キャロラインの遺物(4)
リドレイさんとの会話が終わったあと、早速リドレイスコープを使った。
今回は『リドレイ謹製宝箱発見スコープ』にバージョンアップだな。それとも更新になるのかな。
なんてことを考えながら装着すると、今回も地図であろうものが見える。
ざっくり青と緑と茶色。
たぶん海と草木と地面。
青が海だとすれば、海岸線と思われるのは右側だけだから、これは地上絵のあるところ限定の地図なんだろう。
白い点が1つ点灯している。
今の縮尺だと、点は3つ重なっているから1つでいいんだけど、色は青から白に変わっていた。
ふうん。今回から変えたんだな。
よく見ると、緑と茶色、つまり草木と剥き出しの地面に、太さの異なるスジがいくつも付いている。
「何だこのスジ?割れ目・・とか?」
「これが地上絵だ」
「えっ!これ絵なの?普通、地上絵は上から見ると、何が描いてあるか、意味がわかるようになってんじゃねえの?」
フンッという親父の鼻笑いを聞きながら、拡大と縮小を繰り返してみたけど、一向に何だかわからない。
「地上絵とは名ばかりだの」
伯父さんも同じ意見のようだ。
ズームを続けていくと、白い点が赤・緑・青とピンクに分かれた。
「あれ?点の色が変わった・・俺たち3人と・・もう1つ?」
全ての点が見えるギリギリのところまで拡大すると、かなり離れたまばらな緑の場所に、ピンクの点があることがわかった。凝視すると、少しずつ動いている気がしなくもなくもない。
「今回はターゲットが動くから、3人の色を分けることにしたんだろう。赤、緑、青の光は、合わさると白くなるんだよ。光の三原色だ」
「え?黒っぽくなるんじゃねえの?美術で黒い絵の具忘れた時、全部の色を混ぜろって言われて、やってみたら黒くなったぜ」
「そっちは色の三原色だよ。父さんも詳しくないし、気になるなら調べてみたらどうだ?」
「気が向いたらね」
こりゃ絶対しないな、という親父の呟きは、当然既読スルーだ。やるわけねぇじゃん。
俺たちの周りはほとんど緑色で、確かに線?といえば線?の上にいる。
スコープから見える地図を念頭に振り返ると、けもの道だと思っていたのが地上絵だった。
「・・・こんなん、わかるわけねぇよ」
スコープを頼りに、急足でピンクの点に向かった。
明らかに俺たちの動きより遅いし時々止まったりしてるから、すぐ追いつけるのは確実だ。
ピンクの点は地上絵をなぞうように動いてるから、こっちも、スコープで地上絵を確認しながら進む。
地上絵らしき?ものは、草地ではどうみてもけもの道、剥き出しの地面では、辛うじて線状を保っている。
線はガタガタとしているばかりか太さも不揃いで、10cmから20cmまでの間をいったりきたりしているうえ、途中でブチリと途切れたりして、甚だ分かりにくい。
窪んだところに細かい砂のようなものが敷いてあることで、なんとかただの窪みと地上絵とを区別することができた。
「なあ、この地上絵がナディアなの?」
「・・・だから、シェルマな。シェ、ル、マ。シェルマっていうのは、地上絵の名前じゃなくて、土地の名前だよ」
「この時代の土地に名前なんかあったん?」
「いや、キャロラインが名付けて呼んでるんだ。キャロラインの地上絵はいくつかあってね。年代や場所が違うから、土地に名前をつけることで区別してるんだよ」
「なあ、キャロラインって人の名前だよな?遺物とか地上絵とか。もしかして、ギュムノーの1人?」
そう。肝心なことなのに、何回も訊こうと思ってその度に忘れてた。
「・・お前の言うとおり確かに名前だが、ギュムノーではないよ。彼女は地上絵を描くのが好きでね。色々な時代、場所で描いてるんだ。シェルマは初期の作品だから、酷いもんだ」
「え?ギュムノーじゃないのに、時間を行ったり来たりできんの?」
「そういうことだ。彼女は特別なんだよ。宝箱が見つかったら届けにいくから、お前も会ってみるか?」
「え?いいの?」
「当は宝箱の中身が欲しいのだろう?そのためには、直接頼むが一番だからな」
それもそうだ。交渉してなるだけたくさん、できればオールゲットしてぇな。
そう思うと、ニヤニヤと顔が緩んでくる。
だいたい、お宝のためだと思えばこそ、こんなクソだるいことにも耐えられるのだ。
「驚くようなお宝だぞ。キャロラインも、それはそれは美しいしな」
「藍善さん・・!」
「カカカカ!楽しみが増えてよかろう」
驚くようなお宝か。俺としては、そっちの方が重要だ。
安定した人生のためには、美人かどうかよりも・・グフグフグフ。
「ほら親父!急ごうぜ!!」
親父はやれやれといった様子だけど、一歩一歩億万長者に近づいているかと思うと、逸る心を止められない。
スコープで確認すると、どんどんピンクに近づいていて面白いくらいだ。
近づくと同時に草もまばらになってきて、木なんかほとんど生えていない。ところどころに低木がある程度だ。
「よし、そろそろお宝が見えてくるぞ」
ピンクの点はすぐそこだ。
あの丘というか小山というかを越えれば見えるはず。
「伯父さん!ちょっと先行って偵察してきてくださいよ」
「なにゆえ俺が?」
「だって、宝珠なんだし、ピューッと飛んでったら早いじゃないっすか」
「すか?」
「で、す、か!も〜う、いいだろ!面倒くせぇな」
「まったく。敬語もまともに使えんと、社会に出て困るのだぞ。だいたいお前は・・」
「あ〜、もうイイっす、イイっす」
伯父さんがお小言を言い始めたから、これ以上話すのはやめだ。面倒臭いジジイだぜ。
「よしよし!もうすぐだ!」
この丘を越えたもうすぐそこに、宝箱はあるようだ。
ん?なんか臭うな。
プンと生臭いような嫌な臭いがした。
「なんだ?」
鼻をクシャってるってことは、親父も臭いに気づいたようだ。
「なあ、なんか臭くね?」
「そうだな。生き物の臭いだ」
伯父さんの方は、まだブツブツお小言を言っているところを見るに、気づいていないんだろう。それとも宝珠だと臭いがわかんないのだろうか。
「伯父さん、なんか臭く・・うおぉ!?」
風が吹いて一気に臭いが降りてきた。
「うおぉぉぉぉ!!くっせぇぇぇ!!」
なんだよこれ!?強烈過ぎんだろ!!
思わず身悶えした。
「親父!マ、マスクが効かねぇ・・」
「命の危険は無いってことだ。でもこりゃ・・強烈だ」
「何事だ!?」
伯父さんはすごい勢いで、臭いの方へ飛んでった。
「臭っ!臭っ!」
騒いでいると、
「お前ら!早く来い!」
と伯父さんの叫ぶ声がした。
俺と親父は鼻をつまみながら、ヨタヨタと伯父さんの元へ向かった。
「うっわ・・・。何だこりゃあ」
そこから見たのは、声を失う景色だった。




