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月面(1)

ふわんふわんと軽い足取りで、光に近づいていく。

暗闇にあって、何かが光っているのはすごく異質だったから、本来の俺だったら用心して近寄らないところだっただろうに、今の俺は訓練し過ぎておかしくなっているのか何にも考えていなかった。

「ふんふん、何だろな〜。隕石だったりして〜」

遠くでボウッと光っていたものは、すぐそこにまで近づいていた。

「間違いなく光ってるよなぁ。やっぱ隕石じゃね?」

確か、貴重な種類の隕石は高く売れたはずだ。

急げ急げ!・・・なんて無理か。

今の俺は、急いだとしてもポーンポーンとしか歩けないもんな。

まあ、ここなら誰かに先を越される心配もないし。

だけど、隕石だとしたら種類が何か気になるよなぁ〜。

こっから見ても光ってるってことは、プラチナ?まさかの金だったりして。くふふ。

「ここだ」

目の前まで来てみると、光っているのは地面だった。

「土そのものが光ってる・・ってわけじゃないよな」

しゃがんで土を掻き分けると、光が少し強くなる。

「やっぱ土の中で光ってるのか。隕石だからって、地上にあるわけじゃないんだな」

俺の中では、隕石で決定している。

だって、こんな暗闇の世界で光るなんて隕石ぐらいのはずだ。絶対そうに違いない。

膝をついて、本格的に土を掘り始めた。

「それにしても、なんかパラパラしてて痛そうな土だな」

月の土は尖った部分が多いうえに粉っぽくて、掘るたびにモフモフと舞いあがる。幸いにも今はフードを被っているから顔全体が守られていて、なんの心配もない。

自分じゃ全然わからないけど、たぶん親父の時と同じように、お面みたいなものを被ってるんだろう。どうせ誰にも見られるわけじゃないんだし、さして気にもならない。安全第一だ。

掘っていくほどに、どんどん光が強くなってくる。

「よっ。ほっ。おっ宝、おっ宝〜」

ルンルン気分で掘り進めると、何かにぶつかった。見ると、地球だったらとても素手では掘り出せないような、大ぶりの石がガッチリと埋まっている。石の周りから光が漏れているところを見ると、この下にお宝があるのは間違いない。

「この下だな。よしいくぞ!ふんがっ」

思いっきり石を持ち上げると、まるで昔話のように、目が眩むばかりの光が溢れでた。

「おおぉぉー!?」

あまりの眩しさに、持ち上げた石を放り投げて、思わず腕で目を覆う。

「やべぇ!すげぇお宝掘り当てちまったぜ!」

と、ホタルが光を消すように、目の前がフッと暗くなった。

「あ、あれ?」

目がお宝の光に慣れてしまったせいで、地面はまたしても吸い込まれそうな暗黒に支配された。

ゾクゾクッと背筋が寒くなったけど、さっきとは違い、ここが地面で、もう少しして目が慣れてくれば、星明かりで周囲がうっすら見えてくることを知っている。

お宝効果もあって、恐怖はなかった。

「おっかしいな〜?確かに光ってたのに。なんでだ?」

目が暗闇に慣れた頃に下を見ると、そこには両手で輪を作ったぐらいの大きさの、丸っこい石があった。まるで図鑑で見た恐竜の卵のようだ。

「なんだこれ?」

拾い上げて、ためつすがめつ眺めてみたけど、どう見てもただの石で、こいつが光っていたとは到底思えない。だけど、脇には、持ち上げてどかした大きな石があるだけだから、やっぱり光っていたのはこの石としか考えられない。

「光ってたのって、絶対これだよなぁ?」

夢か幻だったとか?そしたら、ここまでの労力が、そっくり無駄ってことになるじゃん。

ちょっと自信はなくなってきたけど、とりあえず隕石に間違いないと信じることにした。

これは隕石。これは隕石。よし!これは隕石だ。

それにしても、隕石ってもっとゴツゴツしてるもんだと思ってたけど、丸いんだな。

もう一回光らないかと、両手で持ってブンブンと振ってみた。

「やめい!やめんかコラ!!」

「へ?」

辺りをキョロキョロと見回すと、遠くに親父のシルエットが見えた。

「何だ親父かぁ。親父〜、こっちこっち〜」

声を掛けて手を振ると

「こんなところにいたのか」

そう言ってザクザクとこっちに歩いてきた。

離れていても、ちゃんとこめかみから聞こえてくる。

人間トランシーバーってとこだな。

それにしても、親父のヤツ歩くのに跳ねたりしてないし、歩く速度も地球と変わんなくね?

自分との違いに首を捻っていると、

「何やってんだ。探したんだぞ」

いつのまにか、すぐそばで親父の声がした。

「なんか、普通に歩いてんのな。しかも速え」

「そりゃあ、キャリアが違うからな」

チッ!いちいちムカつくな。

「何してたんだ?」

「これだよ。ほら」

そう言って、恐竜の卵モドキを見せた。

「なんだこれは?」

「隕石」

「隕石ぃ?」

親父が素っ頓狂な声をあげた。そんなに変な事を言ったつもりはないんだが。

「いやいやいやいやいやいや、本当に隕石なのか?」

「知らね。さっきまでは、すげえ光ってたんだよ」

「落ちてくるところを見たのか?」

「いいや。埋まってた」

「埋まってたぁ?レゴリスの中から掘り出したのか?」

「レゴリス?」

「固体の天体に岩石なんかがぶつかると、砕けてガラス片や粉状のものができる。で、天体の表面に堆積していくんだけど、そいつらをレゴリスっていうんだよ」

「な〜んだ。ただの土をカッコよく言ってるだけじゃん」

「おいおい、土とレゴリスは全然違うぞ。土は、砕けて細かくなった岩に、微生物が住み着いたり、生き物の死骸や枯葉や苔のような有機物なんかが長い年月をかけて混ざり合った結果、作り出されるんだ」

「ふうん。まあ何でもいいや」

「何だよ、せっかく説明してるのに。だいたい・・」

「とにかく!」

面倒臭いお小言を遮って続けた。

「光ってるのが見えたんだよ。んで、ここまで来て掘り出したら、途端に光が消えたんだ。落ちてくるのを見たわけじゃないけど、こんな暗いとこでも光ってたから、金とかプラチナとかの隕石だと思ってさ」

俺の話を聞いて、親父は変な顔をした。

「お前、なに言ってんだ?光の反射もないのに、金もプラチナも光るわけがないだろう。金が含まれているとしても微量だし、そもそも金もプラチナも発光しないぞ」

言われてみれば確かに。

母さんのネックレスは、暗いところで光ってない。

ちょっと見せてみろ、と言われて、渋々ながら親父に卵もどきを手渡した。

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