表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/124

月面(2)

「ふむ、軽いな。鉄隕石じゃなさそうだ。隕石だとしたら、だけどな。調べてみるか」


トンッ


親父がこめかみの辺りを三本指で叩くと、目の前に光が現れて両目のあたりを覆った。

何だ?虫メガネみたいなもんなのかな?

ジッと見ていると、こめかみの辺りに人差し指で円を描く仕草をした。

「何してんの?」

「ん?」

「ここんとこで指をクルってしてたじゃん」

「ああ、これで明るさを調節してるんだよ」

「明るさ?」

「そうだよ。コイツを暗視スコープにした時に、これで明るさの調節ができるんだ」

「え?何それ?もしかして、それを使えばここもはっきり見えるってことかよ?」

「あれ?教えてなかったっけ。これはライトスコープっていって、望遠鏡にも顕微鏡にも暗視スコープにもアニマンチアスコープにもなるんだ。今は、暗視機能のついたアニマンチアスコープにしてる」

「何そのアニマルスコープって?」

「アニマンチアスコープだ。物質を判定するスコープのことだよ。例えば、そのスコープで知らない生物を見ると、名前や特徴なんかがわかる。無機物ならば、表面だけだが大体の組成がわかるってとこだ」

「ふっざけんなよ!そんなの使えんだったらさっさと言えよ!なんなら最初っから何でも見れたってことだろ?」

頭から湯気を立てる俺を両手で宥めながら、

「まあそう怒るなよ。本当の星空を見せたかったんだ。宇宙は果てしなくて、信じられないくらい美しいんだ」

なんて言ってたけど、本当かどうか怪しいもんだ。

ブースカブースカ文句を言いつつも、ライトスコープの使い方を教わると早速試してみた。

「何の機能を使いたいかを頭の中で考えながら、こめかみの・・ここだ。ここを三本指で一度叩くと、目の前に光のレンズが現れる」

「ここって・・」

「そうだ。長老が、」

「皆まで言うな。思い出したくもない」

「脳を組み込んだところだよ」

「だー!!言うなって言っただろ!」

親父はクツクツと笑っている。

くぅ〜っ!俺が嫌がる事をピンポイントでやって、喜んでやがる。

ちくしょう覚えてろよ。いつか痛い目みせてやる。

ムカつくけど、とりあえず使い方をマスターしないと。このままじゃ視界が悪くてかなわない。

何から試してみるか訊かれて、迷うことなく暗視スコープをチョイスした。暗闇じゃ何もできないからな。

暗視スコープ、暗視スコープと心の中で念じながら、こめかみを叩いてみる。


トンッ


その瞬間、目の前に暗視スコープの機能を備えた、光のレンズが現れた。

「うおぉぉぉ〜!?すげぇすげぇ!!めっちゃ明るいじゃん!昼間と全然変わんねえ」

暗視スコープってこういうことか!

太陽が当たっていない真っ暗な月の裏側も、隅々までが灯りを点けたみたいによく見える。まるで太陽のスイッチを入れたようだ。こっち側から太陽は見えないんだけどね。

「ガチですげえな、これ!」

興奮しながら振り向くと、親父は真剣にモドキ石を観察していた。

そうだった。俺のためなのか、親父自身の興味なのかはわかんないけど、隕石を調べてくれてるんだっけ。

「で?どうなんだよ。やっぱ隕石だろ?」

「・・・いや・・この表面は・・分析できないぞ・・」

親父が険しい顔でそう言った。

「え?じゃあ、ただの石ってこと?」

「ただの石なら分析できるんだよ。ケイ酸塩鉱物とかな」

「ケイサンエンコウブツって?」

「カンラン石とか輝石なんかのことだよ」

「貴石!?貴石ってダイヤモンドとかルビーとか!?」

思わず目を輝かせた俺を、親父が慌てて止めた。

「違う違う違う!お前の言っている貴石は、美しさ・希少性・一定の硬度を兼ね備えてる石のことだけど、父さんが言ってるのはそっちじゃなくて、輝く石と書く方の輝石なんだよ。その中だと、宝石と言えるものは翡翠くらいだ」

「なんだ〜。でも分析できないってことは、ダイヤモンドとかルビーの可能性もあるってことなんじゃないの?それか、もしかして尋常じゃないくらい貴重な物だとか!?」

こうなったら、何としてでも調べて貰わないと。

俄然やる気が湧いてきた。  

「表面に粉がついてるからじゃねえの?」

「いや、レゴリスはちゃんと払ったよ。隕石そのものの表面がエラーになるんだ」

「ちょっとだけ削ってみたら?」

「いや、少し削ったくらいじゃ、何もわからないよ」

「なら割ってみようぜ」

「いいのか、割っちゃっても?どうせ強欲なことでも考えてたんじゃないのか?」

親父はニヤリと笑った。

途端に小っ恥ずかしくなって

「うっせぇな!!返せよ!割ったって価値なんか下がんねぇから平気だよ!!」

そう言って親父の手から思いっきり奪い返すと、地面に叩きつけようと、頭の上に振り上げた。

「よせと言ってるだろうが!!」

どこからか怒鳴り声がして、親父と顔を見合わせた。

「何だ何だ?誰かいんのかよ?」

俺はモドキ石を持ったまま、キョロキョロと周りを見回した。

「親父!親父にも聞こえたよな?」

親父は固まって動かなくなっている。

「おい!どうしたんだよ親父!親父!」

目の前で騒いでるのに、固まったままだ。

「まさか・・敵?・・んなわけないよな。じゃあ訓練の一環ってこと?」

「・・・今の声・・・」

親父がようやく口を動かした。

「なに?なんだよ?やっぱ訓練ってこと?」

「・・あ・・あ・・・」

親父は目をガン開きにして唇を震わせている。

「どうしたんだよ、親父?」

肩に手を置こうとして、親父にモドキ石を奪われた。

「藍善さん!!!」

「えーーーー!?」

親父が叫ぶのと、俺が尻餅をつくのは同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ