キャロラインの遺物(6)
再び丘を越えると、見渡す限りのペンギンだ。
「うおぉぉ〜、臭くねぇ!」
「本当だな!さすがリドレイだ」
臭くないってことが、こんなに素晴らしいとは!
ある意味感動している俺は、伯父さんに
「お前達、さっさと片付けるぞ」
と言われて、大事なことを思い出した。
そうだ。俺にはお宝が待っている。
臭気問題も解決したし、早く見つけて・・ぐふふ。
「なあ、どうやってあそこまで行く?」
「歩いていくしかないだろう」
いま立っている場所は、少し高くなっている。
とりあえず、そこから降りて、ジャイアントペンギンの群れの中を進むことにした。
と、簡単に考えていたものの、降りていくにつれ、待っていれば良かったと激しく後悔することになった。
ジャイアントペンギンが、想像より遥かに大きいのだ。
「ゲッ!?こんなにデカいの!?」
頭から冷水を浴びたような気がした。
「こ、こいつら、ここ、攻撃してこない・・よね?」
「大人しいから大丈夫だ。・・たぶんな』
「そ、そそそ、そんなこと言うなよぉ」
へっぴり腰で、親父の後ろに張り付きながら進んでいく。
こ、怖ぇぇ。デカ過ぎるだろ、コイツら!
目の前で見ると、その大きさに改めてビビらされる。
175cmの俺の身長と、あんまり変わらない。
つまり、クチバシが顔の近くにあるわけで。
おまけにコイツらときたら、トロンとした目をして、時々クチバシをカチンと鳴らす。その度に背中を冷水が伝い、目をギュッと閉じた。
「ヒ、ヒェェ」
やべえ。怖すぎる。先端恐怖症になりそうだ。
伯父さんは、重苦しくてしょうがないと言って、親父の頭の上に乗っている。
間違いなく邪魔だろうに、親父も緊張しているのか振り払うこともしない。
たぶん顔を見たら、鼻の穴が広がっているだろう。
それにしても、さっきの地点から宝箱まで、目測距離で500mだったのに、なんだかもっと遠く感じる。
「な、なあ、俺たちもう500m以上進んでない?」
進んでも進んでもなかなか距離が縮まらない。
「ふぬ。見てくるとするか」
伯父さんはフワリと浮き上がると、
「どうも重苦しさ抜けん」
そう言いながら、スーッと飛んでいった。
今だけは、ペンギンを通り越して進める宝珠のことが、羨ましくてしょうがない。
伯父さんは重苦しいって言ったけど、こんな群れの中にいるんだ。そりゃあ重苦しくもなるって。
くさくさしているすぐ横で、「カチン」とクチバシを鳴らされた。
「ヒィィィ」
親父の後ろで小さくなって怯えていると、宝珠が猛スピードで戻ってきた。
「おかしいぞ!どうやら、宝箱は自力でペンギンの間を動いておる」
「えぇ!?」「そんなバカな!」
俺と親父が素っ頓狂な声をあげると、ペンギン達が一斉にこっちを向いたもんだから、またしても「ヒィィ」と縮こまった。今度ばかりは親父も驚いたようで、ビクリとしたのがわかる。
「あの辺りは、特にコイツらがぎゅう詰めでな。少し手前から潜ってみたが、宝箱まで近づくことはできなんだわ」
「藍善さんでも無理ですか」
「できなくはないが、コイツらにケガをさせるでの。もっとも、怪我をさせたりなぞしたら、群れ全体に攻撃されるやもしれんな」
冗談じゃない!こんなのに襲われたら、こっちこそケガじゃ済まないよ。
「と、とりあえず」
親父がこっちを振り向きながら
「もっとスピードを上げるぞ。急ごう」
と言い、俺はコクコクと頷くしかなかった。
急ぐといっても限界はある。
それでも精一杯ペンギンの間を縫うように進んだ。
当たり前だけど、人間を知らないからか、怖がって逃げるどころか避けることもしない。
くっそぉ!隙間が!もう少し隙間があれば!
「なんだってここに、こんなに集まってるんだろうな。海岸線はもっと先だから餌を取るには不便だし、巣を作っている様子もない。互いの体温で、これだけ暑くなってるんだ。近くに水場があれば、そっちに行ってるかもしれないのにな」
そんな親父の呟きを聞いて、ふと
水かぁ。水があれぼそっちへ行くんかな?
という考えが、ポコリと浮かんだ。
「なあ、コイツら水をかけたら怒るかな?」
「うん?喜びこそすれ、怒りはしないんじゃないか?」
よし、俺は決めた。すべてはお宝のためだ。
「親父!何があっても俺を守るんだぞ!親父は俺の父親だってこと忘れんなよ!」
「なんだそりゃ」
親父を引き留めると、タピオカストローを取り出した。
そう。俺には秘技がある。
フィルターの側を確認すると、咥えて息を吸い始めた。もちろん、吐く時は口からストローを外す。
「おいおい!急いでるっていうのに何してるんだ?」
「早くせんと、どんどん先へ行ってしまうぞ」
「シッ!黙って見ててよ」
首を傾げている親父と、不満そうな伯父さんは放っとくことにして、水を出すことだけに意識を集中した。
・・・・・9、10。これで10回終わった。
今回はサークレアは作らない。ペンギンに向けるものだからだ。
最後に、フィルター側から吹くんだよな。
思いっきり、思いっきり・・。
フゥゥゥーーーーッッ
ん?何にも起こらない?
前もすぐには出なかったもんな。もう一回だ!
フゥゥゥーーーーーーッッ
・・・・・・・・
・・・・ドシャアァァァァァァァァァァ
「おぉ!?」「なんと!!」
俺はストローを咥えたまま、ガッツポーズした。
やっぱ俺ってすごくね?
目的地を定めていなかったから、とりあえず火災現場に着いたポンプ車の消火活動ばりに、ペンギンたちに向かって放水する。正面から勢いよく水が当たると、さすがのジャイアントペンギンたちもよろめいた。
不思議なことに、よろめいたペンギンたちが首を振り、目の奥にが光が宿ったように見える。
なんだかよくわかんないけど、チャンス到来ってことだよな。よし、このまま水場に誘導しよう。
放水しつつ周りを見ると、少し窪んだところがあった。ある程度の水を貯めることもできそうだ。
コイツらみんな、あっちに行くかもしれない。
窪みに向けて放水しようとした瞬間、
「わかったぞ!当、とにかくコイツらに水をかけまくれ!」
と親父が叫び出した。




