太古代(5)
早速『リドレイ謹製八面体発生ブロック発見スコープ』を使うことにした。
「伯父さんは?」
「俺なら大丈夫だ。全てが同期できてるからな」
な〜んだ。ビームも出せるし、いる場所が宝珠の中っていうだけで、マジで何でもできんじゃん。
「アタル、見えてるか?」
「あ、ああ。ちょっと待って」
余計なこと考えてたら、出遅れてしまった。
慌ててスコープを装着すると・・・え?あれ?これ地図なの?
「なあ、地図が見れないんだけど」
「あん?何が見える?」
「緑色の真ん中に、歪な形の茶色がある。んで、その茶色を囲むみたいに赤い点々がある。何だろこれ?」
「なんだ。ちゃんと見れてるじゃないか」
「え!?これ地図なの!?」
「まあ確かに、この時代はまだ大陸らしい大陸がないから、地図には見えないかもしれないな」
地図に見える見えないじゃなく、大陸がないってことに驚いた。
「だってここは?一応地図に載ってるし、ここは大陸なんだろ?」
「さてな。ここは果たして大陸と呼べるかどうか。この時代は、ようやく大陸の基を作るプレートができ始めたところだからな」
「そうですね。大陸というより島に近いかもしれませんね」
そう言うと、親父は腕を組んで俺の方を向いた。
「大陸にはプレートが大きく関わってくるんだが、藍善さんが言うように、今はまだプレートができていなくてね。ここは海中噴火でできたんだよ」
「海中噴火?」
「そうだ。水の中に噴出されたマグマは、瞬時に水で冷やされることで次々と固まっていき、やがて盛り上がって島状になったんだよ。少し前のこの辺りは海中噴火が・・というか、前の噴火に刺激される形で噴火が相次いだうえに、最終的には大きな亀裂ができてマグマが大量に噴き出したんだ。先にできている島状のものと繋がったり、溜まったり、そんなことを繰り返しながら、ここができたってわけだ」
「じゃあそれまでは、海ばっかりだったってこと?」
「もちろん起伏はあるから、突き出た部分くらいはあったけど、それでも最初は海しかなかったんだよ。地表のマグマが冷えると、水蒸気が雨になって地表に降り注ぐ。そうしてできたのが海だ。そもそも地球は、岩石と金属でできた岩石惑星で、まんまるスベスベなんてことはない。そこに大量の水が溜まっただけのことさ」
「海水多すぎねぇ?」
「プレートが形成されると、海溝ができたり大陸が水の上に出たりする動きが生じて、海の面積も変わってくるんだよ」
「ふーん。プレートが動くってこと?」
「そうだ。地球を覆っている地殻と、マントルの地殻に近い部分を合わせた硬い岩盤を、プレートっていうんだよ。マントルの核に近い部分や核自体が動くことで、上にあるプレートも動くんだが、このプレートが動くことで、大陸が移動したり地震が起きたりするというわけだ」
さっきからプレート、プレートって言ってるけど、デザートかよ。
熱々の地球が冷めたら、ヒビ割れて、そのヒビ割れが動くってことなんだよな。たぶん。
でも熱々で茶色でヒビ割れで、なんてちょっと旨そうじゃね?
なんかに似てるよな〜。
・・・・・あ!
フォンダンショコラだ!!
できたてのフォンダンショコラが冷めると、上にヒビ割れができる。だけど、温め直すと中身がトロリと溶けて柔らかくなるから、上のヒビ割れも動くよな!
「そうだよ!フォンダンショコラじゃん!!」
突然のナイスな思いつきに、思わず興奮した。
「親父!マグマはチョコなんだよ!いや〜、やっぱ俺って天才じゃね?よく思いついたよな〜」
せっかくわかりやすく説明してやったというのに、親父はキョトン顔で
「すまん、意味がわからん」
などと言っている。
たぶん、理解が追いついていないんだろう。
黄身時雨の方が良かったかな?
でもあれは再加熱しないから、中身が柔らかくなったと時のヒビ割れの動きは、再現できないんだよな。
「なんじゃそら?フォント・ダウン・ショ・コーラとは、新しい学説か何かか?」
チッ。伯父さんにまで、わかってもらえないとは。何がフォントダウンだよ。なんか落ちんのかよ。
でもよく考えたら、ジイさんはフォンダンショコラなんて知らねぇよな。
「もういいよ。そんな事より、急いだ方がいいんじゃねぇの?」
「それもそうだな」
「とりあえず、コイツも破壊しておきましょう」
「ちょっと待て。スコープの確認をする」
「じゃあ俺も。アタルも確認しろ。使い方の訓練にもなるからな」
「え?あ、うん、わかったよ」
こめかみの辺りに人差し指で円を描いてみた。
「おっ、おっ、おおお〜!」
徐々に縮尺が変わっていくのがわかる。
ズームにズームを繰り返していくと、赤い点を囲むようにして青い点が3つ点灯している。この青い点が、俺達なんだろう。
「破壊しますよ」
親父はそう言うと、十文字を出してブロックをパコンと叩いた。
サアァァ
ブロックは崩れ去って消え、スコープから、青い点に囲まれた赤い点がひとつ消えた。同時に、右上に白く書かれていた1500/1500の数字が、1499/1500に変わった。
「ガチでスゲェ!ちゃんと数も減った!」
「ふむ。流石だな」
「よーし!じゃあここからは手分けして壊していこう」
手分けって・・俺も含まれてんのかな。
ステルスモードに入って、気配を消してみた。
「じゃあ、アタルはこの辺にしとこう」
「えぇ!?お、俺も!?」
「何を言っておる。当然だろう」
「いや、いやいやいや・・」
親父は両手で俺の肩をガッシと掴んだ。
「アタル、いいか、このスコープて表示される赤い点がブロックなんだ。これを破壊する、それだけだ。ここにはサメもいなけりゃ毒虫も、アンボイナガイだっていない。ユニフォームを着てるから、溺れることもない」
「観念せい」
「・・・一緒に行ったらダメなのかよ」
「あと1,499個あるんだ。そして、無数の八面体が入っている。そう考えると、急いで殲滅させた方がいいし、そのためには手分けした方が早いんだ」
「まったく与は甘いな」
「いや、大事な相棒であると同時に、大事な息子なんです。納得したうえで行動してもらいたいんですよ」
親父は俺の顔を真っ直ぐ見つめながら、優しく言った。
「大丈夫だ。お前ならできるよ。だって、模擬火星であれだけ練習したじゃないか」
そうだ。そうだ、そうだった!
模擬火星でさんざっぱら練習したんだった。
せっかく練習したのに、モットーが邪魔をしてビビりまくってしまった。
いつかやらなきゃいけないんだったら、危険なモノが何もないここは、ストローを試すのに丁度いいかもしれない。
そう思って腹を括った。
「やるよ。タピオカストロー試さないとな」
「よし!じゃあ藍善さん、この辺はアタルに任せて、俺達は左右に分かれましょう」
伯父さんは返事をせず、ぷかぷかと浮いたままクルクル回っている。
「はて?タピオカストローとは何だ?」




