月面(9)
「ど、どど、ど、な、な、ど、」
「落ち着けアタル。藍善さん、どういう意味です?」
目を白黒させている俺を落ち着かせるように肩を掴むと、伯父さんに詰め寄った。
「意味などない。言葉の通りだ」
「説明してください!どうやったらそんなにデカいのを作れるんです?」
「共鳴だよ」
「共鳴?」
「お前の玉と当の玉を共鳴させるのだ。共鳴させる事で、より大きな力を持てるようになるからな」
「共鳴・・・そんなの聞いてませんよ!」
「そりゃあそうだろう。言ってないからな」
「お、お、お、おれ・・も・・?」
何させられんの?危険はないっていったじゃん?
茫然自失のていで、伯父さんに訊くと
「今のお前じゃあ、まだ無理だ。だが、与からだけ働きかけて共鳴させる「半共鳴」を使えば、軽く5mはいけるだろう」
そう言って、親父になにやら公式のようなものと法則を教えている。
「・・・よし、試してみます。アタル、俺の向かい側に立て」
頭を勢いよくにブルブルと振った。
「嫌だ!」
「は?」
「嫌だ!絶ってー嫌だ!!」
「はぁ〜?」
「怖い怖い怖い怖い!嫌だぁーーー!!」
ショボンとしながら親父の向かい側に立った。
ならこのまま行く。安全の保証はできないから覚悟しろ!と半ば脅されたんだから、タチが悪い。
「まったく、往生際の悪いヤツめ」
伯父さんが笑っている。
ムカつく。石ッコロに言われたくないわ!
恨めしい目で見ている俺をこれまた無視して、親父は真剣な面持ちで何やらカタカタ右手を動かしている。
俺を見てるけど、俺のことは見ていない。
なんて言ったらいいか難しいんだけど、俺の顔も頭も通過して、その向こうに焦点が合っている感じ。
キー・・ン・・
「うわっ!ととと・・」
フワッと浮き上がるのと同時に、光の球の中にいた。
「やあ、できた!藍善さん、できましたよ!」
親父は、少年のように目をキラキラ輝かせている。
伯父さんも、うんうんと満足げだ。
石だから表情は全然、全っっ然わかんないけど、それでも嬉しそうな気配というか、オーラというか、雰囲気を醸し出している。
それにしても、何だか伯父さんに再会してから、親父は子どもというか青年に戻った気がする。
ふむむ?なんでだろう?
俺も同じように、子どもに戻ったりするんだろうか?
この前、小学生の時に仲が良かった斉藤に駅でバッタリ会ったけど、あん時は、別に「おう!久しぶりじゃん」って感じだったっけ。やっぱ気持ちが小学生に戻ったりしないよな。
う〜ん、条件が違うから?
親父の場合、ずっと会ってなかった人が、当時の年齢のまんまだったってことになるよな。
えーっと、4年生の時、一番仲が良かったのはセイジだ。3年生から同じクラスで、よく児童館でカードゲームしたっけ。4年生の2学期の終わりに引っ越したんだよな。だから、俺の記憶の中のセイジは、4年生のまま止まっている。
セイジの顔、顔・・もにゃもにゃ・・
目を閉じて、セイジの顔を思い出そうとした。
ポンッ
おっ!セイジだ!懐かしい・・・あれ?
今の4年生くらいの子を見ると、ただの「子ども」にしか映らない。だけど、不思議なことに、記憶の中のセイジは「子ども」じゃなくて「同級生」「友達」として映っている。
つまり・・あれ?過去に戻ったように感じてるってこと?
20年前のままの人に会うことで、精神年齢も当時に戻ってるのかもしれない。もちろんそこには「現在の精神年齢」も共存しているから、客観的に見ることもできて、過去を懐かしむ気持ちを引き起こしてるとか。
「アタル」
突然、現実に引き戻された。
「なにボーッとしてる。大丈夫か?」
「あ?ああ、平気だよ」
初めて連携と半共鳴とやらをしたから、俺への影響を多少は気にしているようだ。
それにしても、このサークレアはデカすぎる。
自分が今まで作ったサークレアと違って、足を大きく開いても縁に当たることがないせいか、真っ直ぐに立っていても不安定な感じが否めない。
親父はというと、隣で腕組みをして立っているだけだ。
「よし、行くぞ」
「え!?もう!?」
スイッ
もの凄いスピードで、月面を疾走していく。
初めはワナワナと震えていたものの、徐々に慣れてきて、景色を観る余裕も出てきた。
「なあ、訊くの忘れてたんだけど」
「うん?」
「このままライトスコープつけといて平気なんか?」
そう。俺は暗視スコープ、親父は確か、暗視機能のついたアニマンチアスコープを付けている。
ここは月の裏だけど、今向かっているのはイッキなわけで。もしそこが明るければ明るいほど、目がやられちゃうんじゃないだろうかと不安になった。
「不要になったら勝手に消えるから問題ない」
「消えんの?」
「そうだ。不要だと思った瞬間にな。思った、っていっても考える必要はない。装置自体が判断するからな」
「へぇ〜」
絶対、身体に害を与えないようになんでんだな。
なんかスゲ〜便利だよなぁ。
感心していると
フッ
突然全てがスローモーションになった。
え?ええ?
360°(正確にいうと、背後はさっきまでいた月面だけど)が宇宙空間だ。
あんなにスピードを感じてたのに、月面から離れた途端、時間がゆったりと流れ始めた。
「す、すっげぇぇぇー!!」
「な!凄いだろう。宇宙はこの上なく美しいんだ。お前が産まれた時から、いつか一緒に観たかったんだよ」
そうか。なんかちょっと嬉しいな。
金星人になってなかったら、親父と一緒にこんな美しい光景を観ることは、一生なかったかもしれない。
そう思うと、感慨深いものがある。
「ここだな」
ん?止まった?
「ここからいっきに行くぞ」
お!いよいよイッキに向かうんだな。
おそらく、このままイッキまでテレポートするんだろう。
スッ
音もなく、突然下に向かって落ち始めた。
へ?足下にあるのは・・地球!!!
サークレアの一部が輝きを増していることで、素人の俺でも、どんどん加速していくのがわかる。
「お、親父、イッ・・」
ゴオォォォォォォォ
「キィィィィィィー!?」




