キャロラインの遺物(8)
「え?待って待って?何で?俺なんか悪いことした?」
焦りまくって何も考えられない。
何この吸盤?
そっか、デベソだ。そうだ、そうだ。
・・・・・・・・
「んなわけねぇだろ!!」
どうしよう。
今回は信用失墜(だっけ?)するようなことしてないよな。
むしろ、ジャイアントペンギンを傷つけないために頑張っている。
「どうしよう。こんなんなっちゃったよぉ」
弱々しく言うと、伯父さんは
「カカカ!大丈夫だ!ユニフォームか体の方かはまだわからんが、いずれ消える。いざとなったらリドレイに分析してもらえばよいだけだ」
なんでだろう。笑い飛ばされてなんだか安心した。
いつもの俺だったら、他人事だと思いやがってと腹が立ったに違いない。
確かにリドレイさんが何でも解決してくれそうだしな。
「それより急げ!早くせんと・・」
ガガガガガガガガガガガガガガ
「イデデデデデデデ!」
「ほ〜れ。言わんこっちゃない」
「くそっ!くそっ!何だよ!!」
さながら腹には餃子アタック、頭にはキツツキ攻撃じゃねぇか!!
餃子は止められたけど、定期的に襲ってくるキツツキ攻撃の方は、まだ止められていない。
よしんば頭に吸盤ができたとしても、クチバシを抑え込むのは無理だろう。
「くっそぉぉぉー!!」
こうなりゃ必殺技だ!消えてやるぜ!
ストローをひっくり返してフィルターがついてない方を咥える。
フゥ〜・・
息を吹きかけて動きを止めた。
待てよ?
ここで俺が消えたらどうなる?
また放水するとこから始めなきゃいけないってか?
ブルルルルル!とんでもない!あんなん絶対いやだ。
「おい、先ほどから盛んに頭を突つかれておるが、痛くはないのか?」
ん?
「イデデデデデデデ!」
やべぇ、考えに集中し過ぎて忘れてた!
ガガガガガガガガガガガガガガ
「イデデデデデデデ!」
ダ、ダミーだ!ダミーしかない!!
だけど、入れ替わってダミーになったら、せっかく吸盤にくっつけた餃子、いや宝箱が、離れてどっか行っちゃうかもしんない。
一瞬躊躇ったものの、思い直した。
いや、練習の時は、ほぼ完璧なダミーを作ることもできてたんだ!それに、もし宝箱が離れちゃってもまた探せばいいだけだ。
そう、何度でもやり直せばいい。
突つかれながらも、我慢してサメから逃げるイメージを始めることにした。
その間も、キツツキ攻撃は容赦なく繰り広げられる。
イデデ。痛ってぇ〜
こうなったら、ペンギンから逃げる方が、イメージしやすいかもしんない。
俺はイカだ。ダミーを作ってペンギンから逃げるぞ〜〜
フゥ〜〜〜 ふわわわん
いいぞ!白い靄がかかってきた。
出てこいダミー!カモーン!!
よっしゃ!
突っつかれながらだったから、うまくいくか不安だったけど、ちゃんとストップINGの世界に来たぞ!
「良かった〜。あれ以上突つかれたら、脳みそのシナプスが壊れてバカになるところだったぜ」
さて、どんなダミーができたんだろうか。
練習では上手くいくようになったけど、実践するのは初めてだから気になる。
「あ、あれ?」
ダミーを見るつもりだったのに、目の前に広がるのは、ゆらゆら波打っている同心円だった。
「おっかしいな」
目をゴシゴシと擦ってみたけど、やっぱり目の前にあるのは波紋のようだ。
しかも、周期的に動いている。
「何だこりゃ」
見ていると、酔いそうで気持ち悪い。
これ止めたいけど、どっかに発生源あんのかな?
同心円ってことは、円の中心部にあるかもしんない。
宝箱の周囲をぐるりと回ってみたけど、怪しいものは何も見つからない。
「ウップ」
ダメだ。えずいてきた。
とにかく、早く発生源を探そう。
口を手で押さえながらぐるぐる回った。
「ウップ。ダメだ、見つからねぇ」
吐きそうになって膝をついた時、宝箱の下にチカリと光る物が見えた。
なんか光ったぞ?
そこで宝箱が浮いているのに気づいた。
動いてるんだから、浮いてるのも当然だろうけど、親父たちは動いていることに驚いていた。
何の気なしに、地面に顔を近づけて宝箱の下を見ると、
「うわあぁっ!?」
そこにはオレンジ色に光る、いくつもの八面体があった。
「ど、どどどど、どうしてぇ!?」
吐き気も忘れて見てみたけど、奥の方は陰になって全く見えない。
この世界にいる以上、伯父さんとも親父とも話はことができない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「落ち着け、落ち着くんだ。とりあえず、この気持ち悪いのだけは止めたい」
自分で自分を落ち着かせるように、目を固く瞑って深呼吸をした。
「まずはスコープだ。スコープが使えるか試そう」
果たして、この世界で暗視スコープが使えるかどうか。
こめかみの辺りを三本指で叩いてみた。
「よしよし!使えるぞ!!」
使える物が見つかっただけで、すごく冷静になれる。
スコープはこの世界でも絶好調で、奥の奥まで見渡すことができた。
「これって・・太古代の時と同じヤツじゃん」
だけど、あの時よりもずっと小さいし、八面体部分の色も違う。こっちは、どれもオレンジ色だ。
なんだ。怖がることねぇじゃん。
安心したら、気持ち悪さが復活してきた。
「ウェップ。オェェ、ぎぼぢ悪い」
早く見つけないと、吐きそうだ。
吐き気に耐えながらよく探すと、奥の方、ちょうど宝箱の底の真ん中あたりに、ボーリングの球みたいな物があった。
「あれだ!」
間違いない。
あの球を中心に波が起きている。
どうする?どうすればあの球を取りだせる?
とりあえず、周りの八面体を壊していくことにした。
シュタタタタタタタタタタン
宝箱の底を、前から後ろまでサーッと通すようにして、片側の八面体を全て壊した。
触れるだけでいいから、壊すのは楽ちんだ。
支えを失った宝箱は、ゆっくり傾き始める。
反対側にまわると、壊そうとして少し考えた。
なんとか壊さず親父たちに見せたい。
ふむむむ。
宝箱がこのまま斜めってしまえば、球も八面体もそっち側から逃げることはない。というか、前回と同じ仕組みなら、隠れる機能はあっても逃げる機能は無いはずだ。
宝箱を持ち上げてるくらいだから、潰れる心配はないだろう。だけど、いかんせん球のほうは、どこかに転がっていってしまう可能性の方が高い。
「う〜ん、とりあえず石で囲っておくか」
ペンギンの足の隙間をぬって、石を拾い集め始めた。




