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本部(12)

そこからは、ダミー作りに没頭した。

紙のような、全身ほぼ2次元のダミー。

頭部は成功、体は2次元。

逆に体は成功、頭部は2次元。

黒いモヤモヤだけ。

前姿と後姿の区別がない。これは何回もあった。

全身球体。

のっぺらぼう。

春に道路で車に轢かれて潰れたカエルのようなダミーもあったし、骨格だけの時はビビった。

それでも、何度も繰り返しているうちに、自分に近いダミーが作れるようになってきた。

「なんとか形になってきたな」

「だろう?10回中8回はいい感じのダミーちゃんが作れるようになったゼ!」

我ながらよく頑張ったもんだと胸を張ってピースサインをする俺に、親父がダメ出しをしてきた。

「もう少しだな。残念ながら、100%にならないうちは、使いこなせてるとは言えないよ。たとえ100%になったとしても、安定しない環境下では、どうしても確率が落ちるからな。命が懸かってる場面で80%じゃ、まだまだ低すぎる」

!?命が懸かる!?

予想もしてなかったワードが出てきて仰天した。

「ちょ、ちょっと待てよ。そんな場面出てこないって言ったじゃん!約束が違う!」

食ってかかると、親父は慌てて否定した。

「仮にだ、仮に。お前じゃなくて、仲間がやられるかもしれないだろ?」

限りなく怪しいけど、深く追求するのはやめといた。なんたって、クラーケン情報を貰わなくちゃいけないからな。

金と名誉。ぐふふ。

「なあ、ここでやるのも飽きてきちゃったよ。他のシチュエーションないの?」

「そうだな、ちょっと場所を変えてみるか」

親父は何やらブツブツ呟いてから、

「やっぱり、まずはあそこだな。ほら、掴まれ」

と言って腕を差し出した。

「ボクは本部の方に戻ってるね」

「わかった。後で会おう」

ひとまずナノとはここで別れて、親父と2人、来た時と同じようなカップルスタイルでテレポートした。


ヒュンッ


「おおっ!」

数多の星々が、すぐ目の前に見えた。

吸い込まれそうでゾッとする。

ダメだ、メチャクチャ怖い。

クラクラと目が回って、気持ち悪くなってきた。

「お、親父・・気持ち悪い・・かも」

「大丈夫か?どうした」

「なんか、宇宙そらに吸い込まれそうで目が回る」

「そうか?わくわくしないか?」

「全っ然。怖くてしょうがない」

正直にそう言ったら、親父に「慣れるしかないな。大丈夫、すぐに慣れるよ」と優しく言われた。

宇宙に取り込まれそうな、自分が自分じゃなくなる感覚が続いている。テレビで観るぶんには、ただただ「綺麗」だと思ってた宇宙が、実際目の当たりにすると「畏怖」でしかない。よくわからないものだから、怖いのかもしれない。得体の知れない物への恐怖に似てるのかも。

・・・俺って気が小さいのかな。

そんな事ないと頭を振って、宇宙そらを見ないように視線を下げると、そこにあったのは草一本生えてない、見渡す限り赤茶色の世界だった。

「月の表面って赤茶色だったんだな」

月は、白とか黄色とかクリーム色に光っている。授業では、太陽の光が反射してるんだって教わったけど、こんな色の地面でも、遠くから見ると白く見えるなんて不思議だ。

「ここは月面じゃないぞ。屋内だ」

「え!?だって、ここ月なんでしょ?すぐそこ宇宙じゃん」

驚いた俺は、思わず右手で宇宙そらを指差した。

「どこだって宇宙の一部だよ。地球でもね。ここは、さっきとは別の溶岩チューブ、つまり月だ。ここには火星の環境が再現されてるんだよ。だから、本来の天井が見えないように宇宙空間の映像に差し替えられている。ほら、大丈夫そうなら1人で歩いてみろ」

親父に促されて組んでいた左腕を離した途端、体がふわっと軽くなったように感じた。

「え?なに?なんか体が軽くなった気がするんだけど?」

「ここは火星と同じ重力設定なんだよ。質量が変化するわけじゃないけど、重さは約3分の1だ」

「へぇ〜。じゃあ火星に行くとこんな感じなんだ」

質量とか重さとか言われてもよくわかんないけど、やぶ蛇になるから黙っておくことにする。

「具体的に説明するぞ。お前、体重何キロだ?」

「65kgぐらいかな」

「そうすると、火星の重力は地球の約3分の1だから、ここでは体重22kgぐらいの感覚になっているはずだ。もちろん、本当に体重が減ったわけじゃないけどな」

ふうん。なんか歩いててもすごく足取りが軽い。22kgってどんくらいだろ。年長とか1年生くらい?

これだけ軽くなったんだったら、そのぶん高く飛べるかも。そう思って、その場でジャンプした。

「よっ!・・うわ!?」

驚いた事に1m以上飛び上がって、不覚にもビビってしまった。何だか滞空時間も長くなったように感じる。

「す、すげえな」

「な!すごいだろう?宇宙って面白いんだよ。まだ気持ち悪いか?」

「いや、下を見るようにしたから大丈夫。火星って赤茶色なんだな」

「表面の岩とか砂に、酸化鉄がたくさん含まれてるから赤茶色なんだ。地球から見ても赤く見えるんだぞ」

酸化鉄って、確か中学の時に理科でやったな。簡単に言うと何だっけ?ゆで卵のやつだっけ?あれ?

塩?あ、塩は塩化ナトリウムだ。

えーっと、うーんと・・・サビだ!そうだ、サビだ!

「酸化鉄って、古くなった鉄が赤茶色になって崩れちゃうあれだろ?」

当然知ってます、みたいな涼しい顔で言った。

「お!よく知ってるな。そう、赤錆あかさびだ。火星ではこの砂を巻き上げて、ダストストームと呼ばれる猛烈な砂嵐が起こるんだよ。ここでは、砂嵐も再現されるんだけど、今はまだ感覚に慣れて欲しいから、砂嵐はオフにしている。慣れてきたら、砂嵐も経験してみよう。さ、練習だ」

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