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月面(3)

「藍善さん!!!藍善さんですよね!?」

親父はモドキ石に向かって話している。

俺はというと、尻餅をついて口をあんぐり開けたまま、瞳孔全開だ。

普通なら、親父の頭がおかしくなったのかと思うところだけど、俺にも石の声がはっきりと聞こえている。

え?なに?俺が隕石だと思ってたのは、藍善おじさんだったわけ?おじさんって、石なの?

頭が混乱していて理解が追いつかない。

「久しいな、アタエ。任務は真面目にこなしているか?」

「やっぱり!やっぱり藍善さんだ!生きてたんですね!!生きてた・・良かった・・良かった・・!」

親父がモドキ石を胸にあてて、おいおいと泣いている。

時々、石に話しかけると、また泣いている。

シュールすぎる光景に、ただただ呆然としていると

「アタル、藍善さんだよ。お前の大大叔父さんだ」

親父が涙を流しながら、モドキ石を差し出してきた。

全っ然意味がわからない。

俺は尻餅をついた姿勢のまま、頭をブンブンと振った。

どうしたんだよ、と言いながら、

「息子のアタルです。すみません藍善さん、こいつ恥ずかしいみたいで」

なんて言っている。

いやいやいやいや!違いますからー!!

意味がわからないくて、気持ち悪いんですよー!!

頭では叫んでいるつもりなのに、実際の俺は、酸素不足の金魚のように、ただパクパクと口を動かしていた。

「気にするな。それより長老はご無事か?」

「もちろんお元気ですよ。お変わりなくピンピンしています。長老が我々よりずっと長生きで健康なのは、藍善さんもご存知じゃないですか」

「そうか、良かった。間に合ったんだな」

「何がです?」

「いや、こっちの話だ」

親父と石は、久しぶりの再開に何やら話しが弾んでいるようだ。傍から見るとおかしな光景だけど、親父はこれ以上ないくらいに喜んでいる。

そりゃそうだ。目の前で死んだと思ってた憧れの人が、実は生きていたわけだから。石だけど。

それにしても、何で石になったんだろう。

落ち着いてくると、好奇心がムクムクと湧いてきた。

「・・あの!」

親父がこっちを見た。石は・・こっちを見てるのかわからない。まあ、どっちでもいいか。

「あの、なんで石になったんですか?」

「なんだよ、急に。失礼だろう」

「いや、いい。こんな姿なんだ、そりゃあ知りたいだろう。アタルといったな。月の形成に関する任務のことは、アタエに聞いているか?」

「えーっと、2つの月をぶつけて1つにする?」

「ははは!アタエの説明だとそんなものか」

「いや違います!もっとちゃんと説明してますよ!お前ちゃんと聞いてなかったのか?」

「まあまあ、いいだろう。あの任務は「核のある月が地球に衝突する前に、核のない月を融合するように衝突させ、かつ、潮汐ロックがかかる位置に配置する」というものだった。潮汐ロックというのは・・」

「あ、それは説明済です!な、アタル」

俺はコクコクと激しく頷いた。

100%理解できたかはともかく、聞いたことは覚えている。人それぞれ考え方も感じ方も違うわけだけど、動かしようのない事実もあるわけで、潮汐ロックに関しても、そうそう変わりようがないだろう。そうすると、結果として同じ事をもう一度聞く羽目になるだろうから、俺としてもそれは避けたい。変な質問をしたり、相槌のタイミングを間違えると怒られそうだしな。

「そうか。ならばどこから話そうか」

石の話は長くなりそうな予感がする。

「とりあえず座ろうぜ」

「そうだな。藍善さん、ちょっと座りますね」

石からはどう見えるのかわからないけど、とりあえず3人?で丸くなって座った。

「この配置で平気ですか?」

「何の問題もない」

そう言うと、石・・もとい、藍善さんは話し始めた。


アタエには言っていなかったが、任務を命じられた時、ぶつける方の月をどう動かすか、アタエに計画を立てさせるつもりだったのだ。

俺がギュムノーになった当時、相方は計画を立てるのが苦手でな。俺が全ての計画を立てて、任務を遂行していたのさ。それは、相方が退職して、アタエと組むようになってもずっと続いていた。

後継者も見つからなくて、退職年数を過ぎてもまだ働いていたんだが、なにしろ歳をとっちまったからな。いつ何があっても良いように、そろそろ引き継ぎをしなけりゃならんとは思っていた。

経験とコツ、あとは根気さえあれば、計画を立てるなぞ造作もないが、あの時は、クイーンから火星の邪魔が入りそうだという情報がもたらされたから、アタエにやらせるのは次回に持ち越したのだ。

どうした?何か訊きたそうだな?

そうか、クイーンのことか。アタエはまだ教えていないのだな。

我らギュムノーは、実行、技術、諜報、隠密、指令という担当に分かれている。

構成員は各2名だが、任務によっては金星人または地球人を補助として入れる場合もある。めったに無いがな。

後継者は自分たちで探すことになっているが、探すのに難儀するうえ、ギュムノーになれるのは18歳以上と決まっている。おまけに、残念ながら拒まれることが多いのだ。だから、退職せずに働き続けることもある。俺のようにな。

こらこら落ち着けアタル、何を怒り狂っておる。

ほれ、喚くな騒々しい。

なに、騙されたと?

ギュムノーにならないのであれば、純粋な金星人になるしかないと?

ムハハハハ!そいつは傑作だ!

昔々、俺と長老でアタエに言った戯言を、そのままアタルにも言ったのか。

まあまあ、それも良いではないか。

とりあえず、俺の話しを聞かんか。

良いから座れ。怒鳴っても何も変わらんぞ。

おい!人の話しを聞けと言っとるだろう!


じゃかましいんじゃゴルァァァァァ!!

いい加減にせんか貴様らっっ!!!


・・・よし、やっと黙ったな。

まったく、人の話しを最後まで聞かんでどうする。

じゃあ、続けるぞ。黙って最後まで聞けよ?

各担当には、トランプになぞらえて付けられた呼び名があってな。クイーンというのは、諜報の呼び名なのだ。

確かに「諜報」などと安易に口に出しては相手に警戒されるから、良い名付けだったと俺は思う。

我らは実行、呼び名はエースだ。

余談だが、明治以降の須田家では、代々名前のかしらに「あ」を付けることになっている。これは、エースだからA、つまり「あ」を付けているのみならず、「須田すた」の姓に「あ」を付けることで、星を表す「スタア」になるというわけだ。洒落しゃれが利いていると思わんか?

では、閑話休題。月の続きだ。

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