蹉跌の子
「付き合ってください」
とだけ言えばいいのに、ぐちゃぐちゃと御託を並べて、気付けば「俺たちが付き合うのが日本のためになるんだ」なんて意味不明なことを言っていた。
「無理。キモい」
当然だ。当然なんだけど。納得できない。
「そこをなんとか」
なおも頭を下げて食い下がる俺に返答することもなく、彼女の遠のいていく足音だけが耳に残っていた。
鰯雲が空をゆったりと流れていく。枝が揺れて木の葉が落ち、秋の風の肌寒さが身に沁みる。
土下座でもすれば了承してもらえただろうか。例えダメでも、その勇気を称えられてクラスの人気者くらいにはなれていたかもしれない。
そんな勇気もないくせに、妄想だけは立派なことである。よくて笑いもの、話題に上がらない可能性の方がずっと高いのに。
校舎裏を抜けて駐輪場の階段を上っていく。
部活をしていない生徒のほとんどはすでに下校しているようで、自転車はぽつぽつと点在する程度しか置いていない。
俺の自転車は横倒しになっていた。
風で倒れたのかと思ったけれど、よくよく見てみると後輪のスポークが一本折れている。
その壊れ方には心当たりがあった。
最近、自転車綱渡りとかいって、SNSで投稿されている動画を目にしたばかりなのだ。
その投稿をしていたのは勉強についていけず落ちぶれた我が校の陽キャたちで、彼らの仕業であることは明白だった。
やるせない気持ちが溢れてしかし、どうすることもできない。そのことがまた腹立たしさを助長していた。
とりあえず無理に乗って壊れても困るので、自転車を押しながら、最寄りの駅まで歩いて帰るしかなかった。
「○○大学前で無差別刺傷事件が起きました」
深夜の勉強のお供に流していたテレビのニュースに意識が向いた。その大学は俺が来年の受験を予定していたところである。詳細が気になり、ペンを置いてスマホを手に取った。
犯人はその大学を不合格になった浪人生らしく、二名の学生と通りがかった一般人を自宅から持ち出した包丁で刺したとのことだった。
「……その手があったか」
何かよくない回路が頭の中でつながった気がした。
たどり着いた、とさえ思った。
俺は勉強もそっちのけで、思いついたアイディアをノートに書き出し、情報を調べ、計画の詳細を練っていく。
「できた」
思わず出てきた感嘆の声を前に、夜明けはもう、すぐそこまで迫っていた。




