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罪と罰

旱樹(ひでき)知ってるか」


 下校道中で拾ったちょうどいい長さの木の枝を握りしめながら(ひかる)は言った。「知ってるよ。死神はりんごしか食べないんだろ」か「囚人を使って実験をした夜神月かよ」のどちらを言うか迷ったけれど、光は漫画を読まないしミームも知らない。「なにを?」小石を蹴飛ばしながら訊ねた。


「バビロニア語で、罪と罰は同じ意味なんだぜ」

「……そうなんだ」


 アルヌって言うんだって。夏休み最終日のやり残した宿題に追われるように、光は知識をひけらかすことをやめなかった。


 大方、今日のパソコンの授業で調べたことを語っているに違いない。普段よりも熱心に授業を受けているなとは思っていたけれど、そういうことだったのだ。


 橋に差し掛かって車が追い越していった。


 眼下に流れる川は、一昨日の台風の影響で茶色く濁っている。


 橋の真ん中で障害物をくぐり抜けた西日に伸びた影が、濁流の中へと呑み込まれた。


 助けて。そう聞こえた気がして、水面から目を背けた。


「もし、さ」


 光は突然立ち止まって俺の顔を見た。


 合わせ鏡みたいに、俺たちの顔が瞳の奥の奥の奥まで続いている。その怪談が本当なら、死ぬか異世界に行くか。どちらでも今よりはマシかもしれない。


 川も風も鳥も車も、まるで世界が光の言葉を待っているみたいにミュートしていた。


「俺たちに罰が下るなら、どんなだろうな」


 ——光はもうダメかもしれない。


 いや、本当はもうずっと前から、とっくに限界を迎えていた。接触不良のテレビのリモコンを連打したり強く押したりするみたいに、今日までそれを誤魔化してきたのだ。


「分かんない」


 なんてことはないとでも言うように俺は歩き出す。


「だよな」


 それから無言のまま橋を渡って、「じゃ、また明日」光は背を向けて自身の帰路へと着いた。


 赤信号に足を止めた。


 ぼんやりと青になるのを待つ。


 考えたことがないわけではない。


 あの日のことを忘れたことはない。


 償うという気持ちがないわけでもない。


 でも、俺たちにどんな罰が下るかを考えるにはまず、俺たちが犯した罪を正しく理解する必要があるのだ。

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