本部(14)
「いいか、へその10cmくらい下に丹田がある。ここを意識するんだ」
「たんでん?」
「牡丹の丹に、田んぼの田で丹田だ。人の体の重心と言われてるところで、武道とか東洋医学で重要な意味を持つところなんだよ。ここに意識を集中させて、中にある玉を意識するんだ」
「玉?」
「長老にもらっただろう?」
???
はて。なんか貰ったっけ?
首を捻っていると、親父が驚いた顔をした。
「お前、忘れたのか?あんなにショック受けてたのに」
・・・・!!!!!
「あー!!た、玉!?あん時の玉!?」
そうだ!
忘却の彼方にあった記憶が蘇ってきた!
あん時騙されて、ジジイの心臓だっていうキラキラ光る金色の玉を、ヘソから体に吸い込んじゃったんだっけ。
「た、玉!?玉が何かすんの!?おお、お、俺の身体が変わっちゃうとか?」
「落ち着け、落ち着けって。その玉を覚醒させてエネルギーを放出することで、サークレアを生み出せるようになるんだよ」
「だって、確かあん時、体を変える事ができるように心臓を入れたみたいなこと言ってたじゃん!」
「体を変えるってのが、どこまでを言ってるのかわからないが、サークレアを使うためには玉が必要なんだよ」
「・・・親父にも玉があんのかよ」
「あるさ、もちろん」
「俺だけがこんな目に遭わされてるんじゃねえの?」
「そんなわけないだろう」
「なら、見せてみろよ!」
もちろん無理に決まってる。
もし、親父がジジイに玉を貰っていたとしても、俺の玉が体の奥に入り込んで取れないように、親父の玉もまた取れないはずだから、見せられっこない。
そんなことわかってるけど、俺だけが玉を入れられたんじゃないかっていう気持ちが拭えなくて、思わず言ってしまった。
「ごめん、嘘・・ん?何してんの?」
親父が後ろを向いて服をゴソゴソいじっていた。
「いや、父さんの玉が見たいんだろ?」
「え?」
ゴソゴソゴソゴソ
「ほれ」
「うおぉぉ!?」
親父のヘソの下から神々しい光が出ている。
え?え?え?
驚きのあまり頭が真っ白になった。
俺のヘソも光んのかなぁ?
無意識にそんな事を考えていた。
・・・い・・・お・・・い・・
「おい!」
ビクッ
いきなり現実に引き戻された。
「まったく。お前が見せろって言うから見せてるのに、ノーリアクションなんだからなぁ」
親父はしっかり服を戻していた。
「あ、ああ・・・一緒に風呂入ったりしてたのに、気づかなかったわ」
意識をどこかに飛ばしたまま、抑揚なくそんな事を言った。
「バカ言うな。ワザと光らせてるんだよ。決まってるだろ」
「え!自由自在ってこと?」
「まあな。でも光らせたのは初めてだよ」
「だろうな。ホタルじゃあるまいし」
「おっ前が!お前が見せろって言ったんだろう!取り出すわけにもいかないから、光らないか試してみただけだよ。だいたいお前が・・・」
何のかんの言っている親父の文句をBGMに、俺は考えに耽っていた。
バリアになったり、光ったり、俺の中にある玉は何がどこまでできるんだろう?
玉の存在って一体なんだ?
ジジイの心臓とか言ってたけど、何のために入れられてるんだ?
親父にも玉があることは、玉を入れられたのは俺だけじゃないってことだ。良かったと言うべきなのか?
「まず丹田に意識を集中させると、玉の存在を感じるようになる」
「いきなり玉に意識を集中させちゃダメなんか?」
「う〜ん、丹田は武道に通ずるところがあって、体幹を安定させるためにも、ここも意識できるようになった方がいい。これは父さんが昔、藍善さんから言われた事だ。いきなり玉からでもいいのかもしれないが、父さんは丹田から始めてるから、何とも言えないな」
「ふうん。ダメな理由がないんなら、直接玉から始めてみるわ。その方が早い気がする」
「好きにやってみろ」
玉を意識する・・玉のこと考えればいいのか?
簡単に意識するって言われても、具体的にどうすりゃいいのかわかんないんだよな。
玉を探せばいいのかな?だったら、ヘソのあたりにあるはずだ。それは間違いない。
玉、玉、玉、玉、玉。
玉ねえ。
だいたい、「胃を意識しろ」とか「腎臓を意識しろ」なんて言われたってわかんないんだから、玉だってわかるわけないんだよ。
玉が光るとかあり得ねえし。
さっきみたいに光っちゃったら、清澤達と旅行にもプールにも行けねえんじゃね?
・・・
あーー!!プール!!
来週から水泳の授業始まんじゃん!!!
どうすんだよ!ヘソの下光らせながらプールなんて入れねえよ!!
ちっくしょーーー!!!
玉なんて玉なんて玉なんてーー!!
その時、突然体の芯、まさしくヘソの下が猛烈に熱くなった。
「うお!?うそ?え?熱っ!あ、熱っ!!うわぁ!!」
ピカーーーーー!!!
「ぎえーーーー!?」「おぉぉ!?」
光源から発せられたと思われる青白い光線が、真っ直ぐに宇宙を貫いた。
「すごい!すごいぞ!!」
親父の玉はただ単に光ってただけなのに、俺の玉からは青白い光線が発射されて、ポカンとしている俺とは対照的に、なぜか親父が大興奮している。
「あんな光の色と強さは初めて見たよ!お前、実は才能があるんじゃないか?」
「やめてくれぇ・・」
頭の中は「?」でいっぱいで、なんて言ったらいいのかわからなかったけど、やっとのことで、一言だけ返した。
とにかく、授業中におかしな光線を出すことがないようにしなければ。高校生活最後の水泳なのにすべて見学なんて惨すぎる。
その事が、ただひたすら頭の中でぐるぐる回っていた。




