表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/124

本部(13)

模擬火星での模擬練習で、タコバージョンもイカバージョンも、模擬地球と同じように8割がた成功するようになった。だけど、ここに至るまではマジで苦労の連続だった。

タコは余裕だったんだ。タコは。

問題はイカだった。

うっかりすると、ダミーはプカリと浮かんでどこかへ行ってしまうからだ。

せっかく模擬地球で練習して、軽いものから自分の体重ぐらいまで、いろんな重さのダミーを作れるようになったのに、単に自分と同じくらいの重さじゃダメだった。

もうやめよう。火星でイカは無理なんだよ。

何度も心が折れそうになった。いつもの俺だったら、間違いなく練習なんて放り出していたな、絶対。

だけど、もう少しで届く「金と名誉」!

くじけない心!健やかな体!

金色に輝くクラーケン様を思い浮かべて、鬼のように練習を繰り返した。そうこうしてるうちに、たまたま重心の位置が重要だと気づいたわけだ。

簡単に重心の位置とか言ってるけど、それを変えるだけでも、泣きたくなるくらいダミーを量産したんだから、俺にしては、めちゃくちゃ頑張ったと思う。

もうちょっとだ、100%近くまで成功できたら、親父がクラーケンが実在する証拠を探してくれるんだ!!

100%目指して練習すべく、ストローを咥えたところで

「そろそろダストストームを体験してみるか」

唐突に親父が言い出した。

「え?」

思わず耳を疑った。

いやいや、何かの聞き間違いだろう、そうに決まってきる。思わず被っていたフードを外して聞き返した。

「ちょ、ちょっとまて。もう一回言ってくれよ」

「ダストストームを体験しようって言ったんだよ」

「なに言っちゃってんの!?」

思わず口があんぐりと開いた。

ここまできて信じられない。成功率100%になったら、クラーケン様をゲットできると思ってたのに。

「嘘だろ!?また環境変えてやんの!?それってさっき言ってた砂嵐のことじゃねえの!?」

親父は「そうだ」と言って頷いた。

まさか砂嵐の中でもできるようになれってことなんか!?こっちは連続で練習してて、もう頭がクタクタだっていうのに。鬼じゃなかろうか。

「なんだよ、マジで勘弁してくれよ。そのストームの中で練習すんのかよ。ぜってぇ無理じゃね?」

ガックリを肩を落とした俺を見て、親父はハハハと声をあげて笑った。

「無理無理!あの嵐の中じゃ、到底無理だよ。そうじゃなくて、サークレアの練習をしようってことだ」

サークレア!?

「え!あのバリア?あれの練習すんの?」

思わず食いついた。自分の目がキラッキラ光るのがわかる。あれなら話は別だ。

「そうだ。やってみたくないか?」

「やる!やるやる!!なんだよ〜。あれを最初に教えてくれよ〜」

親父を肘でグリグリとつついた。

なんたって、あれさえ覚えちゃえば、俺のモットーである「安心・安全第一・安定」のうちの「安心」と「安全第一」がクリアできちゃうじゃん。

これはやるっきゃないでしょ!


「サークレアは数種類あって、どれも基本的に球形をしている」

地面に胡座をかいて並んで座り、いつの間にやら手に入れた棒で、親父は地面に絵を描いている。模擬火星には、砂と岩しかないから、どっかから持ってきたんだろう。

「体全体を球で囲むことで、どの方面からのダメージも防ぐことができるからだ。ただし、サークレアは止まった状態じゃないと作ることができないから、気をつけなくちゃいけない。何だそんなこと、と思うかもしれないが、敵の前で立ち止まるのには、勇気が必要だ。慌てていたら、サークレアは作れないから、まずは落ち着かなきゃいけない」

ん?

思わず眉を寄せた。

親父のヤツ、何だか物騒な事を言ってるな。敵の前で立ち止まるだって?敵は出てこないはずだったけど、またホラ吹いてるのか?

問いただしたい気持ちをグッと抑える。

不穏な臭いはするけど、今はとりあえず、バリアの張り方を教わらないと。ここは、話の腰を折らずに黙って聞くことにした。自分を守れないと困るからな。

そんな事を考えている俺のことはお構いなしに、親父は説明を続けた。

「まずは、基本中の基本、ライトサークレアからだ。普通「サークレア」というと「ライトサークレア」のことを指す。他のサークレアは、状況に合わせて使えたり使えなかったりするけど、ライトサークレアは万能だから、サークレアを使うとしたら、ほぼこれか、これの応用になる。完全防御ができる反面、中に入ったまま攻撃はできない」

「応用・・・そうか。初めて見たサークレアは、円柱みたいだったけど、あれも応用だったってことか」

「そうだ。基本的にサークレアは1人用で、経験上作れたのは最大で直径3m、つまり半径約150cmまでだった」

自分の周りで大きさをイメージしてみた。

「なるほど。直径3mだったら、そこそこの広さがあるよな」

「あくまで、俺が今まで作ったサークレアの中の最大だからな。条件や技術が伴わないと、直径2mがせいぜいってとこだ」

「う・・ん、まあ、2mならいいでしょ」

そう言うと、親父はチッチッチと立てた人差し指を振った。

「甘いな」

「え?だって直径2mでしょ?」

「2mの立方体じゃないぞ。球なんだから、顔の周りは2mなんかあるわけないだろ。少し小ぶりなウィトルウィウス的人体図のイメージだな」

「なにそのウィトルラ人体図って?」

「ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図だ。1人の人間の、直立と手足を広げたポーズが重ねて描いてあって、それを丸と四角で囲った絵だよ。ほら、こんな風になった絵」

親父が手足を広げた棒人間を描いて、丸と四角で囲んだ。

「あ!これ見たことある!」

「だろう。こんな風に、体の周りに光のバリアができるんだよ」

確かに、親父の絵を見ながらイメージを修正すると、狭苦しい感じがする。息苦しかったりするのか?

ムムムと考えていると、親父が俺の肩を叩いた。

「それを補って余りある安全が手に入るんだよ。お前、安全大好きだろう?」

「当たり前じゃん」

俺の返事を聞いた親父は、ニヤリと笑ってすっくと立ち上がると、俺の腕を持って立ちあがらせた。

「よし!じゃあやるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ