マグマ(2)
「おい、童」
突然、地龍に話しかけられた。
いつのまにか、金色の光は消えている。
「藍善と来たというのは、お主らだったのだな」
「そうです。藍善さんは・・消えちゃったんですか?」
我に返った親父が、返事も待たずに
「なんて言ってる!?藍善さんは無事なのか!?」
横から口を挟んできた。
「ちょっと待てよ、いま訊いてんだから」
親父を制して、また地龍に向き直った。
「カカカカカカカカカ!」
ビーーーーーーーーーーン
うおぉぉ。ガチで音波が頭に響くぜ。
なぜに笑ってんの?マジで耳が痛いんだけど!
思わず不機嫌を顔に出したまま耳を押さえていると、
「心配せんでも、藍善ならここにおるぞ」
レローン
「ギャアァァァァァ!」
モグパパの口から、それはそれは巨大なイソメ玉が出てきた。
「なんら?ろうしら?」
俺はサッと巨大イソメ玉から目を逸らした。
モグパパには悪いけど、とても見ていられる代物じゃない。
生理的に無理なんだってぇ!
「い、いや、マグマの中なのに、イソメ・・いや、舌を出しても大丈夫なんですか?」
「ムハハハハ!ころていろなら、らいりょううら」
たぶん、この程度なら大丈夫だって言ってるんだろうと思う。(オェェ)
しまってもらいたくて遠回しに言ってみたけど、全然通じなかった。
「なんか、イソメ玉にいるってさ」
親父にそう告げると、イソメ玉を避けるように、避けるように、なるべく見ないように、目を絹糸レベルにまで細めた。
「ええ!?あそこに!?いないぞ?おい、本当にあそこに藍善さんがいるって言ってるのか?」
ええ〜〜。俺見れないのに。
「あのー、藍善さん見つかりませんけどぉ?」
目を細めたままモグパパに訊くと、
「ほーらお。らっれ、ほーりゅらろん」
んー?
そーだよ。だって宝珠だもんってトコか?
「伯父さんは宝珠になってるみたいだよ」
「なんだってぇ!?」
バタバタと親父が慌てている。
スコープ、スコープって言ってるから、ライトスコープを使うんだろう。地龍の巨大なイソメ玉から宝珠を見つけるなんざ、肉眼じゃ絶対無理だからな。(オェェ)
「やあ、宝珠を見つけたぞ。いた!藍善さんだ!良かった、藍善さんは消えてなかった」
安堵したんだろう、親父はオイオイと泣いている。
俺はまだ伯父さんを見つけることができない。
そりゃそうだ。絹糸レベルの目で見つけるのは至難の業だ。というより不可能なんじゃね?
「伯父さん、宝珠になっちゃったのかよ?」
目を細めたまま、親父に訊いた。
「いや違う、宝珠の中にいるんだよ。宝珠の中に小さい藍善さんが・・いる?」
ん?親父の返事が、なんだか尻つぼみだな。
「ちょっとまてよ?俺の知ってる宝珠は、片手で握れるサイズなんだ。その中に藍善さんがいるってことは・・?ええ?」
親父がブツブツ言っている。
なんだ?伯父さんが縮んだってこと?
よくわかんないけど、まあいいや。
とにかく、イソメ玉を見ないようにすることが肝要だ。
目を細めたままモグパパに訊いた。
「あの〜、藍善さんと話すことはできますか?」
ズゴォォォォジュルン
え!?なになになになに!?なに今のバキューム音!?
もしかして、イソメ玉しまった音!?
「無論だ!というより藍善はお主たちの元へ戻るから安心せい!ムハハハハハハハハハハ」
ビーーーーーーーーーーーーーーーン
「うおぉぉ!み、耳が痛いぃ!」
「龍善、遊びもほどほどにしてやってくれ」
藍善さんの声が聞こえた。
「藍善さん!」「伯父さん!」
宝珠に変化したからなのか、声だけで姿は見えない。
『声はすれども姿は見えず、ほんにお前は屁のような』
むかし誰かが教えてくれたっけ。
こんなの口が裂けても言えないけどさ。伯父さんにガチ切れされること必至だ。
そんなことを考えていると、
「いやはや、この童が愉快なのだ。我が妻からも、物覚えが悪いと聞いておってな」
なにー!?失礼なっっ
「お言葉ですけどね!」
流石にムカついたので、モグパパに反論を始めた。
「俺はモグの兄貴分なんですよ!それなのに物覚えが悪いなんて失礼じゃないですか!」
そう言い返すと、
「ブフォッ!」
横から親父が吹き出した。
「ワハハハ!な、なにお前、地龍に物覚えが悪いって言われたのか?」
ひ、ひで〜っ!自分の息子がバカにされてんのに!
笑いが止まらなくてヒイヒイ言ってるのがまた悔しい。
「なんだよ!親のくせに笑うことねえだろ!」
俺が地団駄踏んで悔しがっていると、地龍が体をよじって笑っている。マグマで見えないけど、たぶん。
「グアッハハハハハハハハハ!!」
ビーーーーーーーーーーーン
うおぉぉぉ!ガチでヤバいよこの音波!!
俺も違う意味で身をよじった。
「聞いたか藍善!此奴、面白い!面白いぞ!ムハハハハ」
ビーーーーーーーーーーーン
ぬおぉぉぉ!追い音波キター!!耳が死ぬぅ!!
親父の方を見ると、とっくに意識が飛んでいた。
「お前たち大丈夫か?龍善の笑い声は音響武器にもなるからな。音響武器は「武器」と名がつくだけあって、難聴になったり、脳が損傷したりする恐ろしいものだ。まあ我々はユニフォームを着ているから、大事には至らんがな」
「え!?マジで!?」
確かに親父はまだ、目を白黒させている。やべぇじゃん!
「何を言う。大したことなどなかろうて」
「いや、あの時お主は・・・」
「それはほれ、仕方なく・・・」
藍善・龍善のダブル善は、「なあ龍善」「のう藍善」などと、なんだかワチャワチャ楽しそうだ。永いこと会っていなかったんだから、積もる話もあるんだろう。
音波にあてられた親父は、いつのまにかイヤーマフのような物を耳に当てている。
どうせティッシュの時みたいに、こめかみクリックして出したんだろう。
う〜ん、暇だ。
横になって寝ちゃおっかなぁ。
でもなぁ〜。疲れてないのに、寝れるかなぁ?
そんな事を考えていた時、こめかみから聞き慣れない声が聞こえてきた。
「ジョーカーよりエースへ。完了してるはずの任務に問題発生。至急確認求む」




