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伊予の物語「黎明の贋作(れいめいのがんさく)_簡潔版」その1~椛更衣、宝物級の陶器入手の報せに興奮する~

今は、900年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見にとって『兄さま』こと左大臣・藤原時平(ふじわらときひら)様は、詳しく話せば長くなるけど、幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十七歳になった今の二人の関係は、一言で言えば『紆余曲折(うよきょくせつ)』の真っ最中。

原因は私の未熟さだったり、時平さまの独善的な態度だったり、宇多上皇(とうさま)という最大の障壁の存在だったり。

結婚だけが終着点(ゴール)じゃないって重々承知してるけど、今のままじゃ辿(たど)り着けるかどうかも危うい。


*この作品は連載「少女・浄見(しょうじょ・きよみ)」の一部分『EP483:伊予の物語「禁断の口付(きんだんのくちづけ)」~』の続きからとなっております。ご興味をお持ちの方は、そちらもお読みいただけますと幸いです。

 汗で衣が肌にべったりとくっつく溽暑(じょくしょ)の八月のある日、大舎人が雷鳴壺に文を届けてくれた。

(もみじ)更衣には父君・源昇(みなもとのぼる)さまから、私には義弟(おとうと)?・藤原忠平(ただひら)様から。


書を読んでらっしゃる(もみじ)更衣に文をお渡しし、私は自分のを持って自室に入り文を広げて読んだ。


忠平(ただひら)様の、伸びやかな瑞々(みずみず)しい文字で次のように書いてあった。


『伊予、先日、たまたま凄いものが手に入った。

是非、お前に見てほしいから、明日の午後、枇杷屋敷に来てくれ。

待賢門に竹丸を迎えにやるから、何とか時間を都合して来てほしい。

絶対に損はさせないから。


藤原忠平(ただひら)


はぁ?

凄いもの?って何っ??!!

ハッキリ書いてないところが怪しいけど、竹丸?が一緒なら、監禁されるとかの危険は無いよね?


(もみじ)更衣に明日の外出のお許しを得ようと、文を読んでらっしゃる御座(おまし)に近づいて、座りこみながら


「あの・・・」


話しかけると、(もみじ)更衣が興奮したように目を輝かせ、早口で


「ねっ!!伊予っ!!父上からの文でねっ!!凄いものが手に入ったってっ!!

東大寺正倉の御物(ぎょぶつ)にもおさめられている、唐物(からもの)三彩騎駝人物(さんさいきだじんぶつ)の陶器を購入したって(おっしゃ)ってるの!

陶器売りの行商人がね、はるばる大和国から京を訪れて、ある極秘経路(ルート)で手に入れた、その三彩陶器を、今だけ早い者勝ちで、厳選された上流貴族だけに話を持ちかけてて、大金だったけど父上も何とかギリギリ買うことができたって喜んでるらしいのねっ!!

凄くないっ??!!

すぐに里帰りして見せてもらいましょっ??!!」


(もみじ)更衣の舞い上がりぶりに戸惑い


「ええっ??!!

そんな、そこまでしなくても、次の里帰りのついででよろしいのでは?

更衣さまって陶器がそれほどお好きでしたっけ?」


(もみじ)更衣は()ねたようにプッ!と頬を膨らませ


「興味はそれほどないけど、そういう価値はよく分からないけど、スゴイお宝?は見てみたいじゃない?

東大寺正倉に納められてるような凄いものなんでしょ?」


ん?


「では、帝にお願いして、大内裏の内蔵(うちくら)にある宝物を見せていただくお許しを頂けばよろしいのでは?」


というと、(もみじ)更衣は冷静になったようでポリポリと頬を掻き


「う~~~ん、それはそうだけど、そういう事じゃないのよね~~~~。

宝物庫にある宝物を見ても、別に面白くないというか~~~~。

『偶然、幸運にも手に入ったお宝』だからスゴイというか~~~~。

ま、そう言われれば別に大したことないかぁ。

父上の変な興奮(テンション)が乗り移ったみたい!

ホント、伊予の言う通り今度の里帰りで見ればいいわよね。」


熱しやすく冷めやすいし、基本的におっとりしてらして、落ち着いてらっしゃるというか、あまり行動的でいらっしゃらないというか、面倒くさがりなところがおありになる(もみじ)更衣は、早くもその『唐物(からもの)三彩騎駝人物(さんさいきだじんぶつ)陶器』への興味を失ったようだった。


私が明日の外出許可をお願いすると、(もみじ)更衣はからかうのが面白い!って感じでニヤケながら


「あら!伊予は忙しいわね?色んな殿方からのお誘いで!

それにしても心の広い夫君で(うらやま)ましいわぁ~~~~!」


たっぷりとイヤミ?とも羨望?ともとれることを(おっしゃ)り、外出を許してくださった。


次の日の午後、大内裏の東側出口のひとつである待賢門に到着し、竹丸の姿を探した。


「姫~~~!こっちです~~~!」


門のそばで小太りの従者が手を振ってる。


駆け寄って竹丸と合流し、枇杷屋敷へ向かって歩き出した。


竹丸が


「最近の若殿(わかとの)夫妻の様子を知りたいですか?」


とイジワルそうにニヤけ、糸のように細い横目で私をチラ見する。


「そうね、(しゃべ)りたいなら(しゃべ)ればいいじゃない。」


あくまで気乗りしない雰囲気を(かも)しだす。


「オホンッ!」


咳払いして


「じゃ、今から二人の会話を再現してあげますっ!!」


と竹丸が次のように話し始めた。

(その2へつづく)

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