マグマ(4)
「やっと地表は冷えて、水もたたえるようになったのに、地球では原始生物がなかなか生まれなくてね。だから、2人であちこちにバクテリアを撒いたんだよ」
「いやはや、2人だったから時間がかかって大変だったわ」
「それが大酸化イベント?」
「違う違う。その時撒いたバクテリアは「非酸素発生型」定着して増殖しても、酸素が増える事はないんだ」
「「非酸素発生型」って?」
「酸素を発生させない光合成をするってことだよ。酸素を発生させるのは「酸素発生型」だ」
へぇ〜、光合成っていうと、全部酸素を作るんだと思ってた。
「この後の進化の過程で酸素発生型が無事に誕生するんだけど、かなり時間がかかったうえに、なかなか増殖しなくてね。このままだと、シアノバクテリアが発生しても、オゾン層が間に合わないってことになったんだよ」
「シアノバクテリアって?」
「酸素発生型光合成を効率的に行うのが、シアノバクテリアだよ。授業でやらなかったか?」
ヤバい。
「えっと・・確かストローライトだったっけ?」
「・・もしかしてストロマトライトのことか?光合成をするバクテリアが出す粘液に、海の中の微粒子と炭酸カルシウムが合わさって堆積した物だよ。お前・・ちゃんと授業聴いてないだろう」
ヤバい。ヤバい。話しを逸さなければ。
「あ!そうだった、そうだった。いやぁ、忘れてたよ。でもオゾン層はなんで関係あるん?」
親父が、疑惑の目を俺に向けている。
ヤバい!もしや話しの逸らす方向間違ったか?
「・・・オゾンは酸素でできるんだよ。オゾンの化学式と酸素の化学式は?」
やった!それは知ってる!!
「オゾンがO3(オースリー)で酸素がO2(オーツー)だろ」
「当たりだ。一応、ちゃんとわかってるみたいだな」
ウェ〜イ。誤魔化し成功。
テストで酸素の化学式をO3って書いてバツくらった時、2つも3つも大して変わんないねえじゃん!ってめちゃムカついたんだった。
あと1問合ってれば講習回避できたからな。
体験に紐付いてる事って、しっかり覚えてんだな〜。
これが怪我の功名ってヤツか?
そんな俺の思いに気づかないまま、親父は話し続けている。
「高度20kmより上だと、酸素は強い紫外線で分解されて、原子になるんだ。その原子が他の酸素分子と結合すると、原子が3個になってオゾンになる」
「んん?紫外線で分解されるんだったら、そもそもオゾンにもなんないで、全部が酸素原子になるんじゃねぇの?」
「オゾンは紫外線を吸収するんだよ」
へぇ〜。同じ原子でも、数によっても性質が変わるんだな。
「ただ、酸素原子と結合すると、オゾンは2個の酸素分子になっちまう。つまり、オゾンは消滅するんだ」
そうしてできた酸素分子がまた分解されて原子になって、他の酸素分子と結合すると、またオゾンになるんだ」
なんだかこんがらがってきた。
それに親父の話しも飽きたわ〜。長ぇし。
なんだよ、さっきから2個とか3個とか。串団子かよ。
そういえば、珍味堂の串団子は、小っさい団子が2個しか刺さってなかったな。そのかわり安いから、ガキの小遣いでもいくつか買えたっけ。
オゾンなんかどうでもいいから、みたらし団子食いてえなぁ。
「どうだ?わかったか?」
「つまり、串団子なんだよな」
「はい?」
「珍味堂の串団子を、串から外して1個ずつに分けてから、別の串団子に足すと、1串に3個の団子がついたスペシャルな串団子ができる。そのままでも旨いのに、欲張ってもう1個団子を刺すと、串団子は崩れちゃって、結局元の珍味堂の串団子に戻る。ってことだろ?」
「・・・ちょっとなに言ってるかわかんないな」
「聞いたか藍善!やはり此奴、面白い!面白いぞ!ムハハハハ」
ビーーーーーーーーーーーン
「うおぉぉぉ!耳痛いからやめてくれよぉ!」
いままで黙って聞いていたモグパパが爆笑している。
対照的に、伯父さんからは、ものすごく嫌なオーラが出ていることが、気配でわかる。
どいつもこいつも、なんなんだよ、まったく。
「とにかくだ!」
親父がパンっと手を叩いた。
「オゾンが多い層をオゾン層っていって、太陽からの紫外線を吸収するから、地上の生き物は守られるんだ。つまり、生物を進化させるためには、オゾン層は欠かせない。なのに、このままだとオゾン層が間に合わないから『酸素発生型光合成をするバクテリアをばら撒いて、大酸化イベント誘発させる』っていうのが任務だったんだよ」
「それをシクッたんか」
「違ーう!人聞き悪いこと言うな。俺は、ちゃんと10億年後も見に行ってるんだ。ばら撒いたバクテリアは、元からあるバクテリアとも馴染んで爆発的に増えててね。そりゃそうだ。エネルギー源になる二酸化炭素は鬼のようにあるんだからな。そうして、無事に大酸化イベントが繰り広げられているのを確認できたから、任務は完遂になったんだ」
「ほえ〜」
「なにが「ほえ〜」だ!さっきから黙って聞いておれば、大事な任務を団子などに例えおって!真面目に聞いとるのか!?」
「ちゃ、ちゃんと聞いてますよ!」
伯父さんがいると調子が狂うな。
「与!無論、お前達と共に行く!」
「ちょちょちょちょちょ、俺も入ってんの!?」
「お前は黙っとれ!!」
えー・・伯父さん、ガチで怒ってんじゃん。
これって・・俺も行かされるパターンかも。




