と一致している。どうやら彼女が私のチームのもう一人だったようだ。彼女、ユウリは私に延々と質問を繰り出してくるので私たちは教室にたどり着くまでずっと話し続けた。先頭で話しているにも関わらず、教師はこちらをチラッと一瞥してくるだけで特に何も言ってこない。
「さ、お喋りはそこまでよ。ここがA組の教室ね。席は黒板に書いてあるからその通りに座りなさい。」
座席表の通りに席に座るとやはりというべきか、ユウリが隣だった。
他の人たちを見ると数人ごとに固まっているため、グループごとに固まって座っているのだろうと予測できる。
このクラスは二人組は私たちだけ。あとは見る限り3人、3人、4人、5人のチームだと思う。人数に一貫性はないけれど、先ほどのクラス発表の傾向をみても上限は5人とみていいと思う。
「さて、とりあえずこの学院で過ごすための最低限を軽く説明するわ。世間に流出しまくってて知っていることも多いと思うけれど、噂は少しゆがめられて伝えられていることが多いからちゃんと聞いときなさいね。」
そうやって教師が前置きを言って、黒板を使いながら説明する。
「まずはこの学院の噂について。一番有名な『この学院を卒業できたら人生勝ち組』ってのはほとんど間違ってないわ。実際この学院を卒業してしまえばこの国の中なら一生の名誉として使えるし、つけない職業はほとんどなくなるといっても過言じゃない。他国に行ってもある程度融通が効いたり、なんてこともあるそうよ。」
教室内がざわつく。ほとんどの生徒がこれを目的に入学したといっても過言ではないため、自然な反応だと思う。しかし、次の一言で全員が口を閉ざす。
「テンション上げてるところ悪いけどあくまで卒業できたらの話よ。
噂その2。入学生は固定で50人なのに対して毎年卒業生が30人未満なこと。これもまぎれもない事実よ。五人に二人は確実にこの学院を退学させられたり自主退学したりしてるわ。今の3年生はすでに26人しか残ってないし、今年は25人切るかもしれないわね。それだけ険しい学院生活だと思いなさい。」
どこかから息をのむ音が聞こえる。
全てはこの学院を卒業できるかどうかにかかっている、と言われれば緊張することも普通のことだろう。25人も残らないということはクラスがひとつなくなってしまってもおかしくはない数のため、他人事ではない。
「あとこれは入学前に事前通達してるから知ってると思うけれどここは全寮制よ。ルームメイトもいるわ。貴族の子供たちには酷かもしれないけど使用人や護衛を連れてくるのは一切の例外なく禁止してるから、仲間内でなんとかなさい。」
ほとんどの生徒が今の言葉に反応しているのをみるに生徒の多くが貴族なのかもしれない。私は平民街で一人暮らしをしていたためそれに関しては特に問題ない。
「次、クラスとチームについて。の前に大前提としてこの学院は毎年、年に一度大きな大会が開かれて、1年生とか3年生とか関係なくチームごとに参加して優勝を目指す。とても過酷な大会よ。これの肝は参加の単位が『クラス』じゃなくて『チーム』なこと。基本的にこの学院ではチーム単位で動いてもらうことになるわ。チームの人数は下限2人、上限5人。あとで説明するけれどメンバーの増減はあるわ。クラスで動くことは通常授業の時ぐらいで、3年間このクラスで固定よ。せいぜい仲良くすることね。」
チームとクラスについても噂話でかなり流れていた。毎年卒業生が数人のメンバーで固まっていることを疑問に思った人が直接聞いたそうで信頼度の高い話としていろんな人が知っていた。
「そしてここからが大切で、あなたたちのチームに関しては絶対固定というわけではないの。まず学院に入学後、全員に〈移籍権〉という権利が与えられるわ。それは一度だけ好きな時に今のチームを抜けて新しいチームに移ることができる権利よ。移るチームは学院に希望を出して、学院と新しく移るチーム双方からの許可が下りれば移れるわ。もし許可が下りなかったときは移籍権の行使はなかったものとして扱われるから安心なさい。それと、新たにチームを作る場合は新たなメンバー2人以上5人以内で全員の意思証明となるものと学院側の許可をもらわないと作れないから気を付けて。
と、まぁ長々と話したけれどまとめると、そのチーム気に入らなかったら1回だけ抜けられるってことよ。
…ただひとつ、覚えておいてほしいことは今のあなたたちのチームメンバーは学院側が能力面で一番相性のいいチームメンバーになるように調整したものということよ。抜けるのはそれ相応の覚悟を持ってやりなさい。」
能力面で、相性のいいチーム。これ以上ないまでに合理的判断がされたチームということで、抜けるメリットはどこにあるのだろう。今はきっと私が移籍権を使うことはないだろうことだけは分かる。
「さてと、説明はこんなもんだったかしら?何か質問はあるかしら。」
そう教師が問うと一人の生徒が手を挙げる
「はい、そこ、なにかしら?」
「いっぱい退学するって言うけど退学って何したらなるんですか?」
他にも気になった生徒がいるようで食い入るように聞いている。
「色々よ。テストの点数があまりにも悪かったり、実技がダメダメだったり、あとは……自分で考えなさい。…でもまあ、いずれ分かるわ。」
シン、と水を打ったように教室が静まり返る。
卒業生の数の話をした時よりも教室が緊張感に包まれているように思う。
隣では、ユウリが真剣な表情で教師を見ていた。
2話を読んでくださりありがとうございます。
以下作者の心の声(読まなくていい)
いやぁ、一体何で退学するんでしょうね?(すっとぼけ)
3年生は残り1年もあるのに後半分しかいないし、サゾカシタイヘンナンダローナー。
ユウリとシロナには出来るだけ退学の危機に晒されないように過ごして欲しいですね。…切実に。




