太古代(10)
「おーい!アタルー!」
ぐったりと座っていると、遠くから親父の声が聞こえた。
返事をする気になれず、右手だけを挙げる。
あ〜あ。結局、かなりの数の八面体も倒すことになっちまった。
マジでアイツら、隠れんだったら、違和感なんてみせないで完璧に隠れてくれよな。
「あれ?どうした。ずいぶん萎びたな」
萎びた!?我が親ながら、なんたる失礼な。
「ったく、他人を菜葉みたいに言うんじゃねぇよ」
「悪い、悪い。途中から破壊のペースが落ちたから気になってたんだよ」
「ああ、それな。途中から八面体も倒すことになったから、ボックスの破壊は減ったんだよ。そのかわり、得点が増えて、すげぇレベルが上がったけどな」
「・・・得点?・・・レベル?」
「500万点超えたから、まずはトリプルチーズテリヤキのセットな。250万点のカラクリバーガーは、そん次で」
「・・・それは奢れってことか?なぜだ?」
「疲れたから、説明はまた今度な」
親父はしきりに首を捻っているけど、どうでもいい。
めっちゃ疲れたから、横になろうか迷っていると
「おい!いま途中から八面体も倒したって言ったか?」
「ああ、言ったよ」
「何でだ!?お前の周りには八面体が出てきたのか!?父さんは最初に倒して以来、全然見つけられなかったぞ!どの辺で見たんだ!?新しく発生してたのか!?」
ようやく気づいた親父が、すごい勢いで迫ってきた。
こちらが返事をする間も無く、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
うえぇ・・こっちは疲れてるのに、面倒臭い・・。
「いや、出てきたわけじゃないよ。見えないんだけど違和感があって・・」
2人で向かい合って座ると、これまでの出来事をかいつまんで話した。
「それはユニフォームと共に、当に与えられた能力だな」
「へ?」
上を見ると、いつのまにか宝珠が浮かんでいる。
「やはりそうなんでしょうか」
親父がそう尋ねると、宝珠はツーッと2人の間に降りてきた。
「特性と言っても良いかもしれんな」
「実は、他の世界にも入り込めるらしいんですよ」
これまでの事を伯父さんに説明するように言われた俺は、ストローを初めて使った時の事から、八面体を倒したところまでを話した。
「アタルの特性は、『消える』『隠れる』『逃げる』『騙し討ち』とも考えたんですが」
「なんだよそれ。マジ失礼だな」
「さあてな。俺が考えるに、それだけではなさそうだ。ただ、いずれにしても頭足類の特性だわな」
「確かにそうですよね。ナノが、アタルの症状を本部のアーカイブ調べてくれてるんですが、音沙汰なしです」
「ふむ。ま、過去の事がわかったとて、あまり意味もなかろう。過去に同じような体験をした者と、当は別の人物なのだから、参考になるやもしれんが、それだけだ。時代も個人も違うからの」
そう言うと、伯父さんは俺の方にふうわりと寄ってきた。
「お前はお前。一人しかおらん。例えナノが如何なる情報を持ってきたとしても、何も思う事はない。良い結果ならば、同じにならなかった時に、妬む心が起きよう。悪い結果ならば、不安に苛まれよう。お前はお前だ。心しておけ」
「はい」
要は、ナノに何言われても気にすんな、って事だよな。
「じゃあ、10億年後を確認しに行きましょうか」
そう言って、親父は両手を差し出した。
「これさぁ、別々じゃダメなん?」
この歳になって親と手を繋ぐのは、何だか小っ恥ずかしい。
「同じ場所、同じ日、同じ時間に行くためだよ。父さんも働き始めの頃は、こうして藍善さんに連れて行って貰ったんだ。慣れてきて情報共有できるようになれば、別々で行けるさ」
親父は笑ってそう言った。
なるほど。俺はまだまだ素人って事なんだな。
納得して親父と手を握ると、10億年後に向かった。
「うわぁ・・!!」
着いた世界は、前回とは全く違っていた。
親父が共有するといって見せてくれた、あの青味のある景色になっている。空の茶色は薄いし、青味が感じられる水があちらこちらに点在していて、透明で美しい。
「全然違う!親父、全然違うな!」
「良かった、大丈夫そうだな」
こんなに違うなんて、なんか感動した。
だってそうだろ?俺はめちゃくちゃ貢献したんだ。
「与、ジョーカーに報告だ」
伯父さんも満足そうだな。
何だろう。確かにすごく達成感がある。伯父さんも親父も、この気持ち良さのために頑張ってるんだろうか。
でも俺はもう良いや。これで十分満足した。
って言っても、退職させてくんないんだろうな。ハァ〜。
「エースよりジョーカーへ。確認完了、修正のうえ更新。くり返す。確認完了、修正のうえ更新」
親父が右頬の辺りに手を当てて、完了報告をしている。20年くらい前にも、同じ様にしてたんだろう。
あの八面体が余計なことをしなければ・・・。
あれ?なんであんなことになったんだ?
う〜ん?そうだ、確か火星人って言ってた!
「こちらジョーカー。今からこちらでも確認する。エースはそのまま現在地で待機。くり返す。こちらの確認終了までエースは現在地で待機」
「了解」
「なあなあ、さっき伯父さんに聞いたんだけど、火星に渡った金星人の末裔が、任務を邪魔してくるんだろ?なんで?」
「あー・・・」
うん?歯切れが悪いな。
「・・・それが、わかんないんだよ」
「え!?わかんないの?」
親父はコクリと頷いた。
「えー!?そしたら、ただの嫌がらせじゃんか!」
「嫌がらせ、ってことはないと思うんだよな」
「いや」
伯父さんが口を開いた。
「彼奴らのは、ただの嫌がらせだろう」
「そうですかねぇ?まあでも、特に思い当たることはないんだよなぁ」
そう言って親父は首を捻った。
「火星人っていっても、正確には火星にいる金星人の末裔だから、俺たち地球系の金星人と、奴ら火星系の金星人は、近しい存在のはずなんだけどな」
「従兄弟的な?」
「お前のイメージだとそうなるのか」
親父はそう言って笑った。
「こっちは、紛らわしいから『火星人』とか『火星』とだけ呼ぶこともあるけどな。親しくなれこそすれ、恨まれる覚えはないんだよ」
「会ったことあんの?」
「いや、父さんはないよ」
「もしかしたら、他の星の宇宙人かもしんないじゃん」
「火星人に間違いないのだ」
宝珠が俺の目の前にプカリと浮かんだ。
「そんなの、わかんないじゃないですか。宇宙は広いんだし、他にも宇宙人がいるんじゃないですか?」
「いるだろうさ。だがな、毎度毎度、我らの任務を邪魔しようとは思わんだろう。闘いたくば、一足飛びに地球に攻撃でも仕掛けてくればよかろうものだ。あとはな、奴らが関与したという痕跡があるのだ」
「痕跡?」
いかにも、と言って宝珠はクルクルと回った。




