本部(15)
ビームのような光線を発射してブルーな俺は、恨めしい目で親父を見ながら、サークレアの作り方を教わっている。
ヘソのあたりは一応元通りになったものの、来週から水泳の授業が始まることに焦って、ついさっきまで親父に噛みついていた。
「あれ?高3なのに水泳あるのか?」
「うちの学校はあるんだよ!ほとんどが煌星大学行くからって生徒会が頑張って、1学期中に2回だけプールに入れる事になってんだよ!」
「受験する子もいるだろう?」
「希望者は自習してていいんだよ!とにかくプールの最中にビームが出たらどうしたらいいんだよ!こちとら高校最後のプールなんだよ!!」
地団駄を踏んでわあわあ騒いだのに、
「まあまあ、今だってビーム出てないじゃないだろう?心配し過ぎなんだよ」「大丈夫だってば」
と言うばっかりで埒が明かなかったから、結局諦めて練習することにしたんだ。
「玉を大きくしてサークレアに変化させるんだ。もともと玉は球体だから、単に玉を少しずつ大きくしていくことをイメージしてもいい。最終的に、大きくなった玉の中に、自分がすっぽり入っているところまでイメージするんだ。他に、自分の周りに円を描くようにイメージするやり方もある。人によってはこっちの方がやりやすいが、いくつかの注意が必要だ」
親父は、恨めしそうに見ている俺の目を気にせず言った。
どっちでもいいけど、メンタルボロボロになった今となっては、さっさと習得して家に帰りたい。
「まず、円が小さくなり過ぎないように注意が必要だ。イメージした円を基準とした球形のサークレアできあがるから、お前の身長プラスアルファ以上の円をイメージしなくちゃいけない。そうしないと、身動きが取れなくなるからな。それから位置が重要だ。玉は丹田のあたりにあるから、そこを中心とした大円をイメージしなくちゃいけない」
「大円?」
「球の中心を通って外側に達する円のことだ。そうだなぁ・・球をスライスするところを想像してみろ。球のど真ん中を通るようにスライスした時の円が、最も大きくなるだろう?その最も大きい円を大円、それ以外、つまりど真ん中を通らない円を小円っていうんだ」
「赤道みたいな感じ?」
「そうだな。子午線もそうだ」
「ちょい確認。えーっと、つまり、ヘソの周りに2mの円を描いたら、ヘソを中心とした直径2mの球体ができるってこと?」
「大正解!!」
へへん。俺だって、やるときゃやるんだぞ。
さっきまで凹んでいたのに、褒められてなんだか気分が上がってきた。
鼻がピノキオレベルにまで高くなった俺を見ながら、
「じゃあ、やってみるか。コツさえ掴めば簡単だから、とにかく数をこなして慣れることだ」
と親父はニコニコしながら言った。
ああ。本当は、ニコニコ笑いではなくニヤニヤ笑いだったことに、この時の俺はまだ気づかなかったのだった。
さっきからぶっ通しでサークレアの練習をしている。
初めて作ったなんちゃってサークレアがたまたま成功したもんだから、親父の鬼コーチ魂に火がついてしまったようだ。
「おおぉ!すごいじゃないか!まだまだ脆いけど、ちゃんと形になってるぞ!これなら行ける!よしよし!もうすぐ行けるぞ!」
「え?どこ行くんだよ?」
「任務だよ。やらなきゃいけないことが目白押しだって言っただろう」
「はい?」
「よし!練習するぞ!!」
「えぇぇ〜〜」
というわけだ。
そこから鬼特訓が始まった。
成功しないと安全が保障されない一方で、成功すれば任務に連れて行かれてしまうというジレンマに陥りつつも、やっぱり任務に行きたくない俺は、必死になって成功しないように頑張っている。
それに気づいたのか、突然親父が
「ダストストームを試してみるぞ!実践しないと上達しないからな」
と言い出して、微弱モードだというダストストームを経験する羽目になってしまった。
「ちゃんとしたサークレアができないと、巻き込まれるから真剣にやれよ。まあ、微弱だから死ぬことはないけどな」
そう言われた俺は、成功しても親父にバレない方法がないか、スーパーコンピューター並み・・は無理だから、お子様タブレット並みのスピードで考えまくったけど、結局思いつかないままダストストームに臨むことになってしまった。
とりあえず、適当にサークレアを作っとけばいいや。
確か、薄っすら光ったくらいの円をイメージするだけだと、薄くて脆いサークレアができたはずだ。
ダストストームも微弱にするって言ってたし、校庭にできるちっこい旋風くらいだろう。
「行くぞ」
声がかかって親父の方を見ると、まだサークレアは作っていない。
やっぱり大した事ないんだな。よしよし。
安堵して「オッケー!」と余裕の返事をした。
慣れないから、意識を集中するのが難しい。
特に、厚みの薄いサークレアを作るんだから、力の抜き加減に気をつけなければならない。
「フムムムム・・」
イメージを続けていると、身体の周りの空気が変わったのがわかる。周囲から砂粒の気配も消えた。
「よし!いい塩梅にできた!!」
目を開くと、もうもうとした砂煙が、恐ろしいスピードで近づいてくるところだった。
「え?これで本当に微弱??」
映画でしか見たことがないような巨大砂嵐が、今にも自分を飲み込もうと、目前まで迫っている。
「・・・これがダストストーム(微弱だけど)」
思わずゴクリとと唾を飲んだ。
親父!親父は!?サークレアを作ってなかったはず。
親父の方を見ると、まだサークレアの中にいなかった。
「良かった〜、やっぱ見た目だけで大した事ないんだ」
と安堵した次の瞬間、親父は光る球体の中に立っていた。
「えぇぇ・・そんぬぁ・・」
絶望に打ちひしがれた俺は、なす術もなくそのままダストストームに飲み込まれた。




