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姫と神と、はじまりの街

ここは、中央都市ネオトーキョーの外れ。

コンクリートと電子の街の片隅に、小さな廃ビルが一つ佇んでいた。


その屋上で、少女は息を整えていた。


「はぁ…っ、はぁ……あっつい……もう限界……」


夢野 姫、27歳。

今や国民的英雄として知られる存在だが、本人は至って普通の感覚で生きていた。


かつて“あの少年”によって地球が一度消滅しかけ、

彼女のたった一言でその破壊神は行動を止めた。


“死んで転生したほうがマシ”

“自分を理解してくれる相手がこの世界にはいない”

そう語った少年に、彼女はためらいなく言い放ったのだ。


――『破壊することでしか存在を示せない臆病者』――


その言葉が、地球を救った。


けれども、姫にとってはそれも「通りすがりの口喧嘩」のようなものだった。

そして今、彼女は――


「なによあの訓練。あたしだけ軍用AI30体と模擬戦とか頭おかしいでしょ…」


国家特殊機密部隊『転滅隊』への入隊が許可された彼女は、

毎日が地獄のような特訓と、隊長格からの扱いに翻弄されていた。


「ねぇ……休憩、しよっか?」


声が聞こえた。


ビルの端、風が抜ける場所に立っていたのは、白銀の髪を靡かせた少年だった。

相変わらず、左右で色の違う瞳が印象的だ。


「……零。なんでまた勝手に現れるのよ」


「うん。君の体力が限界だから」


「なんで分かるのよ」


「君の疲労は見て分かる。ついでに君が“自分は無力”って呟いた時の顔、なんか嫌だった」


彼は、いつも自然体で、淡々としていて、

それでいてなぜか言葉の端々に“人間味”がある。


「…別に無力だっていいのよ。どうせ最前線で活躍できるわけでもないし」


「けど僕は君が居ないとこの世界に居る意味がないからね」


「っ…!」


ふいに胸がきゅっとなった。


言葉には感情がこもっていないようで、

けれども、どこか温かさが宿っていた。


「ほら、チョコ」


「……は?」


「カカオ70%。疲労回復にはこれが最適なんだって」


「……誰に聞いたのよ」


「姫が昔言ってた。覚えてた」


一口、口に入れるとほんのり苦くて、でもなぜか美味しかった。


「ふん……そう。ありがと」


少女と神は、屋上で並んで座った。

世界を一度滅ぼしかけた少年と、彼の行動を止めたただのOLが、同じ空を眺めていた。


「ねぇ、零。なんで“あの時”止まったの?」


「うーん。……たぶん、君だけは、僕を“神”とか“災害”じゃなくて、“ひとりの存在”として見てくれたからかな」


「それだけ?」


「うん。それだけ」


しばらくの静寂。

遠くで鳥の鳴くような電子音が響いていた。


「零、言っとくけど。私はあんたに恋してるわけじゃないからね」


「うん。知ってる。君は僕に“興味がある”だけでしょ」


「……ほんとムカつくわね。そういうところ」


少女は立ち上がった。

風が彼女の髪をなびかせる。


「私は、誰かの“代わり”じゃなくて、私自身として強くなりたいのよ」


「知ってるよ。僕は君に力を貸すためにここにいる」


「……なら、ちゃんと支えてよ。あんた、私のサポート役なんだから」


零は、ふっと笑ったような顔をした。


「うん。君が死にそうな時は、助けに行くから」


その日、ビルの下から突然の警報が響いた。


《緊急通達。未確認転生存在、北部地域にて出現。転滅隊、全隊出動――!》


姫が身構えると、零が隣で言った。


「出る?」


「出るに決まってるでしょ。国民栄養賞だし」


「……それ、名誉じゃなくてギャグだよね?」


「行くわよ、零」


「はいはい、隊長」


街がざわついていた。


そしてこの日が、新たな“世界の扉”を開くはじまりだった――。

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