マグマ(3)
「くり返す。ジョーカーよりエースへ。完了してるはずの任務に問題発生。至急確認求む」
なんだこりゃ?聞き間違い?
そう思っている俺とは対照的に、親父が色めき立った。
へ?親父にも同じ声が聞こえてるってこと?
「エースよりジョーカーへ。どの件だ?」
「大酸化イベントよ。アレって、完遂してたはずだよねぇ?」
「そうだ。あの場で完了させたあと、10億年後の状況も見に行って、予定通りに進んでいるのを確認してる」
「そう。じゃあ、今になって問題が起きてるってことね。すぐ行ってちょうだい」
何だ何だ?何の話かよくわかんねぇな。
わかるのは、どうやら親父が、任務をしくじったらしいってことだけだ。
ジョーカーっていうのは、前に伯父さんが言ってたトランプになぞらえた担当のことだろう。
「了解。ああビカク、朗報だ」
「なに?」
「驚くなよ、藍善さんが生きてたぞ!!」
弾んだ親父の声がして、女の人の歓声があがった。
「えーっ!?本当に!?ねえ、本当の本当だよね!?』
「ああ!ちょっと・・小さくなってはいるが、藍善さんだ!」
「バカね!あれから何十年経ったと思ってんのよ。歳を取ると縮むんだからしょうがないでしょ!生きてたんだから、そんなことどうでもいいわよ!良かった!あの爺さん、無敵だと思ってたのよ!!」
いやいや、縮むレベルが違うんだって。
さすがに親父も「宝珠になった」とは言えなかったらしい。
「久しいなビカク。誰が爺さんだって?」
「うわぉ!本物の藍善だ!やっぱり生きてたんだね!絶っ対無事だって信じてたのよ!あ〜早く顔が見たいわ。今度呑みながらじっくり聞くからね!覚悟しときなさいよ」
「ハハハ、絡み酒は勘弁してくれよ」
ふむ。ジョーカーは「ビカク」っていうみたいだ。
ビカクさんも、伯父さんが生きてたことを、すごく喜んでるのが伝わってくる。前に親父が、「他のギュムノーにとっても特別だった」って言ってたもんな。
呑みながら話したいみたいけど、宝珠じゃ酒なんか呑めねぇだろ。それとも酒かければ呑めんのかな?
「もう一つ。まだ紹介してなかったんだが、新しい相棒ができたんだよ」
「長老に聞いたわよ。アタルでしょ?」
盃に置いた宝珠に、なぜか日本酒をかけるところを想像してた俺は、突然自分の名前が登場して驚いた。
「なんだ、知ってたのか。本当は今日、本部で会えたら紹介するつもりだったんだよ。だけど今は富士山の地下に来てるし、これからすぐに状況確認に行くから、会わせるのはまた今度だな」
「了解!楽しみにしてるわよ」
「それから、ジャックにも頼んで欲しいんだが・・」
「クククッ。そんなの気になるんだ。おっもしろーい!OK、伝えておくわ。それくらいなら、すぐ対応できるはずよ。じゃあ藍善、またね!」
「おうさ」
親父がビカクさんに何か言っていたけど、途中から、何も頭に入ってこなくなった。
このまま状況確認に行くだってぇ!?
まさか俺まで連れて行かないよな?
そんなん、ありえねぇよ!
「藍善さん、俺達これからすぐ行きますけど、藍善さんはどうします?」
「俺達!?」
思わず脳天から声を出した。
「え?俺のことじゃねえよな?俺、イベントなんか行かねえよ?」
親父は俺をガン無視して、藍善さんと話しを続けている。
「大酸化イベント絡みで任務が必要になったってことは、俺達が撒いただけじゃ足りなかったのか?それとも別件か?」
「あの時も定着を確認しましたし、足りなかったってことはありません。その先で分化する方に進化するのが遅れただけです」
「そうか。それで追加任務になったんだな。一人でやったのか?」
「藍善さんがいなくなったあとの、最初の任務です。後継者が見つからなくて俺独りだったから、できる任務も限られちゃって」
「補助はつけなかったのか?」
「よく知らないやつらと仕事するの、嫌なんですよ。それに、あん時は何も考えないで仕事がしたかったってとこもあるかな」
「ちょっと!無視すんなよ!」
そう言うと、親父はようやくこっちを向いた。
「何だ?お前には行かない選択肢は無いんだぞ?」
「なに言ってんの?勝手に決めんなよ!」
「父さんが決めてるんじゃない。決まってるんだ」
「まあまて。どんな事が起こっていて、何をしに行くのか説明してからの方が、当も受け入れやすかろう」
「フンッ!そうだよ!説明しろよ!」
説明聞いたって行くつもりは全然ないけどな。
伯父さんからも言われたもんだから、親父は頭を掻きながらしぶしぶ話し始めた。
「お前はたぶん、催し物のほうの「イベント」を想像してるんだろうけど、大酸化イベントっていうのは、大酸化事件ともいわれる、地球規模の大きな出来事なんだよ」
「だいさんか?」
「大きいに酸化鉄の酸化って書いて「大酸化」だ。地球には最初っから酸素があったわけじゃない。初めにできた大気は原始大気といって、地球内部から発生したガスでできていたんだ。二酸化炭素とか窒素とかな。そこに酸素はなかった。俺と藍善さんがばら撒いたから、生物は発生してたんだけどな」
「ばら撒いた?」
「ハーッハッハッハ!」
俺が首を傾げていると、伯父さんが笑い出した。
「懐かしいのう。あの時の与も、今のお前と同じように嫌がって騒いでいたものだ」
「え!そうなの?」
「ああそうだ。俺にとって初めての任務だよ。いま思えば、藍善さんは怖がる俺のために、鼻くそをほじる程度の仕事を選んでくれたんだってわかる」
「じゃあ俺の気持ちだってわかるはずじゃん!」
「落ち着け、当。わかっているから、説明を省いておるのだ。そもそも、与が自ら任務を受け入れるようになったのは、せっせと任務に連れて行った、俺のたゆまぬ努力の賜物だ」
「諦めたんですよ」
「それはそれでよかろう」
俺は諦めないぞ!断固拒否してやる!




