表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/124

太古代(8)

「ふぃ〜〜。あらかた終わったな」

見える範囲から赤い物体を一掃して、首をコキコキならしながらストップINGの世界から戻ってきた。

「あ〜〜。なんかやり切ったわぁ」

身体に纏わりつくトロミの重さも無くなったし、充実感が半端ねぇ。

「ん〜、次のブロックは・・・この辺には、もうないか。何だよ、俺様大活躍じゃ〜ん。ちょっと範囲を広げてみるか〜」

スイスイ進みながら、鼻歌交じりにスコープを調節する。

今日の歌は「purple gems」で決まりだ。

朝芽イチオシのバンドで、しつこく聴かされるうちに俺も好きになった。くどくどしい歌詞に、中毒性があるのかもしれない。

ふんふんとご機嫌で次のターゲットを探していると、突然、ザワザワとしたものが足元から頭の先まで駆け抜けた。

「な、なんだ?」

周囲に違和感を感じる。

「え?なに?ここも?」

相変わらず何も見えないけど、違和感だけは拭えない。

だけど、ここは浅い水たまりが点在しているだけだ。

「えぇぇぇ・・。マジで勘弁してくれよぉ。水底に隠れてるんじゃなかったのかよ。ったく、しょうがねぇなぁ」

そう言ってストローを咥えると瞑想を始めた。

俺はタコ。ウツボから煙幕で逃げちゃうぞ〜

フゥ〜〜〜 ふわわわん


よーし!白いもやが出てきたぞ!

フゥ〜〜〜 ふわわわん


「ほいっと」

無事にストップINGの世界に来ることができた。

「さて・・・と・・・?」

白いもやは、霧散したのか全く痕跡がない。

「え・・・どういうことだ?」

もやを使って八面体をみつけるつもりだったのに?

首を捻っていて、はたと気づいた。

そういえば、練習した時もストップINGの世界でもやが残ってるの見たことなかったじゃん!!

そうだよ!何でこの作戦立てる時に気づかなかったんだ?

ん〜、でもさっきは成功したんだよな〜。

・・違いといったら、水中だったから煙幕が黒かったってことだな。

てことは、水中だったら良かったのか?

でももしかして、八面体の奴ら逃げたのかも。

きっとそうだな。それか、違和感は気のせいだったのかもしれない。

なぁんだ。いろいろ考えて損したな。

これで終了。元の世界に帰る事にした。

「よいっと」

こっちの世界に帰ってきた途端、全身をザワザワとしたものが襲ってきた。

いる!間違いなく数も増えてる!

「ど、どど、ど、どぉしよう・・でも、でもさ、水がなくちゃ、黒い墨なんか吐けないじゃん・・・」

もう一回試してみたとして、結果がさっきと同じだったら、今よりもっと数が増えてるかも。

ブルッと悪寒が走った。

しょうがない。見なかったことにしよう。何といっても諦めは肝心だ。

スイーッと進み出したものの、ざわざわガシャガシャついてくる。気がする。

「うわーっ!どうすりゃいいんだよ」

アタマを抱えて、その場にしゃがみ込んだ。

ダメだぁ。たぶんというか絶対に囲まれている。

こっちを襲ってはこないはずだけど・・・。

待て待て、アイツら本当に襲ってこない?

え?大丈夫なんだよね?

水、水があれば何とかなる?

慌てた俺は、水たまりにうつ伏せになった状態で、件の「ウツボから逃げる俺」をイメチャレしてみることにした。

「ストローは・・・この体勢だとうまく持てないな。しゃーない、咥えるだけで試すか」

深めの水たまりを選んで、四つん這いになった。

「うまくいくか、いかないか。半々ってとこかなぁ」

ブツブツと呟きながら、ストローを咥えてうつ伏せに寝転んだ。

「ウチュボ、ウチュボ・・・。にゃんだろう?スニョロー咥えにきゅいし、こんにゃ体勢にゃと全にぇん集中できにゃい」

想像以上にダメダメだった。

墨を吐けないってことは、退治するなんて当然ながら

ムリゲーだ。

「やめだやめ!」

膝を叩きながら立ち上がった。

ああ・・この気持ち悪いほどの違和感・・。

早くなんとかしなくちゃ。

そうだ!良いこと思いついた!

自分の周りを水で一杯にしとけばいんじゃね?

親父に訊いてみよう!俺も無線できっかな?

「あー、あー、こちらアタルー、親父聞こえるー?」

・・・・・・・

返事がない。

「あー、こちらアタルー、聞こえたら返事してくれー」

・・・・・・・

あれ?繋がってないのか?

「おーい!返事くれって!聞こえないのかよ!」

・・・・・・・

返事がない!くそ!こっちは急いでんのに!

「お・・」

「ハイハ〜イ!どした〜?」

「うぇ!?」

「だって呼んだじゃ〜ん?」

えぇ!?リ、リドレイさん!?なんでー!?

驚きのあまり、焦りもイライラも一瞬で吹っ飛んだ。

「リドレイさんですよね?すいません、親父を呼んだつもりだったんです!」

「チッチッチ。「すいません」じゃなくて「すみません」だよ〜、アタルちゃ〜ん」

軽っ。軽すぎんだろ。

「で?アタエに何を聞きたかったわけ?」

「あ、いや、あの・・・」

「ほらほら、言っちゃいなよぉ〜」

「・・・えっと、今、自分の周りに、大量の水が、必要なんですけど、この辺には、水たまりしかなくて、えっと、例えば、えっと・・サークレアの中を水で充満させるみたいなことが、できないかと思って・・」

うぅ・・・なんか緊張するし、めちゃ恥ずかしい。

バカっぽいこと言ってると思われたら、どうしよう。

「な〜んだ。そんなことか」

「へ?」

「2分待って」

そう言って、さっきと同じように通話?会話?は一方的に切れた。

笑われることも、呆れられることもなくて、すっかり拍子抜けした。

今の様子も、俺の技(と呼べるのかな?)のことも、何も訊かれてないけど、大丈夫なんか?

親父達が信頼してたし、大丈夫・・だよね・・たぶん。

それにしても、待ってる時の2分って長い。

スマホ無しで時間潰すのってだりぃな。2分ってことは120秒だから、120数えてみるか。

イーチ、ニー・・・

「お待たせちゃん!」

「うわぁ!びっくりした!」

「あれ〜?どした〜?」

「あの、待ち時間を有効活用しようと思って・・」

嘘も方便だ。

「ほんとに〜?」

「ほ、ほんとっス」

「どうやって時間潰そうかと思ってたんじゃない?」

「いや、あの」

「ハァ〜。まったくキミは、たった2分なのに待てないのかい?」

やっベ、お見通しかよ。なんだわかったんだろ?

この場にリドレイさんはいないのに、思わず下を向いてアタマを掻いた。

「アハハハ!ノープロブレムだよ!何もしない2分て長いからね。さて、フィルターにプログラムしたから使い方教えちゃうね〜」

「ちょ、ちょ、ちょっと、フィルターって?」

「うん。キミのそのスト・・ブフッ・・ストロー・・グフグフ・・を、2cmくらいにした白いヤツなんだけど、それを想像しながら、目の横んとこをトントンしてみて。ククク」

チェッ!他人の武器を笑いやがって。しかも、自分が作ったんじゃねぇか。

くさくさしながら、こめかみクリックした。


ヴゥ・・ン


低い音がして、なんか小っさいモノが現れた。

「おっ!?おぉぉー!」

初めて自らモノを出す事ができて、思わずヨシッと拳を握った。

「初めてかい?慣れるとすっごく便利だからね。じゃあまず、そのフィルターをストローに装着してくれ。向きはどっちでもいい」

ストローにフィルターを差し込んだその瞬間、継ぎ目が一瞬パァァっと輝いた。

「ふわぁ、なんか光った」

「良かった、ちゃんと装着できたね!武器に直接加工するのは、本部でしかできないから、今回はフィルターで我慢してちょ〜よ。まず、フィルター側を咥えて息を吸う。吐く時は口からストローを外すこと。そうやって、10回くらい息を吸ってくれ。んで、サークレアを作って中に入ったら、今度はフィルター側から吹け。サークレアは外から何かを中に入れる事はできないから、キミ自身がサークレアを水で満たすんだ。ボクができるのはココまで!あとはキミ自身で切り開くんだよん」

「はい!やってみます!」

「あ、それから」

「はい?」

「『案ずるより産むがやすし』の「やすし」は「容易」、つまり「易しい(やさしい)」の「易し」だよ。「安い」だと値段になっちゃうだろ!」

ゲゲゲッ!?何で知ってんの!?

カァ〜〜ッと顔が熱くなった。口に出してたっけ?

「でもさぁ、この諺って「取り越し苦労するな」っていうことだけど、女の人が赤ちゃん産むのって、命懸けなわけじゃん。そりゃあ不安にもなるよね。特に昔は医療も非科学的だったり発達してなかったりするわけだし。必要以上に不安にならないように、安心させるために言うとしても、ボク的には他の言葉の方がヨキと思うわけ。アタルも、使う場所とかタイミングとか気をつけなよ。以上、おわり。チャオ!」

リドレイさんとの会話は嵐のようだ。

諺の件はびっくらこいたけど、とりあえずリドレイさんのおかげで、何とか思い通りのことができそうだ。

「よ〜し!さっそくやってみるぞ」


「ヘ〜イ!アタエ。言われた通り、アタルの手伝いしといたよ!簡単だったぜぃ」

「助かったよ、リドレイ。俺ばっかり頼らず、自信をつけて欲しいからな」

「Hey you!何だかんだで良いパパしてんじゃ〜ん!」

「まあな」

そんな2人の会話を聞いているのは、身を潜めている八面体だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ