なんで俺?(7)
「そうだ。俺たちはチームなんだよ」
「だ〜か〜ら〜説明してくれよ!説明!アンタらは説明が足んないんだよ!」
イライラしている俺に、親父が
「そうか説明まだだっけ」
と悪びれもせず言うのでさらにイラついた。
こんなんでチーム組めんのかよ。
「まず、ここはどこなんだよ」
「金星人が作った都市・・というか人工島アトラティアの遺構だ。大勢の金星人が住んでいた頃は、人工島っていうより大陸に近かったけど、人も減った今となっては、海底深くにあるこの遺構しか残っていない」
「え!?家の中から海底までワープしたってこと?」
「う〜ん、時空を超えたわけじゃないから、正確にはテレポートってとこかな。家から移動する時に使ったリングは、人工的にテレポートできるスポットをを作り出すグッズなんだ。地球上にもテレポートできるステーションはあるけど、いくら国家公務員といえども、そこは長老が許可しない限り使えない。そんな時に1人分のテレポートスポットを作り出す役目をするのが、あのリングだ」
「へぇ〜。あのリングってここへ着いたら消えちゃってたけど、使い切りってことなん?」
「そうだ。テレポートするたびに、新しく生成するイメージだな」
「じゃあ、テレポートしたかったら、このリングを使えば充分だな」
親父は立てた人差し指を左右に動かして、チッチッチ、と言った。いつの時代だよ。
「何事にもメリットとデメリットがある。リングも同じだ。メリットは、いつでもどこへでもスポットを作り出せること。デメリットは1人しか移動できないことと、移動先の安全が確保されていないことだ。ステーションは、安全が完璧に確保されている」
「だったら次からは絶対ステーション使おうよ。俺は安心・安全が第一なんだ。長老ってことは、このじいさんが許可すれば使えるってことなんじゃねぇの?」
親指でクラゲマン・・もとい、長老を指し示した。
「まったく失礼なヤツじゃな〜。テレステを含めた様々な事の権限を、もしものために10人の長老で分散しておるのじゃ。そうしておけば、危険が迫っても全てを掌握される心配がないからのぅ。地球のテレステは、わしの権限外なのじゃ」
「というわけで、10人の長老のうち、テレポートステーション、俺たちはテレステって呼んでるけどな、この使用許可に関する権限を持っているのが5人だ。家の近くにテレステは無いから、お前をここに連れてくる手段としてリングを使ったわけだ。もっとも、テレステは決まったところから決まった所へ大人数でも運べるテレポートスポット・・・まあ名前のとおり駅みたいなもんだから、俺たちギュムノーはもっぱらリングを使う」
後でリングの出し方と使い方を教えると言った。
なんだよ。安全なステーションの方を使いたかったのに、簡単には使えないのかよ。
それにしても、長老って10人もいるのか。どんなヤツらなんだろう。まともだといいけど。
「じゃあ、このじいさんには何の権限があるんだ?」
「わしは、惑星と衛星へのテレポート許可じゃ」
「リングで違う星にも行けんの!?」
「まあそうじゃな」
「金星人ってすげぇな」
話が長くなりそうだから座りたいと言ったら、親父と一緒に床に胡座をかくことになった。じいさんは器用に足を外巻きにしている。赤くなれば茹で蛸にクリソツだ。
「そんなすごい物が作れるくらい文明が進んでんのに、なんで地球とか他の星を征服しなかったの?」
じいさんは、しばらく黙っていたから、訊いちゃいけなかったのかと少し焦った。答えなくていいと言おうかとも思ったけど、親父も止めなかったから、俺も黙っていた。もしかしたら親父は既に知ってるのか、あるいは知りたかったのかもしれない。
「・・・我々は、いつかは金星に帰りたいんじゃよ。今は、文明の進んだ我々でさえ住めなくなってしまったが、文献によると、金色に煌めくそれはそれは美しい海だったそうじゃ。色とりどりの水中花が咲き乱れて、生き物に溢れていたそうな。金星人は人数もすっかり減ってしまった。いまさら他の星を征服して諍いを起こすより、いつかは自分たちの生まれた金星に帰りたいんじゃ」
そうか。じいさんも故郷にかえりたいんだな。きっと思い出があるんだろうに、他の星に来てるんだもんなぁ。文明が進んでることが幸せなわけじゃないんだな。
なんだか考えさせられる。
「なーんちゃって!」
「は??」
親父は下を向いてクックッと笑っている。
「金星が美しかったというのは本当じゃ。金星人の人数が減ってることもまた本当じゃ。じゃが、わしは地球で生まれておる。いまさら金星に帰りたいということはないのぅ」
そう言って、じいさんはフォッフォッフォと笑った。
くぅ〜〜〜っ。なんだよこのジジイ!
「もういい!今日はもう帰って飯食って寝る!」
そう言って立ち上がった。
「親父!家に帰るぞ!」
「えー・・・。訓練所行こうよ」
「今夜は色んなことがあり過ぎてもう無理!」
「えー・・・チームの内容も話そうと思ったのに」
「また騙すんじゃねぇの?このジジイムカつくから喋りたくない」
「長老、からかい過ぎですよ」
しょうがないなぁ、と言いながら親父も立ち上がった。
「今日はひとまず帰ります。明日訓練所に連れて行きますよ。いいですよね」
よいよい、そう言って手?を振ってきたけど、ガン無視してやった。
「とりあえず、リングの出し方だけ教えるぞ。実践あるのみだ」
親父はそう言うと、俺にリングの出し方を教えた。
ここへ来る時は、親父の顔の前の空間に何か光るものが現れたように見えたけど、実際には透明な空間に白文字が浮かび、右手でマウスとキーボードを使うように入力していく。目的地は座標登録だった。不思議なことに、一度基本の使い方をマスターしたら、座標なんかの入力も指が勝手に動いてすぐにリングを手にする事ができた。これがジジイの脳みその力なのかもしれない。
ヒュンッ
来た時と同じように、家に戻った。