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キャロラインの遺物(7)

「水をかけろ!とにかくコイツらに水をかけるんだ!」

「ほぇ?わはっは」

ストローを咥えたまま返事をしたから、ちゃんと通じたかわかんないけど、とりあえず言われたとおり、じゃんじゃん放水していく。

・・・いつまで持つかなぁ。そろそろ水切れすんじゃね?

だけど、確かに暴水が当たってよろけたペンギンは、頭をブルルと振ってから、目が覚めたかのように動き出している気がする。

噴き出す水が邪魔で、はっきりとは見えないけど、現に、最初に水をかけたヤツらは、とっくの昔にどこかへ行ってしまった。

「藍善さん、コイツら何かの影響を受けてるんだと思います!」

「うむ。おそらく超低周波だろう。正気に戻った奴らは海岸線に向かったようだから、他のやつらもさっさと向かわせるぞ」

「俺は、アタルが動きやすいようにします。アタル、お前の周りからコイツらをどかすから、少しだけ離れるぞ!」

親父と伯父さんは、さしずめペンギンの誘導員のようだ。

影響受けてるって、コイツら寝てるってことなんか?

でも目を開けてるし、クチバシを動かしたりもしてるんだけどなぁ。

そんなことを考えながら水を撒き散らしていると、遠くから何やら低い音が聞こえてきた。


ォォォォガッォォォゴトッォォ


なんだ?あの音。

くっそ、ストローから水が噴き出し過ぎてて見えねぇ。

「アタ・・サーク・・だ!早く・・レアを!!」

少し離れたところから親父が何か言ってるけど、水の音でよく聞こえない。

だけど、ここでストロー外したら水も止まっちゃうからな・・


ォォォォォォォォオオオオオオ


あれ?どんどん音がデカくなってね?

「いかん!アタル、避けろ!!」

近くまで飛んできたであろう伯父さんの声に振り向いたその瞬間


ズゴォンッ

ゴフォッ!!


何か大きな物体が突進してきて、俺の腹にぶち当たった。

う、う、うぉ、ぉぉぉ・・・

ストローを取り落とし、腹を押さえてガックリと崩折れた。

ぐぬぅぅぅぅぅ・・・

痛過ぎて声が出ない。

呼吸にも詰まる。

息を吸うことができなくなったけど、極限まで息を吐ききると、なんとか浅く吸うことができた。

「アタルーーーーー!!」

遠くで親父の声がする。だけど、衝撃が強過ぎてそっちの方を見ることができない。

「・・・な、なんだよ・・・何があっても・・俺を守れって・・言ったじゃねぇか・・ポンコツ・・親父・・」

遠くから俺を呼ぶ親父の声が聞こえる。

ダメだ。意識が飛んでしまう。

ああ、俺はここで死ぬのかぁ・・


ガガガガガガガガガガガガガガ

「イデデデデデデデ!」


突然、ジャイアントペンギンたちが、キツツキもビックリの勢いで俺の頭を突つき始めた。

別種の痛みで、意識がはっきり引き戻される。


ガガガガガガガガガガガガガガ

「イデデデデデデデ!やめろ!やめろぉ!!」


ユニフォームが無かったら、頭に穴が開いてとっくに死んでいる、くらい痛い!!

「これ!やめんか、これ!!」

宝珠がバコバコとペンギン達の頭にぶつかっていくが、ペンギンは一向に動きを止めない。


ガガガガガガガガガガガガガガ

「やめろってぇ!!」


俺は咄嗟にストローを掴むと、ジャイアントペンギンに向かって振り上げた。

・・・しまった!ストローが当たったら、コイツら崩れて消えちまう!

わかってる、わかっちゃいるけど、勢いをつけて振り上げた手は、もう止められない。

「お前らを消すつもりなんてないのにぃぃ!!」

コイツらが消えるとこなんて見たくないんだ!!

自分の意思とは反対に、無情にもストローはペンギンに向かって振り下ろされた。

ダメだ!ダメだ!コイツらを消したくないっ!

気づかないうちに涙が溢れている。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁー・・!」


なぜだろう。

まるで全てがスローモーションのようだ。

ペンギンまであと15cm

あと10cm

あと5cm

あと3cm

あと1cm


「ゔわあぁぁぁぁぁぁぁー・・!」


キュポコン


「へ?なに?」

ジャイアントペンギンは崩れることなく立っている。

「あ、あれ?当たってる・・のに・・あれ?」

ストローの先には、見慣れた赤い物が付いている。

「・・・ピコピコハンマー・・・?」

そう。

涙と鼻水でグチョグチョの顔をした俺が見たものは、子どもの頃に遊んだピコピコハンマーだった。

「な、なんで?」

・・・・・あ!!!

『あのフィルターには、他にも面白い細工しといたけどね。お楽しみに!』

リドレイさん!?

リドレイさんの言ってた面白い細工って、これか!

「よ、良かったぁ・・・」

安堵のあまり、思わずしゃがみ込んだ。

ガガガガガガガガガガガガガガ

「イデデデデデデデ!」


低い位置にいる俺に向かって、容赦のないキツツキ攻撃が止まることなく発動される。

ガガガガガガガガガガガガガガ

「イデデデって!だ、か、ら、」


キュポ キュポ キュポ  キュポコン!


「やめろってば!!」

ピコハンで思いっきりペンギンの頭をぶっ叩いた。

これなら何も気にする必要ないからな。

ピコハンで叩いたペンギンが、水をかけた時のように頭をブルルと振っている。

・・・ひょっとしたら、ピコハンにも水と同じ効果があるのかも。


キュポ キュポ キュポ  キュポコン!


ペンギンが頭を振り出した。

やっぱりそうだ。間違いない。よし、さっさとお前らを正気に戻してやるからな!

もう一度ピコハンを振り上げた瞬間、


ズゴォンッ


「イッテェ!」

またしても何かが腹に当たった。

さっき突進してきた物体が、少し下がって勢いをつけてから、再び突っ込んできたのだ。

改めて見ると、何かがパッカリと口を開けている。

開けている?

ん?なにこれ?

「おお、それこそが宝箱だ」

「え?」

いつのまにか、顔の横に宝珠が浮いていた。

「親父は?」

「ペンギンに埋もれておるわ。ほれ」

見ると、ペンギンの群れの中から片手だけが伸びていた。あ〜あ。親父なら大丈夫だろう。それより!

「で、宝箱は!?宝箱どこにあんの!?」

ピコハンを振り回しながら、キョロキョロと宝箱を探した。

「だから、それだと言っとるだろうが」

「へ?」

目の前にあるのは、腹にぶつかってきたコイツだけだ。うそだろ?と思いながら指を差してみた。

「まさか・・これ?」

「そうだ」

「えーーーー!?これーーーー!?」

ガチでこれが宝箱?

どう見てもデカくて丸っこい餃子なんですけど?

なんか口開いちゃってるし。

中を覗いても、紫から黒に変わっていくところが見えるだけで、奥の方は真っ黒で何も見えない。

見ていると、宝箱だと呼ばれる物体が2mくらいバックしながら、繰り返し突進してくる。


ズゴォンッ ズゴォンッ


なんかやけに何度も突っ込んでくるな。

アタル!大丈夫か!?」

「大丈夫ですよ。全然痛くないし」

ん?なんで痛くないんだ?

不思議に思って腹のあたりを見ると、何か大きな物がいくつか付いている。これがクッションの役目をしているようだ。

「え?え?え?え?なんだこれ?」

防具?

防具がクッション?クッション風防具?

混乱していると、再び餃子、もとい宝箱がアタック攻撃を仕掛けてきた。


キュキュウゥッ


「え?」「ぬ?」

餃子型宝箱は、そのまま腹にくっついてしまった。

もがくようにガタガタ動いている。

なんでくっついてるんだ?

伯父さんも同じことを思ったんだろう、宝珠が腹まで降りてきた。

恐る恐る触ると吸い付く感触がある。

不吉な予感。

それは巨大な吸盤だった。

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